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第一章 再会

第21話 裁定と処分

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ジャックから、嘘の報告をするから黙っていろと口止めされた事を、メンバー全員が証言した。

メンバーはポーリンの名誉を守るためだとジャックに言われたので黙っていたが、ポーリンが生きて帰った以上、隠す理由もない。

ただ、その後、帰還途中でポーリンが毒蛇に噛まれた件については、パーティのメンバーは誰も見ておらず、証拠がないという事になってしまった。

証拠も証言もない以上、ジャックとポーリンの主張は平行線になってしまう。

ジャックがあやしいのは誰が見ても明らかなのだが、証拠・証言が足りない。

この世界では(特に冒険者は)「疑わしきは罰せず」が徹底されている。証拠がなくとも証言が揃えば断罪可能なのであるが、その証言が揃わない以上どうにもならないのである。

ジャックが故意に毒蛇をポーリンに投げつけ、放置して逃げたと言う事であれば殺人容疑なのだが……

ジャックが故意ではないと主張、ポーリンも故意だったと明確には証明できないという事になると、それ以上は訴追できないという事になってしまう……。





クエスト中の “事故” というのは、ほとんど証拠が残らない。特にダンジョンの中では死体も吸収されて消えてしまうので、それを利用して冒険者の間で殺人事件なども起きている。

もちろん、クエストの最中に仲間を殺すなど、許される事ではない。発覚したら重い罪に問われる。だが、現実には、そのほとんどが証拠不十分で有耶無耶になってしまうのである。

今回もおそらく、ポーリンが戻らなければリーダーのジャックの報告がそのまま通って終了となっていただろう。





そして、殺人が故意でなかったとするならば、毒蛇に噛まれたポーリンを見捨ててしまった件については、黒に近いグレーだが、状況を鑑みて、そこまで悪質とは言えない(故意の殺人計画があったとまでは言えない)という判断が下されてしまったのであった。

通常、毒蛇に噛まれたくらいでは仲間を見捨てたりはしない。毒消しや【キュア】を使える者がいればその場で解決できるし、なくとも【ヒール】やポーションを使いながらなんとか街まで戻れれば助かるからである。

だが、パーティは毒の沼のクエストに失敗し、酷く疲弊していた。

毒消しは使い切っており(そもそも毒の沼に挑むのには持っていった数が少なかったのだが)、【キュア】を使えるキリも魔力が底をついており、歩くのが精一杯の状態だった。

確かに無理をすれば連れ帰れない事はなかったかも知れないが、万が一、途中で危険な魔物に出会ってしまったら全滅の可能性があった。(危険な魔物が多く出る地域からは脱していたのでその危険は低かったのだが、絶対にないかと言われれば、ないとは言い切れない。)

また、精神的ショックも大きく、混乱した精神状態で、全員、判断力が落ちており、リーダーの強い命令口調の指示に従ってしまったとサブリーダーのカリーも証言した。

そのような状況では、パーティとして毒に侵され倒れた仲間を見捨てたのは、“薄情な行為” ではあった、冒険者として未熟ではあったが、故意の犯罪とまでは言えないだろうという事になったのだ。





結論としては、

ジャックの殺人容疑は証拠不十分。
パーティとしては間違った行動はあったが犯罪とまでは言えない。

と言う事になってしまった。

幸いにも今回誰も死んでいないと言う事も、事態を軽く見られる一因となった。

ジャックが殺人の罪に問われないのは納得が行かないポーリンであったが、そもそも、クエスト中の冒険者は基本的には “自己責任” なのだ。

そう言われると何も言えなくなってしまう。

第三者が聞けば、魔物ですらないただの毒蛇に噛まれ、毒消しも切らせていたために動けなくなり、仲間に見捨てられたというのは、冒険者としては “間抜け” の誹りを受けるのは避けられないだろう。





結局、ギルドとしては、次のような処分が決定された。

ジャックは、嘘の報告をした事、また、パーティに不相応な依頼を受け、準備不足のまま挑んで仲間を危険に晒した事で、【罰金】と【厳重注意】、そして【冒険者ランク降格】の処分。

またジャックはリーダーとして不適切という事で、パーティリーダーはギルドの命令で強制解任。(後任はサブリーダーのカリーが繰り上がり就任)

連帯責任として、パーティ全体としても【厳重注意】と一週間の【活動停止】の処分。

また、ポーリンに対してパーティから、今回の件の謝罪として、慰謝料の支払いが命じられた。

パーティのメンバーは未熟・判断ミスを認め謝罪(ジャックも渋々謝罪)、和解となったのであった。



   * * * * *



ジャック「ま、まぁ、今回の事は悪かったけど、水に流すよ! また一緒に仲良くやろうぜポーリン!」

ポーリン「水に流すってのは加害者側の言うこっちゃないっつーの!」


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