32 / 49
第四章:謝罪編
030:不満
しおりを挟む
「ーーーやはり今日も現れましたか。毎度毎度お世話になっております、ラグナ様」
縄で芋虫みたいな様になった盗人共の上に腰掛け、一仕事を終えた三人娘と寛いでいると、騒ぎを聞きつけた今回の依頼者……光沢のある髪と髭が特徴的な男が近づいてくる。
俺の行きつけの雑貨屋を経営する商人で、国内でも一、二を争う……ギルバートを除いて有力な資産の持ち主だ。
温和な態度の上、屋敷もそれほど裕福には見えない為に勘違いされやすいが、実際はギルバートに次ぐ権力を誇っている恐ろしい男だ。
決して侮れるような中小企業じゃないんだが……この盗人共は見事に騙されたようだな。情報収集の時点でこの商人の本質を見誤ったか、馬鹿だなぁ。
「いつもながら見事なお力で、感服しない日はございませんな。……まぁ、此度の盗人は大した事のない雑魚でしたが」
「そうだな、果たして俺が必要だったのかどうか……」
人当たりの良さそうな顔で、なかなか辛辣な事を言う相手の商人に、俺も同意の言葉を返す。
【呪い】で予め罠を張って、獲物が引っ掛かったら即麻痺で止める。罠に引っ掛からなかった者には、俺が直接仕留めて捕縛する。ごくごく単純な仕事だ。
本音を言えば、許可なく関係者以外が侵入した時点で死ぬような術をかけておけば手間も省けたんだが、依頼者に拒否されたからこの手を使う事になった。
と言っても、あとで罰として奴隷に堕とされるんだから死んだ方がましだと思うがな。
ギルバートの弟子らしい、冷酷な考えで寒気が走るね。
「麻痺は半日あれば解けるから、その間に手続き諸々やっちゃって構わんよ。報酬はいつも通りの場所に振り込んでおいてくれ」
「畏まりました……例の場所に必ず」
「あぁ。……行くぞ、お前ら」
さて、と俺は盗人共の上から腰を上げて、三人娘の背を叩いて動くように促す。
今日の仕事はもう終わりだ。さっさと飯食って休むぞ。
ギルバートのところから宣伝用に安く買い取ってから、大体一、二ヶ月。
日々の暮らしで非常に助かっている……とは言い難いが、まぁ多少役には立っていると思う。あんまり難しい仕事はさせていないしな。
今回は盗人の捕縛役に丁度いいと思ってやらせてみたが、あんまり自分でやるのと変わらんな。
もうちょい手応えのある数だったならよかったのに……その辺は次回に期待するとしようか。
なんて考えながら、屋敷から出て通りを歩いていた時だった。アリアが躊躇いがちに、しかし思い口調で話しかけてきた。
「……ねぇ、この仕事に私たちって必要だった?」
「あ? あぁ、うんうん。必要だったとも」
「……それって、あいつらを縛っておいてくれる雑用係って意味で?」
おっと、どうやら仕事のしょうもなさにアリアは不満を抱いているようだ。
……まぁ、確かにぶっちゃけこいつらじゃなくてもいい仕事だったけどな。俺がやっても良かったけど、面倒だったしやらせたんだが。
「まぁ、いいだろう? 獲物はこんな雑魚だが、お前らにはちゃんと手伝った分の駄賃を渡すからよ。楽でいいだろ」
普通の奴隷に比べれば、破格の待遇だ。大抵が犯罪奴隷で、そうじゃなくても同類扱いされて、罰と称した過酷な労働でばたばた死んでいくのに比べれば平和な暮らしだ。
多少暇な事に目を瞑れば、嫌だなんて微塵も思わない恵まれた環境のはずだ。
実際、買った時に比べて三人とも年齢相応にふっくらしてきたし、血色も良くなってきた。こいつらにしちゃ、天国みたいな暮らしだろう。
……だが、アリアはなぜかいつも不満げで、いつも俺にもの言いたげな視線を向けてきている。
なんだ、なんか不満でもあるのか。
「私達、あんたの奴隷よね。なのにこれまでずっと、あんたの役に立てる事なんて全然していないわ……私達、何の為にあんたのそばにいるの」
「……アリアちゃん」
視線を落とし、居心地悪そうにしながら、アリアはそんな不満を口にする。
シェスカも咎めるように名を呼びながら、似たような表情で俯いている。考えている事は同じか? 役に立てていないのが嫌だってか?
……面倒臭い悩み抱えてんな、こいつら。
「忘れているかもしれんが、俺はお前らを望んで買ったわけじゃねぇ。お前らを購入した商人の頼み事で引き受けているだけに過ぎない……使わなきゃもったいねぇと思っているからちょこっと使ってるだけだ」
「……わかってるわよ」
不満げな顔を変えないまま、アリアは早足で歩き出し、俺を追い抜いてさっさと宿に向かって歩き去ってしまう。
その後をシェスカとルルが追いかけ、俺だけが取り残されるんだが……いや、俺を置き去りにしちゃ駄目じゃねぇのか。
「……もうちょい、奴らの気が済みそうな仕事を取ってくるか。面倒臭ぇな」
仕事の手伝いを嫌がられても面倒だが、働かなくてもいいのに働きたがるヤツらの相手も面倒だな。
そんな気にする事でもあるまいに、厄介な性分だ。
……こんな人間の役になんざ立つ必要ないだろうに、仕様のねぇ奴らだ。
縄で芋虫みたいな様になった盗人共の上に腰掛け、一仕事を終えた三人娘と寛いでいると、騒ぎを聞きつけた今回の依頼者……光沢のある髪と髭が特徴的な男が近づいてくる。
俺の行きつけの雑貨屋を経営する商人で、国内でも一、二を争う……ギルバートを除いて有力な資産の持ち主だ。
温和な態度の上、屋敷もそれほど裕福には見えない為に勘違いされやすいが、実際はギルバートに次ぐ権力を誇っている恐ろしい男だ。
決して侮れるような中小企業じゃないんだが……この盗人共は見事に騙されたようだな。情報収集の時点でこの商人の本質を見誤ったか、馬鹿だなぁ。
「いつもながら見事なお力で、感服しない日はございませんな。……まぁ、此度の盗人は大した事のない雑魚でしたが」
「そうだな、果たして俺が必要だったのかどうか……」
人当たりの良さそうな顔で、なかなか辛辣な事を言う相手の商人に、俺も同意の言葉を返す。
【呪い】で予め罠を張って、獲物が引っ掛かったら即麻痺で止める。罠に引っ掛からなかった者には、俺が直接仕留めて捕縛する。ごくごく単純な仕事だ。
本音を言えば、許可なく関係者以外が侵入した時点で死ぬような術をかけておけば手間も省けたんだが、依頼者に拒否されたからこの手を使う事になった。
と言っても、あとで罰として奴隷に堕とされるんだから死んだ方がましだと思うがな。
ギルバートの弟子らしい、冷酷な考えで寒気が走るね。
「麻痺は半日あれば解けるから、その間に手続き諸々やっちゃって構わんよ。報酬はいつも通りの場所に振り込んでおいてくれ」
「畏まりました……例の場所に必ず」
「あぁ。……行くぞ、お前ら」
さて、と俺は盗人共の上から腰を上げて、三人娘の背を叩いて動くように促す。
今日の仕事はもう終わりだ。さっさと飯食って休むぞ。
ギルバートのところから宣伝用に安く買い取ってから、大体一、二ヶ月。
日々の暮らしで非常に助かっている……とは言い難いが、まぁ多少役には立っていると思う。あんまり難しい仕事はさせていないしな。
今回は盗人の捕縛役に丁度いいと思ってやらせてみたが、あんまり自分でやるのと変わらんな。
もうちょい手応えのある数だったならよかったのに……その辺は次回に期待するとしようか。
なんて考えながら、屋敷から出て通りを歩いていた時だった。アリアが躊躇いがちに、しかし思い口調で話しかけてきた。
「……ねぇ、この仕事に私たちって必要だった?」
「あ? あぁ、うんうん。必要だったとも」
「……それって、あいつらを縛っておいてくれる雑用係って意味で?」
おっと、どうやら仕事のしょうもなさにアリアは不満を抱いているようだ。
……まぁ、確かにぶっちゃけこいつらじゃなくてもいい仕事だったけどな。俺がやっても良かったけど、面倒だったしやらせたんだが。
「まぁ、いいだろう? 獲物はこんな雑魚だが、お前らにはちゃんと手伝った分の駄賃を渡すからよ。楽でいいだろ」
普通の奴隷に比べれば、破格の待遇だ。大抵が犯罪奴隷で、そうじゃなくても同類扱いされて、罰と称した過酷な労働でばたばた死んでいくのに比べれば平和な暮らしだ。
多少暇な事に目を瞑れば、嫌だなんて微塵も思わない恵まれた環境のはずだ。
実際、買った時に比べて三人とも年齢相応にふっくらしてきたし、血色も良くなってきた。こいつらにしちゃ、天国みたいな暮らしだろう。
……だが、アリアはなぜかいつも不満げで、いつも俺にもの言いたげな視線を向けてきている。
なんだ、なんか不満でもあるのか。
「私達、あんたの奴隷よね。なのにこれまでずっと、あんたの役に立てる事なんて全然していないわ……私達、何の為にあんたのそばにいるの」
「……アリアちゃん」
視線を落とし、居心地悪そうにしながら、アリアはそんな不満を口にする。
シェスカも咎めるように名を呼びながら、似たような表情で俯いている。考えている事は同じか? 役に立てていないのが嫌だってか?
……面倒臭い悩み抱えてんな、こいつら。
「忘れているかもしれんが、俺はお前らを望んで買ったわけじゃねぇ。お前らを購入した商人の頼み事で引き受けているだけに過ぎない……使わなきゃもったいねぇと思っているからちょこっと使ってるだけだ」
「……わかってるわよ」
不満げな顔を変えないまま、アリアは早足で歩き出し、俺を追い抜いてさっさと宿に向かって歩き去ってしまう。
その後をシェスカとルルが追いかけ、俺だけが取り残されるんだが……いや、俺を置き去りにしちゃ駄目じゃねぇのか。
「……もうちょい、奴らの気が済みそうな仕事を取ってくるか。面倒臭ぇな」
仕事の手伝いを嫌がられても面倒だが、働かなくてもいいのに働きたがるヤツらの相手も面倒だな。
そんな気にする事でもあるまいに、厄介な性分だ。
……こんな人間の役になんざ立つ必要ないだろうに、仕様のねぇ奴らだ。
0
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる