7 / 42
第一話
7
しおりを挟む
北館西側にある近衛隊訓練場。試合をするための場所が空けられている他は、すべて人で埋め尽くされていた。見学できる近衛隊士を集める際に、侍従や官司、衛兵までも集めてきてしまったらしく、いろいろな服装をした人々が、試合が始まるのを今か今かと待っている。
上着を脱いで皮の簡易防具を身に付けたヘリオットが試合場に現れると、観衆のあちこちから歓声が上がった。子爵の出でありながら国王側近にまで昇りつめたヘリオットに、あこがれを抱く者は多い。それがまた、デインのしゃくに障る。
こんな奴のどこがいいんだよ。
デインはそう思わずにいられない。
ヘリオットは元近衛隊士で、国で一、二を争う剣の腕前を持っていて、貴族の中では身分が低いながらも、国王の側近になるほど有能な人物だ。
だが、人間的に好きになれない。どうしても許せないのだ。
「さ、始めようか」
ヘリオットが訓練用の刃をつぶしてある剣を片手で構えるのを合図に、デインは両手で剣を構える。それを見てふっと笑うヘリオットに、また腹が立つ。同じ訓練用の剣。ヘリオットは片手で軽々と持てるのに、腕の筋肉が足らないデインにはそれができない。ヘリオットにはそれがわかっていて、また、虚勢を張ることなく自分の力量に合わせて構えたデインを、子どもをほめるがごとく優しげに笑って見せたのだ。
まるっきり相手にされてない。
そのことが、デインの闘志に火をつける。
「でやー!!!」
掛け声とともに切り込んでいく。力いっぱい振り下ろした剣は、刃こそ合わせてもらえたものの、力を横に流されてしまう。ヘリオットの脇に前のめりに倒れそうになってしまったというのに、ヘリオットはその隙に攻撃してくることなく、間合いをとってデインが体勢を整えるのを待っている。それにますます腹が立って、デインはがむしゃらに打ち込んでいった。
「えいっ! やぁ! とりゃあ!」
キンキン鳴り響く剣戟の音。休む暇もなく繰り出すデインの剣は、ヘリオットに難なく受け止められてしまう。下から切り上げたり、テンポをずらしてみたりしても、危なげなく受け流される。
もっと隙を突かなきゃダメだ……っ!
剣を振り続け息が上がる中、ヘリオットの動きを窺い懸命に隙を探す。
その途中で気付いてしまった。
ヘリオットの動きは、デインのよく知っている動きばかり。
訓練で何度もやらされた基本の型。
切り降ろされた剣を両手で持った剣を斜めに構えて受け。
横から攻撃すれば剣先を地面に向ける形で構えて防ぎ。
斜めから切りつけられる剣に対しても、ヘリオットなら片手でしのげそうなところを、基本に忠実に、柄に両手を添えて受け止める。
それらの動きを、デインの動きに合わせて流れるように形作っていく。
こうして実戦に用いられると、何の役に立つのかさっぱりわからなかった基本の型も、どれだけ実戦に即したものなのかよく理解できた。最小限の動きで最大限の効果を発揮する。無駄がなく、確実。自分の間違いを認めることになって悔しいけど、確かに基本の型を体に叩き込むのは重要だ。
気付いた途端、デインは剣の持ち方を変えた。簡単に持ち替えしやすい軽い握りから、両手で柄をしっかりつかむ、基本の剣の構え方へ。
そして基本の型を繰り出す。
ギィン!
