上 下
8 / 66
序章

第8話 冒険者誕生……?

しおりを挟む
山の洞窟での生活は、しばらくは快適であった。

【クリーン】のおかげでいつも身体も衣服も住居も清潔であったし、森の中には果物も豊富であった。たまにみつける動物や魔物を狩って干し肉も順調に貯蓄していった。

手に入れたオークの剣と形見のナイフも、ちゃんと研いで切れ味を保っている。河原や森の中などで石を拾って刃を研いだのだ。様々な石を試して、そのうちちょうどよい感じの石をみつける事ができた。

毎日研いでいるうちに、オークの剣もかなり切れ味がよくなり、魔法を使わなくても動物や魔物を倒せるようになってきた。

ただ、たまに見かけるゴブリンだけは、不味くて干し肉にするのは諦めたのだが。もちろん【クリーン】を使って処理すれば臭いも消え、食べても害はないのだが、なにせ味が不味いのだ。

ゴブリンも群れで行動するので、数体ずつまとめて出る事が多いが、ゴブリンは弱い。ルークには【ドライ】もあるし、手に入れたオークの剣を振り回せばそれだけでも十分倒す事ができた。

だが、困るのはその死体である。持ち帰っても食料にはならない。しかし放置すれば腐って酷い悪臭が漂うようになる。冒険者ならば埋めるか燃やすのがルールであるが、身体の小さいルークにはそれも難しい。せめて、なるべく洞窟から離れた場所まで運んで捨てようとしたが、ルークにはそれだけでも大変な重労働であったのだ。

そこで、ルークはゴブリンに【ドライ】を掛けてみる事を思いついた。何度も重ね掛けし干からびるまで完全に乾かしてしまう。そうなれば、ゴブリンもただの燃料である。【クリーン】を使えば燃やしても臭いもしなくなる。それからは、ゴブリンは見つける度に殺して燃やして処分する事にした。

【ドライ】も繰り返しているうち、完全に干からびさせるのにそれほどの回数は必要なくなった。何度も繰り返し使った事でルークの【ドライ】はさらに強力になり、魔力も増えたのだ。





そんな風に、森の中でなんとかルークは一人で生きていた…。




そんなある日、ルークは森の中で一匹のオークを見つけた。

ゴブリンと違ってオークは手強い。一匹ならルークでも十分に倒せるが、群れとなると危険である。

だが、見回してみても周囲に他のオークは居ない。またはぐれ・・・オークだろう思い、干し肉にしてやろうとルークは後を追ったのだが……

実はそのオークははぐれ・・・ではなく、 “囮” だったのだ……。

巧妙に森の奥に誘い込まれたルークは、気がつけばオークの群れに囲まれていた。




オークはゴブリンよりも知恵が回る。人間の武器や鎧と同じようなものを使う。なぜ魔物がそんな “道具” を持っているのかルークには分からなかったが。

ルークは群れで襲われた時は逃げると決めていた。当然追われるが、逃げているうちに魔物と一対一になっていく。そうなれば一匹ずつ、【ドライ】で倒してしまう事もできるようになる。そんな知恵も、ルークは不思議と自然に閃くのであった。

だが、今回はそうは行かなかった。完全に周囲を囲まれ、逃げ道を塞がれていたのである。

囲まれたなら、囲みの一端を破って逃げるしかない。

ルークは一番近くにいたオークを【ドライ】で倒した。しかし、オークは三匹ずつグループを作ってルークを囲んでおり、一匹倒しているうちに別のオークに攻撃されてしまう。

何度か攻防を繰り返し、やっとルークは囲みの一箇所を破った。走り出すルーク。

しかし、その時背中に激しい痛みが走る。

見ると、肩の後ろに矢が刺さっていた。オークの中に、弓を使うものが居たのだ……

倒れるルーク。

オークはやはり危険であった。

武器を使い、知恵もある。力も強く動きも素早い。ルークのような幼い子供がオークの群れと戦うのはまったくの無謀でしかない。

ルークは、一人でも、森の中で生きていけると思っていた。

しかし、それはやはり、稚拙で無謀な考えであったのだ。

これまでは、たまたま危険な動物や魔物に出会わなかっただけなのである。

だが、いつまでもラッキーだけが続く事はない。いずれアンラッキーな出来事も起きる。そして、森の中ではそれは死に直結している……。

倒れたルークの背後にオークが迫る。

オークはニヤリと笑い、剣を持ち上げ、突き降ろした。

オークの剣が身体を貫く感触。

直後に激しい痛み。

薄れていく意識の中、ルークは自分の傷に【クリーン】を掛けていた。

(剣で貫かれた傷に【クリーン】を掛けても治りはしない。とはいえ仮に使ったのが【ヒール】であったとしても、剣で身体を貫かれた傷を治すことはできなかったであろうが。)

ルークはただ必死で、生き延びようと本能的にできる事を、一番自分が得意である魔法を使ったのであった…。

そして、ルークの意識は完全に闇に包まれたのであった……



  * * * * *



結局、シスター・アマリアは教会を出た。

そして、冒険者として登録した。

もちろん、ルークを探すためである。

もうルークは生きていないだろうと皆が言った。

アマリアも薄々そうじゃないかとは思っていた。

だが、せめて死体でもいいから見つけて弔ってやりたい。

弔われなかった死体はアンデッド化してしまう事がある。教会の教えでは、アンデッド化した魂は未来永劫彷徨い歩き、天国に行けなくなると言われていた。

もし、ルークがアンデッド化していたら、それを倒して魂を旅立たせてやるのも自分の責任だとアマリアは思っていたのだ。

アマリアの意志は固く、シスター長のココアレスも止める事ができなかった。

アマリアはシスターをきっぱりと辞めるつもりであったが、しかし、その必要はないと神父様が言った。どこに居ても神は見ている。たとえ冒険者をしていても、神に仕える事はできる、と。

そして、ルーク(の死体)をみつけたら、いつでも教会に連れ帰ってきなさいと言った。教会に墓を作り、きちんと祈りを捧げ、天国に送り出してあげようと言ってくれたのだ。

こうして、アマリアはシスターでありながら冒険者となったのであった。

だが、アマリアは華奢な細腕のシスターだったのだ。冒険者に登録したからと言って、いきなり強くなるわけでもない。だがアマリアは必死で学び、鍛えた。

やがていつしか、アマリアは見習い冒険者を卒業し、仲間を得て、一人前の冒険者として活動するようになった。

回復系魔法が得意であったアマリアはそれなりに冒険者達に重宝された。

そうして一人前になったアマリアは、冒険者として街の周辺で活動をしながら、毎日どこかにルークの足跡がないか探すようになったのだ。

だが……

…ルークの行方は杳として知れなかった。



   * * * * *



それからどれだけの月日が流れたであろうか、人々はすっかりルーク少年の事を忘れた。

アマリアだけはルークの事を忘れた事はなかったが。

そしてある日、ついにアマリアはルークと再会する事になる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

エノキスルメ
ファンタジー
ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あのクソ親のように卑劣で空虚な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め称える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これはちょっぴり歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載させていただいています

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

処理中です...