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第五章 コジローの恋

第105話 コジローとモニカ、その後…

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とある森の中。

コジローは森の中を彷徨い、魔獣をみつけては、感情をぶつけるように斬り殺していた。

モニカの浮気が発覚し、コジローはモニカと離婚れる事を選択し、村を出たのであった。

モニカは実家に帰されたが―――実家と行っても、同じ村の中、コジローの家からも徒歩ですぐの場所にある「マドリー&ネリーの家」であるが―――コジローは、モニカとジョニーが抱き合っていたベッドで寝る気にはなれず、ベッドと寝具は外に運び出して燃やしてしまい、その後、代わりのベッドも入れていないのであった。

結局コジローは、マドネリ村の家に帰る気になれず、街へ行って、討伐依頼を片端から受けては、森を彷徨うようになったのである。


――――――――――――――――――――――――


コジローは、一人にさせてほしいと言い、マロを置いて転移でどこかへ行ってしまった。

だがマロは、コジローを追った。

転移で移動してしまうコジローを追うのは、普通であれば不可能である。

だが、コジローと従魔であるマロの絆は強い。

離れていても、マロにはコジローがどこに居るのか、なんとなく分かるのである。マロは神速の移動速度を発揮して、コジローの転移先へと走るのであった。

コジローは、マドネリ村、そしてアルテミルからなるべく離れた街へ移動していた。

だが、どこの街に移動しても、マロはコジローの居る街まで辿り着く。

主人なしで従魔だけで街に入ることはできないが、じっと街の外で待つのであった。

やがて、コジローが討伐依頼を受けて街から出てくると、マロはその後をついていった。かなり離れて歩き、遠くから黙ってコジローを見守る。

コジローも、魔物討伐のため索敵機能を起動するので、マロがついて来ているのに気づいていたが、何も言わなかった。

マロとコジローの距離は徐々に近づいていく。

やがて、二人は並んで歩くのであった。


――――――――――――――――――――――――


その後、コジローは、ウィルモア領内の街を転々としながら、その街のギルドに出ている討伐依頼を受ける生活をするようになった。

雑魚でも強敵でもお構いなし。複数の依頼を受ける。中には期限付きのものもあったが気にしなかった。依頼未達成であれば違約金も発生するのだが、金には困っていないので、違約金が発生しても問題なかった。ただ、期限が多少過ぎようとも、依頼は必ず達成していたので、それほど大きなペナルティにはならなかったのだが。

コジローが魔獣に対して振るう剣は、半ば八つ当たりであった。狩られる魔獣としては迷惑な話であるが、戦争の準備のために冒険者も騎士も減っている状況の中で、街の人にとってはありがたい事であった。



森の中で出会う魔物を次元剣で斬り飛ばし続けながら、コジローの心中には、怒り、悲しみ、恨み、諦め、その他、様々な感情が代わる代わる湧き出してくる。

モニカが面食いで、ジョニーに惹かれているのは最初から分かっていた事だったはずだ。

自分だって、美女に迫られたら、惹かれる気持ちがまったく起きないかと言えばそれは嘘になるだろう。

自分の顔は良く言って凡庸、決して女性に魅力を感じさせる顔ではない、それは重々理解している。その点は、日本に居た時の立場となんら変わらないのであった。(日本に居た時もコジローがモテた事はなかったのであった。)



モニカが自分の経済力が目当てで自分を選んだ事も、分かっていた事だった。

経済力もまた、人間の魅力のひとつだと割り切っていたつもりだった。

例えそれが選んだ理由であったとしても、選んだからには裏切らないでくれればそれで良かったのに・・・。

気持ちの上では揺れる事もあるのは仕方がない。誰でもあるだろう。だが、一線は超えてほしくなかった。

日本に居たときにはなかったが、今回の世界では財力はある、その点が違っていた。だが、体験してみれば結局、金を選ぶ女は、必ず見えないところで浮気をする、そんなものなのかも知れない。

自分に外見的魅力がないと言うことは十分理解できるが故に、諦めるしかない。



しょせん・・・

自分程度ではダメなんだろう。

自分には外見的な魅力はない、では、内面は魅力があると言えるか?

と考えても・・・

それも胸を張って言えるほどの魅力的な人間でもない。



ゼフトが言っていたように、しょせんは恋や愛など肉体の本能・欲望に根ざした自己満足に過ぎないのだろうか?

自分のモニカを愛しているという気持ちは、じつは単にモニカの外見を好んでいただけではないのか?

この世界には外見を変えられる魔物が居る。マロだって子犬になったり山より大きくなったりできる。

外見を変える魔法を使う人間も居るかもしれない。

仮に、モニカと完全に同じ容姿の別人の女が現れたら、自分はそれを愛せるのだろうか?
仮に、モニカがまったく違う外見になったら、それでも自分は愛せるのだろうか?

もし、自分の外見をモニカ好みに変えたら、モニカは愛してくれるのか・・・?

愛せるとしたら、中身は関係ないのか?
それともやはり中身、人間性が大切なのか?

だが、内面、人間性について言えるほど、相手を理解しているのか?

相手も、自分の内面をどれだけ知っているのか?



そもそも・・・

自分の中身・人間性は、人に愛してもらえるほど立派で魅力的であろうか・・・?




愛と言いながら、自分の欲望を満たすために相手が欲しいのではないのか?

相手のためを思うのが愛だというのなら、自分が不幸せであろうとも、自分の欲求が満たされなくとも、相手のために尽くすのが本当の愛ではないか?

モニカがジョニーと愛し合ってもらい、自分はモニカが幸せになれるよう金を出し、身を引く。モニカの幸せだけを思い尽くす。見返りは求めない。

それが本当の愛ってことなんだろうか?



モニカとジョニーの関係を認めれば、自分もまた、モニカの夫の立場を続けられるのかもしれないが・・・・

そんなのは受け入れられない。

別の男を選ぶなら、自分は縁を切る。

そこは意地がある。

笑って幸せを願って金を出してやるほど自分は人間ができてない。

日本人であった自分には、やはり妻や恋人の浮気を笑って許容する気持ちにはなれない。



コジローはそう思うのであった。



コジローは、モニカとの生活は、本当に幸せだった。

本当に、好きだった。

それは、もう、戻ってこない。

取り戻せない。

失った幸せな日々を思いながら、気がつけば、コジローは涙を流しながら剣を振り回しているのだった。。。



コジローを心配してついていったマロであったが、何もできず、ただ黙ってただ見守っているしかないのであった。。。


―――――――――――――――――――


モニカは、自室のベッドに座り、コジローの事を考えていた。

ネリーに問い質され、コジローは経済力だけ、ジョニーは顔が魅力だったと嘯いたモニカだったが、コジローが決して嫌いだったわけではないのである。

モニカも二人の生活は楽しかった。

モニカもコジローが好きだったのだ。

それを、失ってみて初めて実感したのである。



モニカは、この世界の人間としての意識が強かったが、歳を経るごとに前世の記憶が強く出るようになり、その意識と今回のモニカとしての人生の意識との折り合いがなかなか付かず、精神的に不安定な部分があったのである。

それ故の過ちであったのであるが・・・

失ってしまったものは、もう戻らないというのは分かっていた。

この世界に赤ん坊として生まれ育ったモニカと違い、コジローは前世の記憶・意識を保ったまま、いきなりこの世界に成人の年齢で誕生した。そのため、日本人として生きた意識のほうがまだまだ強い。

おそらく、コジローは、浮気は許してはくれないだろう。

日本人だった頃の自分であったら、自分の恋人や夫が浮気したら絶対に許さなかっただろうと思うのだ。

それが理解できるので、やり直したいなどとは言えなかった。

二人の道は、別れてしまったのだ・・・

コジローとの楽しかった生活を思い出し、モニカもまた、涙で頬を濡らしていた。。。


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