一番最初の渾身の一撃より手ごたえを感じる。そのことに感心して手を休めてしまうことなく、順番通り打ち込んでいく。それに対するのは、やはり基本の防御の型。
上手く打ち込めなかった型はやり方を正しつつ、やがて順番を崩していく。
ヘリオットがにやり笑った。
隙を突いて攻撃を仕掛けてくる。デインはとっさに基本の防御の姿勢を取る。しぶしぶながらも二週間繰り返してきた動作はすんなりと体を動かし、ヘリオットの攻撃をきちんと防いだ。
このあとは試合らしい試合にならなかった。お互いに基本の攻撃と防御を繰り返す様子は、あらかじめ手順の定められた演武のように観衆の目を惹きつけ、そして基本の型の重要性を知らしめる。
どのくらい打ち合っていたのか。
実力が圧倒的に劣り、最初に無茶な戦い方をしたデインは、すでに息が切れてへとへとになっていた。意識がもうろうとしてきて、一度は基本を忠実になぞっていた剣筋も、集中力を欠き崩れていく。
見切りをつけたのか、ヘリオットは今までのゆるい攻撃から一転、刃と刃が合わさったかと思うと、体重をかけて押し込み、デインを地面に転がしてしまう。
「ここまでだな」
ヘリオットが仰向けに転がったデインの顔に切っ先を向けて言うと、固唾を飲んで見守っていた観衆はわっと歓声を上げた。
ヘリオットを讃える掛け声の中に、デインをほめる声も聞こえる。
「デインもよく頑張ったぞ!」
「やるなぁ! さすが王妃陛下の弟!」
ほめられても嬉しくない。
歴然とした差を見せつけられる試合となってしまった。指導官でさえ相手にならないと感じるほどの強さ。これでもかというくらい手加減されていてもこのザマだ。本気を出したらどれほど強いのか、底知れない。
強さは認める。でもこんな奴にまけるなんて。
悔しかった。十五年生きてきた人生の中で、一番悔しかった。
疲労もあって立ち上がれないデインを尻目に、ヘリオットは指導官に話しかける。
「これからは初心者にも剣の打ち合いをさせてみるといいよ。型を覚えきってないのに全部やるのは危なっかしいから、一つか二つでいい。自分が何のために基本の型を覚えさせられてるのか理解できてないと、訓練にも身が入らないからね。あと腕の立つ者たちに、さっきみたいな基本の型だけで打ち合う試合をさせて、それを他の奴らに見学させて。双方のいい勉強になるから」
「は! 了解しました!」
興奮冷めやらぬ、未だ解散しようとしない観衆の中、剣を鞘におさめたヘリオットが、にっと笑ってデインを見下ろした。
「基本がいかに大事か、身を以ってわかっただろ? これからはもっと真面目に励むんだね。それと、俺が勝ったから言うことを聞いてもらう約束だけど」
そこで言葉を切り、日頃へらへらした表情をヘリオットは引き締める。
「カチュアちゃんへのプロポーズを撤回して、二度と彼女を煩わせないでくれ」
デインは目がくらむほどの怒りを覚えた。
勢いよく立ち上がり、ヘリオットの顔にこぶしを振り上げる。
他の者から話しかけられてデインから注意をそらしていたヘリオットだったが、かろうじてのところでそのこぶしをかわした。
「おわっと!」
かわされてもなお、デインはヘリオットに殴りかかっていく。
「何が“煩わせないでくれ”だ! カチュアを一番煩わせてるのはあんたじゃないか!」
「何をしている!」
「やめろ、デイン!」
こぶしは一発もヘリオットに当たらないまま、デインは周囲の人間に取り押さえられた。
上着を脱いで皮の簡易防具を身に付けたヘリオットが試合場に現れると、観衆のあちこちから歓声が上がった。子爵の出でありながら国王側近にまで昇りつめたヘリオットに、あこがれを抱く者は多い。それがまた、デインのしゃくに障る。
こんな奴のどこがいいんだよ。
デインはそう思わずにいられない。
ヘリオットは元近衛隊士で、国で一、二を争う剣の腕前を持っていて、貴族の中では身分が低いながらも、国王の側近になるほど有能な人物だ。
だが、人間的に好きになれない。どうしても許せないのだ。
「さ、始めようか」
ヘリオットが訓練用の刃をつぶしてある剣を片手で構えるのを合図に、デインは両手で剣を構える。それを見てふっと笑うヘリオットに、また腹が立つ。同じ訓練用の剣。ヘリオットは片手で軽々と持てるのに、腕の筋肉が足らないデインにはそれができない。ヘリオットにはそれがわかっていて、また、虚勢を張ることなく自分の力量に合わせて構えたデインを、子どもをほめるがごとく優しげに笑って見せたのだ。
まるっきり相手にされてない。
そのことが、デインの闘志に火をつける。
「でやー!!!」
掛け声とともに切り込んでいく。力いっぱい振り下ろした剣は、刃こそ合わせてもらえたものの、力を横に流されてしまう。ヘリオットの脇に前のめりに倒れそうになってしまったというのに、ヘリオットはその隙に攻撃してくることなく、間合いをとってデインが体勢を整えるのを待っている。それにますます腹が立って、デインはがむしゃらに打ち込んでいった。
「えいっ! やぁ! とりゃあ!」
キンキン鳴り響く剣戟の音。休む暇もなく繰り出すデインの剣は、ヘリオットに難なく受け止められてしまう。下から切り上げたり、テンポをずらしてみたりしても、危なげなく受け流される。
もっと隙を突かなきゃダメだ……っ!
剣を振り続け息が上がる中、ヘリオットの動きを窺い懸命に隙を探す。
その途中で気付いてしまった。
ヘリオットの動きは、デインのよく知っている動きばかり。
訓練で何度もやらされた基本の型。
切り降ろされた剣を両手で持った剣を斜めに構えて受け。
横から攻撃すれば剣先を地面に向ける形で構えて防ぎ。
斜めから切りつけられる剣に対しても、ヘリオットなら片手でしのげそうなところを、基本に忠実に、柄に両手を添えて受け止める。
それらの動きを、デインの動きに合わせて流れるように形作っていく。
こうして実戦に用いられると、何の役に立つのかさっぱりわからなかった基本の型も、どれだけ実戦に即したものなのかよく理解できた。最小限の動きで最大限の効果を発揮する。無駄がなく、確実。自分の間違いを認めることになって悔しいけど、確かに基本の型を体に叩き込むのは重要だ。
気付いた途端、デインは剣の持ち方を変えた。簡単に持ち替えしやすい軽い握りから、両手で柄をしっかりつかむ、基本の剣の構え方へ。
そして基本の型を繰り出す。
ギィン!
一番最初の渾身の一撃より手ごたえを感じる。そのことに感心して手を休めてしまうことなく、順番通り打ち込んでいく。それに対するのは、やはり基本の防御の型。
上手く打ち込めなかった型はやり方を正しつつ、やがて順番を崩していく。
ヘリオットがにやり笑った。
隙を突いて攻撃を仕掛けてくる。デインはとっさに基本の防御の姿勢を取る。しぶしぶながらも二週間繰り返してきた動作はすんなりと体を動かし、ヘリオットの攻撃をきちんと防いだ。
このあとは試合らしい試合にならなかった。お互いに基本の攻撃と防御を繰り返す様子は、あらかじめ手順の定められた演武のように観衆の目を惹きつけ、そして基本の型の重要性を知らしめる。
どのくらい打ち合っていたのか。
実力が圧倒的に劣り、最初に無茶な戦い方をしたデインは、すでに息が切れてへとへとになっていた。意識がもうろうとしてきて、一度は基本を忠実になぞっていた剣筋も、集中力を欠き崩れていく。
見切りをつけたのか、ヘリオットは今までのゆるい攻撃から一転、刃と刃が合わさったかと思うと、体重をかけて押し込み、デインを地面に転がしてしまう。
「ここまでだな」
ヘリオットが仰向けに転がったデインの顔に切っ先を向けて言うと、固唾を飲んで見守っていた観衆はわっと歓声を上げた。
ヘリオットを讃える掛け声の中に、デインをほめる声も聞こえる。
「デインもよく頑張ったぞ!」
「やるなぁ! さすが王妃陛下の弟!」
ほめられても嬉しくない。
歴然とした差を見せつけられる試合となってしまった。指導官でさえ相手にならないと感じるほどの強さ。これでもかというくらい手加減されていてもこのザマだ。本気を出したらどれほど強いのか、底知れない。
強さは認める。でもこんな奴にまけるなんて。
悔しかった。十五年生きてきた人生の中で、一番悔しかった。
疲労もあって立ち上がれないデインを尻目に、ヘリオットは指導官に話しかける。
「これからは初心者にも剣の打ち合いをさせてみるといいよ。型を覚えきってないのに全部やるのは危なっかしいから、一つか二つでいい。自分が何のために基本の型を覚えさせられてるのか理解できてないと、訓練にも身が入らないからね。あと腕の立つ者たちに、さっきみたいな基本の型だけで打ち合う試合をさせて、それを他の奴らに見学させて。双方のいい勉強になるから」
「は! 了解しました!」
興奮冷めやらぬ、未だ解散しようとしない観衆の中、剣を鞘におさめたヘリオットが、にっと笑ってデインを見下ろした。
「基本がいかに大事か、身を以ってわかっただろ? これからはもっと真面目に励むんだね。それと、俺が勝ったから言うことを聞いてもらう約束だけど」
そこで言葉を切り、日頃へらへらした表情をヘリオットは引き締める。
「カチュアちゃんへのプロポーズを撤回して、二度と彼女を煩わせないでくれ」
デインは目がくらむほどの怒りを覚えた。
勢いよく立ち上がり、ヘリオットの顔にこぶしを振り上げる。
他の者から話しかけられてデインから注意をそらしていたヘリオットだったが、かろうじてのところでそのこぶしをかわした。
「おわっと!」
かわされてもなお、デインはヘリオットに殴りかかっていく。
「何が“煩わせないでくれ”だ! カチュアを一番煩わせてるのはあんたじゃないか!」
「何をしている!」
「やめろ、デイン!」
こぶしは一発もヘリオットに当たらないまま、デインは周囲の人間に取り押さえられた。
0
お気に入りに追加
489
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
これがわたしの旦那さま 短編集
市尾彩佳
恋愛
アルファポリスさんから書籍化していただいた「これがわたしの旦那さま」関連の短編を収録しています。ブログ移転にともない、引っ越ししてきた短編を加えました。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる