上 下
40 / 49
第四章:謝罪編

037:逆恨

しおりを挟む
「……お?」
「ひ、ひひひひひ……!」


 今何が起こった?
 普通に宿に向けて歩いてたら……何か女が飛び出してきて、ぶつかって、何かが刺さって……あぁ。



 俺、今刺されてるのか。



「きーーーきゃあああああああああ!?」
「神様ーーー!?」


 俺が腹に刺さってる刃物に……なんか見覚えがある意匠の短刀に気づくと、俺の隣に回ってきたアリア達が騒ぎ出した。

 うるせぇな……たかが刺されたぐらいで騒ぎやがって。
 つーかシェスカ、お前そんな慌ててる割にはルルの目を塞ぐの忘れないのな。ありがたいけどよ。


「……そんでおたく、何してくれてんの? てか、誰?」
「あは、あはははははは!! やった、やってやったわ! 最高の気分だわあはははは!!」


 急に俺を刺してきた女に聞いてみるけど、げらげらと狂ったように笑うだけで話にならねぇ。

 そんで誰なわけ? 顔はこけてるし目は血走ってるし、格好は汚れまくってるし襤褸襤褸だし、こんな知り合いがいた覚えないんだけど。
 何? 俺になんか恨みでもあった? あんたに見覚えなんて……ほんのちょっぴりしかないんだけど、本当に誰なの?


「何だこの女! 危ねぇぞ!」
「取り押さえろ! ラグナから引き剥がせ!!」
「あははははは……もう無駄よ! 無駄! その屑はもう助からない! 呪いの報いを受けた! 私をこんな目に遭わせた事を後悔して死ぬのよ! あーっははははは!!」


 笑い転げる女を、周りにいた連中が戸惑いながらも取っ捕まえて、地面に押し倒す。本人も全然抵抗しなかったからあっさり捕まったな。
 それでも笑うのをやめない女に、捕まえた連中がかなり引いてるのが見える……気持ち悪ぅ。


 しかし、なんか滅茶苦茶恨まれてるな……あー、でもおかげでちょっとずつ思い出せてきた気がする。

 確か冒険者組合で……受付やってなかったっけ?
 そうだそうだ。あんまり顔を見た事ない新人ちゃんだったな……あぁ、そうだ。

 勝手に俺を毛嫌いして、口座を封じた上に冒険者登録を抹消したんだったか。流石に腹が立ったもんで忘れてたわ。


「あ、あんた! しっかりして! 死んじゃいやよ、嫌ぁ!!」
「無駄だって言ってんじゃない! そいつは死ぬ! ただ死ぬんじゃないわ、呪われて永遠に苦しみながら終わるのよ! あひゃはははは!!」
「しゃべるな、こいつめ!」
「縛り上げろ!!」


 俺がようやく相手の女のことを思い出してすっきりしてる間に、アリアが泣きながら俺の腹に手を当ててくる。
 ちょ、やめて。そんなに強く押されるとさっき食った分が出てくるから、とんでもない事になるから。

 ……おっと、刺さってた短刀が抜けた。
 ていうかこの意匠、やっぱ見覚えがあるんだよな……どこで見たんだっけ?


「無駄だって言ってんでしょぉ!? その短刀はねぇ、呪いの武器なの! 刺さった者に凄まじい苦しみを与えて必ず殺す最悪の凶器なの! あんたに復讐する為にね、必死になって探してきたの! どう? 苦しい? 苦しいでしょう、この屑野郎!!」
「……復讐って、俺を追い出したのあんたじゃん」
「煩いのよぉ!! あんたの所為で、私まで組合を追い出されて路頭を迷う羽目になったのよ! 死んで責任を取りなさい! あはははは!!」


 うっわ、完全な逆恨みだわこれ……あの阿呆にばっか気を回してた所為で想像だにしなかったな。

 ……どうしよう、この状況。
 新人ちゃん……いや、元新人ちゃんは完全に俺が死んだ感じで満足げに笑ってるし、押さえつけてくれてる奴らも焦りまくってるし、アリアは真っ青な顔で縋り付いてるし、シェスカはルルの目を塞いだまま絶望の表情になってるし。


 俺、全然平気なんだけど。


「あんたみたいな屑が存在してる所為で、私達みんなが不幸になるのよ! さっさと死んで、絶望して、私の気を晴らさせなさい! あははははははーーーは?」


 ずーっと小道良さそうに笑ってた元新人ちゃんだったが……次第に笑いが収まって、困惑の視線を向け始めた。

 気づいちゃった?
 俺が倒れもせず苦しみもせず、全く死ぬ様子を見せてない事に。


「……何でよ、何で死んでないのよ……!? 死ぬはずよ、尋常じゃない苦しみの中で死ぬはずよ!? そういう武器だって、ちゃんと試したのに! 何で死んでないのよ!?」
「あちゃー、巻き込まれた奴がいるのか。後で買った場所を確認しとかないと」


 平然としてる俺に、アリアもシェスカもぽかんと呆けた顔を見せる。アリアなんか、涙と鼻水で顔中ぐちゃぐちゃになったままなんだが。

 はぁ……と溜息をつき、俺は足元に転がった短刀を拾って、新人ちゃんの前に突きつけた。


がかけた【呪い】が、俺に効くわけないじゃない。作ったやつの名前くらい調べてから使いなよ、お馬鹿さん」
「は……?」
「あと、この短刀にかけた【呪い】は苦しんで死ぬもんじゃなくて、呼吸器の機能だけを殺して窒息死させるって内容だからね? 昔の失敗作を持ってこられても恥ずかしいだけなのよ、悪いんだけど」


 ずいぶん前に作って、要望と違ったから捨てたもんだったんだが……どっからどう流れてきたのやら。
 もしかして俺の昔の失敗作、全部怪しい店に怪しい商品として流通してる? そりゃちょっと面倒だな。


「失敗……作……?」
「とりあえず、毛程も効いてないけど刺されたのは事実だから、騎士団あたりに突き出しておくわ。あとでこれをどこで手に入れたかとか聞かせてもらうから、覚悟しといてね。……連れてっといてくれる?」
「お、おぅ」
「わ、わかった」


 女を押さえつけてる奴らに頼んで、連行していってもらう。
 手伝ってくれる奴がいるとありがたいねぇ……俺はこっちで固まったままのアリア達をどうにかせにゃならんから本当にありがたい。

 色々問い質されんだろうなぁ……教えてやらんと煩そうだ。気が滅入る。




 しかしまぁ、俺を追い出したりしなきゃ、こんな事にならなかっただろうに……憐れだねぇ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...