25 / 49
第三章:労働編
023:畏怖
しおりを挟む
……やれやれ、余計な事で余計な奴に余計な力を使っちまった。
塵はいくら掃こうと毎日積り続けるものだとわかっちゃあいるが、やっぱり面倒である事には変わりがねぇや。
いっそ誰もいない孤島にでも越すか……いや、それはそれで生活が面倒か。不便さに比べりゃ、面倒臭い人間の相手をする方がまし……いや、どっちもどっちだな。
「いいぞラグナ!」
「さっすが裏町の支配者だ!」
「あのむかつく野郎を追い出してくれてありがとよ!!」
「素敵よ! 抱いて~!」
「あんたなんかお呼びじゃないのよ!!」
……外野の客達が煩くなってきたな。
あの男、もしかして他の店でも騒ぎを起こして迷惑がられていたのか? あの調子ならありえるな。
……というか、本気で煩ぇんだが。
気分がすっきりしたのはわかるが、それで騒がれても俺は嬉しくともなんともない。むしろ狭い店の中で喚かれてとんでもなく迷惑なんだが。
まぁ、俺が気にしなきゃいい問題だから何も言わんがね。
「いつも助かってるヨ、ラグナ~。相変わらずあんたの【呪い】は凄いネ~」
「そういう賞賛はもう結構……さっさと飯を作ってくれ」
「ごめんヨ~、今すぐ作るからネ~」
俺が言うと、店主はさっさと厨房に戻って調理を再開する。とんとんと包丁を鳴らす音が響き始めて、ようやく俺も席に坐り直す。
さてもう少し待つか……と思っていたのだが。
席に放置したままだった三人娘のことを思い出し、俺はあ、と声を漏らして餓鬼共の方へ振り向いた。
そこで平然と俺を見つめているシェスカとルル、シェスカの背後に身を隠して震えているアリアの姿に気がつく。
「……どうした、何をそんなに怯えている」
そんな化け物でも見るような目を向けて……まぁ、理由はわかるが。
「あ、あんた……あの男に何したのよ!? あたし達の体を直した事といい、あ、あんな事ができるって……あんた一体、何なのよ!?」
「うぅ……」
顔を真っ青にし、声を震わせて俺に指を突きつけてくるアリア。さっきまで確かに飯に期待を寄せた表情をしていたはずなんだが、シェスカの後ろで子犬のように怯えるばかりだ。
ルルはあんまり状況がわかってないっぽいな。あの男が勝手に倒れたとでも思ってるんだろうか。
どうしたもんかな……説明して落ち着くかどうか。いっそのこと記憶を消して……いや、面倒臭いから嫌だな。
とか考えていたら、アリアに背中に張り付かれたシェスカがアリアの背に手を当て、前へと押し出し始めた。
「ほら、アリアちゃん。ちゃんと前に出てください。神様の前で失礼ですよ」
「む、無理よ……だ、だってあんな、あんなの見せられて、平気な顔なんてできないわよ……!」
「……にぃ、こわい?」
「こ、怖くなんてないわよ! 怖くなんて……怖くなんて……!!」
……塵掃除しただけでここまで嫌われるとは。
別にこいつらに嫌われようが恐れられようがどうという事はないんだが、鬱陶しいから今度から掃除は隠れてやるか。
いや、あれを見て平然としていられるシェスカがおかしいんだろうな。お前、本当に俺のやる事に対して動じなさすぎじゃないのか?
「お前らにあれをする気はない……鬱陶しいからそんな目を向けるな。お前らが何かをしでかさない限りは俺も何もしない」
「……ほ、本当に?」
「俺は約束を破らない。なんならここで〝契約〟に追加してやってもいいぞ」
俺の唯一つの信条だからな、裏切らないってのは。
長い俺の生の中で絶対に揺るがない決め事だ。破った時点で俺は俺で無くなる……相手が破った場合は容赦なく報復するがな。
少なくとも、こいつらが妙な気を起こさない限りは何もしないし何も言わない。
「……〈呪法師〉って、何なのよ。【呪い】なんかでどうしてそこまでの事ができるの。あんた……本当に何なの?」
アリアは俺の力が普通じゃない事を察してか、警戒心丸出しで俺を見つめてきている。
まぁ、世間一般的な【呪い】の印象を考えるとその疑問もおかしくないわな。
他人を呪うなんて事、どう考えても悪党のやる事だ。それを利用しようとは考えても、味方にしようなんて考える奴はそういない。いたらいたで何考えてるのかわかりたくもねぇ危ねぇ連中の事だ。
その上、術が効いているかどうかなんて後で実感できない場合の方が圧倒的に多い。
アレスの阿呆然り組合の受付の新人ちゃん然り、【呪い】という力は目に見えず確固たる成果が見えづらい。派手で目立つ仕方もなくはないが、それをするくらいなら効果を重んじた方が遥かに効率がいい。だから多くの術士が使う呪術は目立たず地味なままだ。
しっかり成果を考えりゃわかるのに、世間の人間は目に見えるものだけを信じて【呪い】を扱う者の努力を評価しない。
胸糞の悪い構造になってるんだよ、この世界は。
……まぁ、おれの〝力〟はそこらの素人とは別物だがな。
一緒にされちゃ困るんだ……後で面倒事に巻き込まれたくないから最低限まで抑えてたわけだけど。
「何か……って言われてもねぇ。その辺は自分で判断してくれ、説明すんの面倒臭いから」
アリアは不満げな目を向けてくるが、正直知った事じゃない。何だと聞かれて手短に語れる人生送ってないし。
俺が俺を語るんじゃ駄目だーーー自分の目で見て自分で判断しなきゃ、人間は自分を納得させられねぇ。
どうせ、たいした時間を一緒にいるわけじゃないだろうしな。
「俺は〈呪法師〉の〝天職〟を得て生まれてきた、ただそんだけの男だ」
人を、世界を、この世の全てのものを呪うだけ……そんな下らない力をもって生まれた、ただの男だ。
塵はいくら掃こうと毎日積り続けるものだとわかっちゃあいるが、やっぱり面倒である事には変わりがねぇや。
いっそ誰もいない孤島にでも越すか……いや、それはそれで生活が面倒か。不便さに比べりゃ、面倒臭い人間の相手をする方がまし……いや、どっちもどっちだな。
「いいぞラグナ!」
「さっすが裏町の支配者だ!」
「あのむかつく野郎を追い出してくれてありがとよ!!」
「素敵よ! 抱いて~!」
「あんたなんかお呼びじゃないのよ!!」
……外野の客達が煩くなってきたな。
あの男、もしかして他の店でも騒ぎを起こして迷惑がられていたのか? あの調子ならありえるな。
……というか、本気で煩ぇんだが。
気分がすっきりしたのはわかるが、それで騒がれても俺は嬉しくともなんともない。むしろ狭い店の中で喚かれてとんでもなく迷惑なんだが。
まぁ、俺が気にしなきゃいい問題だから何も言わんがね。
「いつも助かってるヨ、ラグナ~。相変わらずあんたの【呪い】は凄いネ~」
「そういう賞賛はもう結構……さっさと飯を作ってくれ」
「ごめんヨ~、今すぐ作るからネ~」
俺が言うと、店主はさっさと厨房に戻って調理を再開する。とんとんと包丁を鳴らす音が響き始めて、ようやく俺も席に坐り直す。
さてもう少し待つか……と思っていたのだが。
席に放置したままだった三人娘のことを思い出し、俺はあ、と声を漏らして餓鬼共の方へ振り向いた。
そこで平然と俺を見つめているシェスカとルル、シェスカの背後に身を隠して震えているアリアの姿に気がつく。
「……どうした、何をそんなに怯えている」
そんな化け物でも見るような目を向けて……まぁ、理由はわかるが。
「あ、あんた……あの男に何したのよ!? あたし達の体を直した事といい、あ、あんな事ができるって……あんた一体、何なのよ!?」
「うぅ……」
顔を真っ青にし、声を震わせて俺に指を突きつけてくるアリア。さっきまで確かに飯に期待を寄せた表情をしていたはずなんだが、シェスカの後ろで子犬のように怯えるばかりだ。
ルルはあんまり状況がわかってないっぽいな。あの男が勝手に倒れたとでも思ってるんだろうか。
どうしたもんかな……説明して落ち着くかどうか。いっそのこと記憶を消して……いや、面倒臭いから嫌だな。
とか考えていたら、アリアに背中に張り付かれたシェスカがアリアの背に手を当て、前へと押し出し始めた。
「ほら、アリアちゃん。ちゃんと前に出てください。神様の前で失礼ですよ」
「む、無理よ……だ、だってあんな、あんなの見せられて、平気な顔なんてできないわよ……!」
「……にぃ、こわい?」
「こ、怖くなんてないわよ! 怖くなんて……怖くなんて……!!」
……塵掃除しただけでここまで嫌われるとは。
別にこいつらに嫌われようが恐れられようがどうという事はないんだが、鬱陶しいから今度から掃除は隠れてやるか。
いや、あれを見て平然としていられるシェスカがおかしいんだろうな。お前、本当に俺のやる事に対して動じなさすぎじゃないのか?
「お前らにあれをする気はない……鬱陶しいからそんな目を向けるな。お前らが何かをしでかさない限りは俺も何もしない」
「……ほ、本当に?」
「俺は約束を破らない。なんならここで〝契約〟に追加してやってもいいぞ」
俺の唯一つの信条だからな、裏切らないってのは。
長い俺の生の中で絶対に揺るがない決め事だ。破った時点で俺は俺で無くなる……相手が破った場合は容赦なく報復するがな。
少なくとも、こいつらが妙な気を起こさない限りは何もしないし何も言わない。
「……〈呪法師〉って、何なのよ。【呪い】なんかでどうしてそこまでの事ができるの。あんた……本当に何なの?」
アリアは俺の力が普通じゃない事を察してか、警戒心丸出しで俺を見つめてきている。
まぁ、世間一般的な【呪い】の印象を考えるとその疑問もおかしくないわな。
他人を呪うなんて事、どう考えても悪党のやる事だ。それを利用しようとは考えても、味方にしようなんて考える奴はそういない。いたらいたで何考えてるのかわかりたくもねぇ危ねぇ連中の事だ。
その上、術が効いているかどうかなんて後で実感できない場合の方が圧倒的に多い。
アレスの阿呆然り組合の受付の新人ちゃん然り、【呪い】という力は目に見えず確固たる成果が見えづらい。派手で目立つ仕方もなくはないが、それをするくらいなら効果を重んじた方が遥かに効率がいい。だから多くの術士が使う呪術は目立たず地味なままだ。
しっかり成果を考えりゃわかるのに、世間の人間は目に見えるものだけを信じて【呪い】を扱う者の努力を評価しない。
胸糞の悪い構造になってるんだよ、この世界は。
……まぁ、おれの〝力〟はそこらの素人とは別物だがな。
一緒にされちゃ困るんだ……後で面倒事に巻き込まれたくないから最低限まで抑えてたわけだけど。
「何か……って言われてもねぇ。その辺は自分で判断してくれ、説明すんの面倒臭いから」
アリアは不満げな目を向けてくるが、正直知った事じゃない。何だと聞かれて手短に語れる人生送ってないし。
俺が俺を語るんじゃ駄目だーーー自分の目で見て自分で判断しなきゃ、人間は自分を納得させられねぇ。
どうせ、たいした時間を一緒にいるわけじゃないだろうしな。
「俺は〈呪法師〉の〝天職〟を得て生まれてきた、ただそんだけの男だ」
人を、世界を、この世の全てのものを呪うだけ……そんな下らない力をもって生まれた、ただの男だ。
0
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる