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第四章:謝罪編

030:不満

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「ーーーやはり今日も現れましたか。毎度毎度お世話になっております、ラグナ様」


 縄で芋虫みたいな様になった盗人共の上に腰掛け、一仕事を終えた三人娘と寛いでいると、騒ぎを聞きつけた今回の依頼者……光沢のある髪と髭が特徴的な男が近づいてくる。

 俺の行きつけの雑貨屋を経営する商人で、国内でも一、二を争う……ギルバートを除いて有力な資産の持ち主だ。
 温和な態度の上、屋敷もそれほど裕福には見えない為に勘違いされやすいが、実際はギルバートに次ぐ権力を誇っている恐ろしい男だ。

 決して侮れるような中小企業じゃないんだが……この盗人共は見事に騙されたようだな。情報収集の時点でこの商人の本質を見誤ったか、馬鹿だなぁ。


「いつもながら見事なお力で、感服しない日はございませんな。……まぁ、此度の盗人は大した事のない雑魚でしたが」
「そうだな、果たして俺が必要だったのかどうか……」


 人当たりの良さそうな顔で、なかなか辛辣な事を言う相手の商人に、俺も同意の言葉を返す。

【呪い】で予め罠を張って、獲物が引っ掛かったら即麻痺で止める。罠に引っ掛からなかった者には、俺が直接仕留めて捕縛する。ごくごく単純な仕事だ。

 本音を言えば、許可なく関係者以外が侵入した時点で死ぬような術をかけておけば手間も省けたんだが、依頼者に拒否されたからこの手を使う事になった。

 と言っても、あとで罰として奴隷に堕とされるんだから死んだ方がましだと思うがな。
 ギルバートの弟子らしい、冷酷な考えで寒気が走るね。


「麻痺は半日あれば解けるから、その間に手続き諸々やっちゃって構わんよ。報酬はいつも通りの場所に振り込んでおいてくれ」
「畏まりました……例の場所に必ず」
「あぁ。……行くぞ、お前ら」


 さて、と俺は盗人共の上から腰を上げて、三人娘の背を叩いて動くように促す。
 今日の仕事はもう終わりだ。さっさと飯食って休むぞ。


 ギルバートのところから宣伝用に安く買い取ってから、大体一、二ヶ月。
 日々の暮らしで非常に助かっている……とは言い難いが、まぁ多少役には立っていると思う。あんまり難しい仕事はさせていないしな。

 今回は盗人の捕縛役に丁度いいと思ってやらせてみたが、あんまり自分でやるのと変わらんな。
 もうちょい手応えのある数だったならよかったのに……その辺は次回に期待するとしようか。


 なんて考えながら、屋敷から出て通りを歩いていた時だった。アリアが躊躇いがちに、しかし思い口調で話しかけてきた。


「……ねぇ、この仕事に私たちって必要だった?」
「あ? あぁ、うんうん。必要だったとも」
「……それって、あいつらを縛っておいてくれる雑用係って意味で?」


 おっと、どうやら仕事のしょうもなさにアリアは不満を抱いているようだ。

 ……まぁ、確かにぶっちゃけこいつらじゃなくてもいい仕事だったけどな。俺がやっても良かったけど、面倒だったしやらせたんだが。


「まぁ、いいだろう? 獲物はこんな雑魚だが、お前らにはちゃんと手伝った分の駄賃を渡すからよ。楽でいいだろ」


 普通の奴隷に比べれば、破格の待遇だ。大抵が犯罪奴隷で、そうじゃなくても同類扱いされて、罰と称した過酷な労働でばたばた死んでいくのに比べれば平和な暮らしだ。
 多少暇な事に目を瞑れば、嫌だなんて微塵も思わない恵まれた環境のはずだ。

 実際、買った時に比べて三人とも年齢相応にふっくらしてきたし、血色も良くなってきた。こいつらにしちゃ、天国みたいな暮らしだろう。


 ……だが、アリアはなぜかいつも不満げで、いつも俺にもの言いたげな視線を向けてきている。
 なんだ、なんか不満でもあるのか。


「私達、あんたの奴隷よね。なのにこれまでずっと、あんたの役に立てる事なんて全然していないわ……私達、何の為にあんたのそばにいるの」
「……アリアちゃん」


 視線を落とし、居心地悪そうにしながら、アリアはそんな不満を口にする。
 シェスカも咎めるように名を呼びながら、似たような表情で俯いている。考えている事は同じか? 役に立てていないのが嫌だってか?

 ……面倒臭い悩み抱えてんな、こいつら。


「忘れているかもしれんが、俺はお前らを望んで買ったわけじゃねぇ。お前らを購入した商人の頼み事で引き受けているだけに過ぎない……使わなきゃもったいねぇと思っているからちょこっと使ってるだけだ」
「……わかってるわよ」


 不満げな顔を変えないまま、アリアは早足で歩き出し、俺を追い抜いてさっさと宿に向かって歩き去ってしまう。
 その後をシェスカとルルが追いかけ、俺だけが取り残されるんだが……いや、俺を置き去りにしちゃ駄目じゃねぇのか。


「……もうちょい、奴らの気が済みそうな仕事を取ってくるか。面倒臭ぇな」


 仕事の手伝いを嫌がられても面倒だが、働かなくてもいいのに働きたがるヤツらの相手も面倒だな。
 そんな気にする事でもあるまいに、厄介な性分だ。



 ……こんな人間の役になんざ立つ必要ないだろうに、仕様のねぇ奴らだ。
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