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第二章 街へ

第53話 フェイントで対抗

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メア「ギルマスが相打ちを狙っていると分かっているなら、それを躱しながら攻撃すればいいんじゃないの?」

ポーリン「そう簡単な話じゃないのよ。先に相手の攻撃があって、それを防御しながら反撃するのはそれほど難しくはないけど、自分の攻撃が先で、それに対する反撃を同時に防御するというのはかなり難しくなるのよ。

反撃を警戒しながらでは、及び腰の軽い攻撃しかできなくなっちゃうしね。

本気の攻撃はカウンターを合わせやすくなるだけだし。

木剣でも当たれば一撃で骨が砕けてしまう。ギルマスは打たれても構わない変態としても、ルークは打たれたくはないでしょう。

強力な鎧や盾などを装備してれば、受け止めながらって方法もあるだろうけど、今ルークは盾も鎧も持っていないんだから……なんかズルイわね、やっぱり」

メア「じゃぁ、ギルマスの攻撃が届かない遠くから攻撃したら?」

ポーリン「ルークよりギルマスのほうがずっと手足が長いでしょ。長い剣とか槍でも使えば別だろうけど、同じ長さの剣だしねぇ」

その時、ルークがギルマスの胸に向かって突きを放った。木剣の柄の一番下端を持っての片手突きである。これなら長さリーチを稼げる、剣を振りかぶっているキリングの攻撃はルークには届かないだろう。

だが、その考えが甘かった事はすぐに分かった。突き出されたルークの木剣がキリングの胸骨に当たると同時に、キリングは剣を豪快に振り下ろしてきたのだ。狙いは剣を突き出しているルークの腕である。

だが、ルークも反撃を警戒して軽く突いただけだったので、慌てて手を引っ込めて難を逃れた。思い切り突いていたら腕を折られていたであろう。

ポーリン「一瞬、その手があったか! と思ったけど、やっぱりダメだったわね……」

軽く突いただけなので、キリングの胸にも大したダメージはない。

今度は、ルークはフェイントを掛け始めた。

自分の攻撃が “後” であれば、対処のしようはある。つまり、先に攻撃をさせてしまえばよいと考えたのである。

以前、師であった剣聖フィル翁も「先の先」や「後の先」ということをチラッとルークに話した事があった。だが、それについてはフィル翁はあまり深くは説明しなかった。

ルークの剣は対魔物用であって、対人技術における高度な駆け引きついてはそれほど深くは教えなくて良いと、剣聖ではなく “ルークの爺ちゃん” としては考えたのである。

もちろん、理論的には説明せずとも、身体能力としてはちゃんと身に付けさせていた。ルークも頭では論理的には理解していなくとも、直感的にはそれらをちゃんと理解していたのである。

ルークの攻撃するフリフェイントに引っかかってキリングが反撃を開始してしまえば、後手必勝はそこで崩れる事になる。

そこからならば、ルークの技術ならどうとでも料理できるだろう。





実は、捨て身の相打ち戦法と言っても、細かく見れば、タイミングに微妙な違いがある。

(1)相打ち覚悟で前に出て、ギリギリで見切って躱しながら攻撃する

(2)相手が攻撃してくるタイミングに合わせて自分も攻撃する(防御は考えていない)

(3)相手に先に攻撃をさせておいて、それを身体で受けながら反撃する

(4)相手の攻撃を身で受け、その後反撃する

主に気持ちの問題なのだが、(1)はより通常の戦術に近く、後に行くにつれ “捨て身度” が高くなる。

もし相手の意識が(1)に近いならば、フェイントが有効である可能性が高い。

しかしキリングは、ルークのフェイントには乗ってこなかった。どうやら、自分が打たれるのを確実に待ってから攻撃をしてくる覚悟のようだ。キリングの戦法は、

(4)相手の攻撃を身で受け、斬られた後に反撃する

だったのである。

実は、本当は、キリングとしても(1)に近い戦い方をしたいのであるが、治癒魔法を使いながらなのでどうしても反撃に遅れが出るのである。

そう、キリングの戦法は、本当の意味では「捨て身」とは言えない。治療を後回しにて反撃を優先するほどの勇気はキリングにはなかったのである。(だからこそ、首を斬られながらも生還できたので、結果を見ればそれが正しかったのだが。)

だが、ルークがフェイントを掛け始めたことによって、キリングの出足も少し鈍った。妙な間の取り合い探り合いが始まる。

ポーリン「うーん、膠着状態ね」

メア「じゃぁギルマスが反応できないほどの速さで攻撃するとか」

ポーリン「そうね、ルークの本気の攻撃速度なら、あるいは……」

メアが言ったのは一つの正解であった。実はバッケンはその方法で勝ったのだ。

バッケンの神速の攻撃にキリングは反応できず、相打ちを取れずに打ちのめされてしまったのである。もちろん、打ちのめしてもその度にキリングは回復して向かってくるので「面倒な奴」とバッケンに言わしめたのだが。結局、バッケンは神速の二段攻撃でキリングの意識を刈り取って勝ったのだった。

だが、神速の攻撃を得意技として誇っていたバッケンと違い、実はルークは速攻はあまり得意とは言えなかった。

バッケンはフィルの全盛期に指導を受けた者であるが、ルークはその晩年に教えを受けた、その違いである。

剣聖フィルモアも歳を取るにつれ、その技術体系に変化があったのである。攻撃力に主眼を置いて鍛えられたバッケンと違い、ルークが教わったのは、相手の力に逆らわずに受け流しながら無理なく返す技術が中心であったのだ。

「受けて返す」が信条で「先制攻撃」は性格的にもそれほど好まないルークが、同じく「受けて返す」を得意とし自分からは攻めて来ない相手を仕留めなければいけないというのは、相性が良いとは言えないのであった。


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