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第二話
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昨日うっすらと雲がかかっていた空は、今日はどんより曇っていた。
シュエラは起きてからこれまでの間に、暇があれば窓際に寄ってそんな空を見上げている。
今日の午後から当番に入ったミゼーヌたち三人の侍女は、シュエラのため息に気付いて、気鬱を晴らして差し上げようと口々に言った。
「王妃陛下が気に病まれることはございませんわ。あんな子、王妃陛下の侍女から外されて当然ですもの」
「身分をわきまえない恥知らずで、どれだけ王妃陛下の品位を汚してきたことか」
「幽閉されている現ラダム公爵のご子息付きの侍女だなんて、お似合いですわ」
自分たちの話を盛り上げようとしてか、上品な笑い声を立てる。
が、振り返ったシュエラの険しい顔を見て、息を飲んで黙り込んだ。
「セドルさんは、幽閉などされていません。次期ラダム公爵としてふさわしい教育を身につけるために、王城でお預かりしているのです。あなた方こそ身分をわきまえて言葉を慎みなさい。わたくしが、何のためにあなた方をわたくしの侍女にしたと思っているのですか? あなた方の評判を回復するためなのですよ」
シュエラが彼女たちに軽蔑しきった表情を見せたのは、これが初めてだった。
体の芯から凍りつかせるような冷たい視線を浴びて、ミゼーヌたち三人は震えあがる。
シュエラを本気で怒らせた恐怖から一番最初に立ち直ったのは、ミゼーヌだった。
自分が責められるのは納得いかないというように、語気を荒くして反論する。
「それは、あの子がわたくしたちの悪い噂を広めたから……!」
「ヘリオット殿の指示あってのことです。あなた方の噂は、国王陛下の評判を上げるために利用された。そういう意味であなた方は被害者だと言えます。わたくし付きの侍女から降ろされたからには、わたくしの侍女にもう一度ならなければ名誉は回復されないと思い、侍女にしました。ですが、あなた方はわたくしの取り計らいの意図に気付きもせず、問題ばかり起こす」
「それはあの子が」
更なる反論を、シュエラは怒りに震える声で遮る。
「カチュアにも悪いところはありました。あなた方の挑発に乗って反撃してしまった。十七歳ともなればもう分別がついてもいい年頃ですから、挑発し返すような真似はするべきではなかったのに。ですが、あなた方は何です? 過去の出来事の報復をしようと、悪口を言ったり嫌がらせをしたり。身分をかさにきて、カチュアに雑用を押しつけていたことも知っています。そして、知っているのはわたくしや国王陛下だけではないのですよ? 自分たちの以前の行いを棚に上げて逆恨みをする人を、他の人はどのような目で見るかわかっているのですか? それが、どれだけあなた方の評判を傷つけているのかも」
侍女たちは押し黙る。二人はしゅんとして。しかしミゼーヌだけは文句を呑みこむように。
シュエラはミゼーヌに目を向けてため息をついた。
「今後セドルさんは、わたくしのところへ頻繁にやってこられるようになります。その席に、カチュアはセドルさんの付き添いとして同行します。ごく親しい方々との席では、カチュアもわたくしたちと同じテーブルに着くこともあるでしょう。その時わたくしは、カチュアをもてなすようあなた方に指示します。その指示に従うことができるのであれば、あなた方の評判も少しはよくなるかもしれません。──考えを改めないのであれば、わたくしはこれ以上あなた方の面倒は見切れません。そのことをよくよく肝に銘じて、各々自分の進退について考えなさい」
その後、三人のうちミゼーヌは侍女を辞め、二人は残ってシュエラの指示に従った。
セドルの教育も始まり、シュエラが行う面談にカチュアを伴ってたびたび同席するようになる。
常はテーブルに着くセドルの背後に立って控えているが、シュエラの言った通り特に親しい貴族たちとの面談ではカチュアもテーブルに着くよう誘われることがあり、残った二人の侍女たちは黙ってカチュアにも給仕した。
皮肉な話だが、平民であるカチュアをもてなさなくてはならなくなった二人は、同情を集めることになった。ヘリオットが多少噂を操作したおかげもあって、誠意を込めてカチュアにも給仕しているという話は貴族たちの間で称賛され、やがて良縁に恵まれ侍女を辞して嫁いでいくことになる。
辞めていったミゼーヌは、その後遠縁の家に預けられたと噂に聞いたきり、以降の消息はわからない。
かつてシュエラの食事に薬を盛り、シグルドから温情を与えられるはずだった官司の話も、務めを辞し王城を去ったあとは杳として知れない。
プライドが大きいばかりに国王、王妃から与えられたチャンスを拒絶した二人を、この国の貴族社会が受け入れることは多分二度とない。その選択に二人が満足しているのか、あるいは後悔しているのか。それを知る日が来ることもないだろう。
セドルのお伴をして北館前の庭園を散策していたカチュアは、ある日ふとデインを見かけた。
久しぶりに目にした彼は、カチュアを見た途端、ひどく後悔した表情をして近寄ってくる。
何か言いたげに口を開くが、言葉を発する前にセドルを守る近衛隊士たちに阻まれた。
「通してくれ! オレはカチュアに──」
「国王陛下と王妃陛下、そしてセドル様のご命令だ。おまえがカチュアに近付くようなら、それを阻止するようにと」
「何だよ、それ!?」
わめくデインを尻目に、セドルはカチュアに声をかける。
「行こう」
「……はい、セドル様」
デインから遠ざかるように歩きだしたセドルに従って、カチュアはデインに背を向ける。
「カチュア……!」
その背にデインの呼ぶ声がすがって、カチュアの胸はしくりと痛んだ。
それから一カ月余りが過ぎ──。
たくさんの松明によって夜闇に浮かび上がった北館から、かすかに赤ん坊の泣き声が響いた。
それと同時に、王城内のあちこちから歓声が上がる。
国王夫妻の寝室は、外よりも大騒ぎだった。
室内に響き渡る赤ん坊の声に、お祝いの言葉がいくつも重なる。
「おめでとうございます!」
「元気な姫君でいらっしゃいますよ」
「なんておかわいらしい……」
「あなた方! お祝い申し上げるのは後にして、仕事をなさい」
「は、はい!」
ベッドの上がきれいに整えられ、シュエラに毛布がかけられると、ようやくシグルドが寝室内に迎え入れられた。
シグルドはまず、お産で疲労し、たくさんの枕に背中を預けるシュエラに近付いた。
「よく、頑張ったな」
「はい……」
「王女様のお支度が整いました」
産湯に浸からせおくるみに包まれた赤ん坊を、マントノンはシュエラの胸に預ける。シュエラが両腕でしっかり抱き取ると、シグルドはシュエラの傍らに腰かけて、一緒に赤ん坊の顔をのぞき込んだ。
「よくやった、シュエラ。いい子だ」
「ありがとうございます……」
礼を言って、シュエラは涙ぐむ。
シグルドはその涙に喜びとは違うものが混じるのに気付いて、気遣わしげに眉をひそめた。
シュエラは慌てて目尻を拭い、懸命に笑おうとする。
「申し訳ありません。この喜ばしい時に」
その笑顔が痛々しくて、シグルドはシュエラの首の後ろに腕を差し入れ、自分のほうへ軽く抱き寄せた。
「いや、気がかりがあるのだろう? ……カチュアのことか?」
周囲の者たちに聞こえないよう、小声で話す。
「はい……」
シグルドの気遣いに甘え、シュエラは素直に肯定した。
カチュアがそばにいてくれないことが、思ってた以上に寂しい……。
セシールは一月前に男児を出産し現在休職中で、フィーナもカレンもマチルダももちろんいない。
カチュアは本当なら今この場にいて、大喜びしてくれているはずだった。
だが、シュエラの王妃としての責任が、カチュアを自分から遠ざけることになってしまった。
セドルが積極的に面会やお茶会に出てくれるから、カチュアとも毎日のように会える。
けれど、シュエラの侍女でいてくれた時のように、ずっとそばにいてくれて、おしゃべりしたり、マントノンに隠れてこっそり笑い合うこともできない。
今宵、この喜ばしいことを、一緒に喜びあいたかったのに。
何故、もっとうまく取り計らってやれなかったんだろう。
心に何度も浮かんだ後悔の念が、再びシュエラを苛む。
きっとカチュアも、自分と同じ痛みを心の中に抱えている。
シグルドはシュエラの頭を自らの肩口に寄せた。
「気にしないで泣くといい。みなきっと、出産の喜びに涙が止まらないのだと思ってくれる」
その優しさが新たな涙を呼んで、シュエラはシグルドの肩口に顔を埋め、涙を流し続けた。
今夜の王城では、ほとんどの者たちが眠ろうとしていなかった。
昼過ぎにシュエラの陣痛が始まったことから、王城内では至る所で出産を待ち構える準備がなされ、夜半過ぎの今でも常の倍以上の松明が灯され、人々は喜びに沸き返っている。
カチュアも寝支度をせず、昼間のドレス姿のまま窓辺に佇んでいた。
どっちだったのかな……男の子? 女の子?
本当なら、今頃とっくに知ってるはずだった。
一番にお祝いを言って、マントノンにうるさいと叱られ、シュエラとこっそり笑い合っていたかもしれなかった。
そうできなくしてしまったのは自分。これは自業自得。
シュエラはカチュアを守るために、セドルにカチュアを託し自分から遠ざけた。
カチュアがもっとうまく立ちまわっていれば、こんなことにはならなかっただろうに。
扉がノックされ、しばらくしてから遠慮がちに開かれた。
「カチュア、起きてる……?」
「……はい」
返事があったことにほっとしたのか、セドルは中に入ってきて近付いてくる。
「聞いてきてもらったんだけど……王女様だったって」
セドルの心遣いはありがたかったけれど、カチュアはこれ以上答えることができなかった。
後悔と寂しさに、胸が押しつぶされそうで。
たった一カ月前なのに、シュエラのお世話をしていた頃が懐かしくて仕方ない。
そして、あんなにそばに寄られるのが嫌だったデインとの言い合いが、今はたまらなく恋しかった。
シュエラは起きてからこれまでの間に、暇があれば窓際に寄ってそんな空を見上げている。
今日の午後から当番に入ったミゼーヌたち三人の侍女は、シュエラのため息に気付いて、気鬱を晴らして差し上げようと口々に言った。
「王妃陛下が気に病まれることはございませんわ。あんな子、王妃陛下の侍女から外されて当然ですもの」
「身分をわきまえない恥知らずで、どれだけ王妃陛下の品位を汚してきたことか」
「幽閉されている現ラダム公爵のご子息付きの侍女だなんて、お似合いですわ」
自分たちの話を盛り上げようとしてか、上品な笑い声を立てる。
が、振り返ったシュエラの険しい顔を見て、息を飲んで黙り込んだ。
「セドルさんは、幽閉などされていません。次期ラダム公爵としてふさわしい教育を身につけるために、王城でお預かりしているのです。あなた方こそ身分をわきまえて言葉を慎みなさい。わたくしが、何のためにあなた方をわたくしの侍女にしたと思っているのですか? あなた方の評判を回復するためなのですよ」
シュエラが彼女たちに軽蔑しきった表情を見せたのは、これが初めてだった。
体の芯から凍りつかせるような冷たい視線を浴びて、ミゼーヌたち三人は震えあがる。
シュエラを本気で怒らせた恐怖から一番最初に立ち直ったのは、ミゼーヌだった。
自分が責められるのは納得いかないというように、語気を荒くして反論する。
「それは、あの子がわたくしたちの悪い噂を広めたから……!」
「ヘリオット殿の指示あってのことです。あなた方の噂は、国王陛下の評判を上げるために利用された。そういう意味であなた方は被害者だと言えます。わたくし付きの侍女から降ろされたからには、わたくしの侍女にもう一度ならなければ名誉は回復されないと思い、侍女にしました。ですが、あなた方はわたくしの取り計らいの意図に気付きもせず、問題ばかり起こす」
「それはあの子が」
更なる反論を、シュエラは怒りに震える声で遮る。
「カチュアにも悪いところはありました。あなた方の挑発に乗って反撃してしまった。十七歳ともなればもう分別がついてもいい年頃ですから、挑発し返すような真似はするべきではなかったのに。ですが、あなた方は何です? 過去の出来事の報復をしようと、悪口を言ったり嫌がらせをしたり。身分をかさにきて、カチュアに雑用を押しつけていたことも知っています。そして、知っているのはわたくしや国王陛下だけではないのですよ? 自分たちの以前の行いを棚に上げて逆恨みをする人を、他の人はどのような目で見るかわかっているのですか? それが、どれだけあなた方の評判を傷つけているのかも」
侍女たちは押し黙る。二人はしゅんとして。しかしミゼーヌだけは文句を呑みこむように。
シュエラはミゼーヌに目を向けてため息をついた。
「今後セドルさんは、わたくしのところへ頻繁にやってこられるようになります。その席に、カチュアはセドルさんの付き添いとして同行します。ごく親しい方々との席では、カチュアもわたくしたちと同じテーブルに着くこともあるでしょう。その時わたくしは、カチュアをもてなすようあなた方に指示します。その指示に従うことができるのであれば、あなた方の評判も少しはよくなるかもしれません。──考えを改めないのであれば、わたくしはこれ以上あなた方の面倒は見切れません。そのことをよくよく肝に銘じて、各々自分の進退について考えなさい」
その後、三人のうちミゼーヌは侍女を辞め、二人は残ってシュエラの指示に従った。
セドルの教育も始まり、シュエラが行う面談にカチュアを伴ってたびたび同席するようになる。
常はテーブルに着くセドルの背後に立って控えているが、シュエラの言った通り特に親しい貴族たちとの面談ではカチュアもテーブルに着くよう誘われることがあり、残った二人の侍女たちは黙ってカチュアにも給仕した。
皮肉な話だが、平民であるカチュアをもてなさなくてはならなくなった二人は、同情を集めることになった。ヘリオットが多少噂を操作したおかげもあって、誠意を込めてカチュアにも給仕しているという話は貴族たちの間で称賛され、やがて良縁に恵まれ侍女を辞して嫁いでいくことになる。
辞めていったミゼーヌは、その後遠縁の家に預けられたと噂に聞いたきり、以降の消息はわからない。
かつてシュエラの食事に薬を盛り、シグルドから温情を与えられるはずだった官司の話も、務めを辞し王城を去ったあとは杳として知れない。
プライドが大きいばかりに国王、王妃から与えられたチャンスを拒絶した二人を、この国の貴族社会が受け入れることは多分二度とない。その選択に二人が満足しているのか、あるいは後悔しているのか。それを知る日が来ることもないだろう。
セドルのお伴をして北館前の庭園を散策していたカチュアは、ある日ふとデインを見かけた。
久しぶりに目にした彼は、カチュアを見た途端、ひどく後悔した表情をして近寄ってくる。
何か言いたげに口を開くが、言葉を発する前にセドルを守る近衛隊士たちに阻まれた。
「通してくれ! オレはカチュアに──」
「国王陛下と王妃陛下、そしてセドル様のご命令だ。おまえがカチュアに近付くようなら、それを阻止するようにと」
「何だよ、それ!?」
わめくデインを尻目に、セドルはカチュアに声をかける。
「行こう」
「……はい、セドル様」
デインから遠ざかるように歩きだしたセドルに従って、カチュアはデインに背を向ける。
「カチュア……!」
その背にデインの呼ぶ声がすがって、カチュアの胸はしくりと痛んだ。
それから一カ月余りが過ぎ──。
たくさんの松明によって夜闇に浮かび上がった北館から、かすかに赤ん坊の泣き声が響いた。
それと同時に、王城内のあちこちから歓声が上がる。
国王夫妻の寝室は、外よりも大騒ぎだった。
室内に響き渡る赤ん坊の声に、お祝いの言葉がいくつも重なる。
「おめでとうございます!」
「元気な姫君でいらっしゃいますよ」
「なんておかわいらしい……」
「あなた方! お祝い申し上げるのは後にして、仕事をなさい」
「は、はい!」
ベッドの上がきれいに整えられ、シュエラに毛布がかけられると、ようやくシグルドが寝室内に迎え入れられた。
シグルドはまず、お産で疲労し、たくさんの枕に背中を預けるシュエラに近付いた。
「よく、頑張ったな」
「はい……」
「王女様のお支度が整いました」
産湯に浸からせおくるみに包まれた赤ん坊を、マントノンはシュエラの胸に預ける。シュエラが両腕でしっかり抱き取ると、シグルドはシュエラの傍らに腰かけて、一緒に赤ん坊の顔をのぞき込んだ。
「よくやった、シュエラ。いい子だ」
「ありがとうございます……」
礼を言って、シュエラは涙ぐむ。
シグルドはその涙に喜びとは違うものが混じるのに気付いて、気遣わしげに眉をひそめた。
シュエラは慌てて目尻を拭い、懸命に笑おうとする。
「申し訳ありません。この喜ばしい時に」
その笑顔が痛々しくて、シグルドはシュエラの首の後ろに腕を差し入れ、自分のほうへ軽く抱き寄せた。
「いや、気がかりがあるのだろう? ……カチュアのことか?」
周囲の者たちに聞こえないよう、小声で話す。
「はい……」
シグルドの気遣いに甘え、シュエラは素直に肯定した。
カチュアがそばにいてくれないことが、思ってた以上に寂しい……。
セシールは一月前に男児を出産し現在休職中で、フィーナもカレンもマチルダももちろんいない。
カチュアは本当なら今この場にいて、大喜びしてくれているはずだった。
だが、シュエラの王妃としての責任が、カチュアを自分から遠ざけることになってしまった。
セドルが積極的に面会やお茶会に出てくれるから、カチュアとも毎日のように会える。
けれど、シュエラの侍女でいてくれた時のように、ずっとそばにいてくれて、おしゃべりしたり、マントノンに隠れてこっそり笑い合うこともできない。
今宵、この喜ばしいことを、一緒に喜びあいたかったのに。
何故、もっとうまく取り計らってやれなかったんだろう。
心に何度も浮かんだ後悔の念が、再びシュエラを苛む。
きっとカチュアも、自分と同じ痛みを心の中に抱えている。
シグルドはシュエラの頭を自らの肩口に寄せた。
「気にしないで泣くといい。みなきっと、出産の喜びに涙が止まらないのだと思ってくれる」
その優しさが新たな涙を呼んで、シュエラはシグルドの肩口に顔を埋め、涙を流し続けた。
今夜の王城では、ほとんどの者たちが眠ろうとしていなかった。
昼過ぎにシュエラの陣痛が始まったことから、王城内では至る所で出産を待ち構える準備がなされ、夜半過ぎの今でも常の倍以上の松明が灯され、人々は喜びに沸き返っている。
カチュアも寝支度をせず、昼間のドレス姿のまま窓辺に佇んでいた。
どっちだったのかな……男の子? 女の子?
本当なら、今頃とっくに知ってるはずだった。
一番にお祝いを言って、マントノンにうるさいと叱られ、シュエラとこっそり笑い合っていたかもしれなかった。
そうできなくしてしまったのは自分。これは自業自得。
シュエラはカチュアを守るために、セドルにカチュアを託し自分から遠ざけた。
カチュアがもっとうまく立ちまわっていれば、こんなことにはならなかっただろうに。
扉がノックされ、しばらくしてから遠慮がちに開かれた。
「カチュア、起きてる……?」
「……はい」
返事があったことにほっとしたのか、セドルは中に入ってきて近付いてくる。
「聞いてきてもらったんだけど……王女様だったって」
セドルの心遣いはありがたかったけれど、カチュアはこれ以上答えることができなかった。
後悔と寂しさに、胸が押しつぶされそうで。
たった一カ月前なのに、シュエラのお世話をしていた頃が懐かしくて仕方ない。
そして、あんなにそばに寄られるのが嫌だったデインとの言い合いが、今はたまらなく恋しかった。
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