水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
252 / 345

第252話    外スラムとの対立

しおりを挟む



 あっくんの目の前に集まっている平民の数は2、3人ではきかない。
 明らかに平民達があっくんに敵意を向けている。
 あっくんの後ろにいるニルスが仲裁に入る素振りはない。

 話聞くだけなのに何で怒らせちゃってるの!?

 でも、これはチャンスかも…
 猫かぶって話されるより、怒ってる時の方が本音が出る。
 もしかしてあっくんは最初からそれを狙って怒らせたのかも!
 子供達はキョトンとしていて怯える様子はない。
 これならやり取り聞いてても大丈夫かな?



「俺達は自分で外で暮らすことを選んでるんだ!いきなり来て何も知らないくせに!」

 怒鳴るスラムの男性。
 それに対しあっくんは淡々と話す。

「自分で選べる大人はいい。だが子供達は?危険に晒してるだろ?子供達だけでも安全な中に入れた方がいいに決まってる。お前達だってその方が安全だ。」
「中で暮らせ!?はっ!!!中など!!!絶対ごめんだね!」

 そう吐き捨てるように言った。

「お前達は平民だろう?魔物に対抗する手段などないはずだ。弱い者達は守られるべきだ!」
「今なんつった!?もっぺん言ってみろや!!!」

 スラムの男性はあっくんの胸ぐらを掴みかからんばかりに激高する。
 これにあっくんは声を張り上げ応戦する。

「何度でも言ってやる!お前達は弱い!中で守られるべきだ!外で暮らしてたら魔物の餌になるだけだ!」
「俺達がいるから辺境は無事でいられるんだ!俺達が守ってるんだ!!当主様だって俺達に感謝してる!!……ふぅーーー。じゃあ、あんたは?そんな身体してるが、俺達と同じ平民に変わりはないだろ?それなのに騎士様に守られながら辺境に来たわけだ。現状を何も知らない甘ちゃんだろ?」

 自らの怒りを抑え込み、何も知らない人間だとあっくんを断じる。

「なんだと!?」
「あぁもういい。そんな奴に話すことなんて何もねぇよ。解散かいさぁぁーーーん!みんな仕事に戻れぇ!」

 その言葉を合図に、相手をする価値など無いと言うように散り散りになっていく。

「おい待てよ!」

 あっくんの静止の言葉など誰も聞かない。
 人集りはあっという間に消え、その場に残されたのはあっくんのみになってしまった。



 最悪だ…
 あっくんはわざと怒らせたんじゃない。
 思ったことをそのまま口にしてただけ。
 1人ポツンと残された今だって怒りが隠せていない。
 私はあっくんと一緒にこの広場に来た。
 もしかすると、私もあっくんの仲間だと看做みなされてこれから話を聞けないかも…
 あれだけカオリンに注意され、感情的にならないように、私達の許容範囲を晒さないように、宗教観の擦り合わせまでしてきたのに、全て台無しにされた気分だった。
 しかも何も悪くない子供達に自分の意見に同意させるような圧までかけて…


 子供達は今のやり取りを見ても全く動じていない。
 肝が据わっているか、日常茶飯事か…
 このままここに残っても話が聞けるとは思えない。これからのことも、あっくんの本音も話し合わないと先には進めない。

「ねぇ、お姉ちゃん明日またここに遊びに来てもいいかな?」
「え!?あそんでくれるの!?」
「それはお姉ちゃんの台詞だよ!私と遊んでね!」
「しょーがないなぁ!あそんでやるよ!」
「うん!楽しみにしてるね!」
「こらっ!!!すみません!うちの子が!!」
「いいえー!明日子供達と遊ばせてもらっても良いですか?」
「えっ……そりゃあ……遊んでくださるなら助かりますけど…」

 子供の母親はチラリとハンスの顔色を窺う。
 ハンスは無言で頷く。
 それを見て安堵の溜息を吐き

「じゃあよろしくお願いしますね!」
「やったー!明日まってるからな!」
「うん!明日ね!」

 明日の約束を取り付け、子供達は走って行った。
 あっくんはまだ怒りを顔に浮かべている。
 馬車の中でのことが頭をよぎる。
 この怒った状態で私の話を聞いてくれると思えなかった。
 ふと、あっくんの後ろに立っていたニルスと目が合った。
 顎をしゃくり部屋へと戻ることを伝える。
 ニルスはそれだけで頷いてくれた。
 申し訳ないけど、あっくんへの声掛けはニルスに任せよう。

「ハンス、戻ろう。」
「畏まりました。」


 部屋へ戻りながらハンスに聞きたかったことを聞く。

「ここには竹ってある?」
「ございます。ご入用ですか?」
「子供達に遊べる玩具作ってあげたいなと思うんだけど、作って持って行っても良い?」
「構いませんが、場所を取る物となりますと保管場所がありません。」
「小さい物なら問題ないよね?避難してきた時だけ遊べる物にしたいの。それなら特別感があるから、ここに避難してきても楽しみができるよね?それに夢中になって外で遊ぶのは危ないから。」

 私の頭の中には既に子供達と遊ぶビジョンが浮かんでいた。

「そんなに危険な遊びなのですか?」
「本当は全然危険じゃないよ。でも、夢中になりすぎて周りが見えなくなることが危険なの。」
「どの様な物を作るおつもりですか?」
「私が作ろうと思ってるのは竹トンボ。知ってる?」
「いいえ。」
「竹を加工して空に飛ばすの。」

 子供なら絶対楽しんでくれるよね!

「……空に?」
「うん。簡単に作れるんだけど、この中でしか遊んじゃ駄目って約束は守ってくれるかなぁ?それが心配なんだよね。いつ魔物が来るかわからないのに空ばっかり見て竹トンボ追いかけたら、魔物が来てることに気づくのが遅くなっちゃう。」
「それは大人にも子にも周知させれば問題無いかと思います。まずは命ですから。その竹トンボは子達だけでも作れてしまうのですか?」
「竹とナイフさえあれば作れちゃうと思う。」
「でしたらまず大丈夫です。料理に使うナイフくらいしかありませんから。」

 それなら勝手に作って遊ぶ心配も無さそうだ。

「数が必要だから、あとでラルフも一緒に作ってくれる?」
「勿論です。竹はどの程度必要でしょうか?」
「1本も要らないよ。」
「ご用意いたします。竹の他の活用法はご存知ありませんか?」
「ここではどんな風に使われてるの?」
「それが……使い道がないのです。軽いので、建物と建物の隙間に置いて目隠しをするくらいで。」
「目隠し?」
「古角様がワインを飲んでおられましたね?そういった酒類は全て辺境で作られていますが、その保存や製法は各辺境伯領の秘匿となっております。窃盗などの被害に遭わないよう、また、保存場所も一定の温度でなければいけないため、隠されております。」
「お酒の他にも隠したい場所が沢山ありそうだね。」
「はい。財源はいくらあっても困りません。」

 もしかして、武器になるような物も秘密で作っているのかもしれない。

「ワインの他にもお酒ってあるの?」
「ございます。麦酒や米酒は基本的にはどこの辺境でも作られておりますが、ワインはギトー辺境伯領のみの生産です。」
「それは材料の関係で?」
「はい。」
「お酒って高級品じゃないの?」
「ワインは高級品です。貴族でもなかなか口にする機会はございません。ですが麦酒や米酒は辺境では平民でも気軽に口にできる物になっております。」
「そんなに安いの?」

 気軽に飲めるなら安いということだろう。

「多少高価ですよ。ですが、麦酒や米酒は運搬に適さないのでワインと違い税として納めることが不可能です。必然的に生産地での消費のみとなります。そのおかげでかなりの税収があります。」

 だから安いってことなのか。

「じゃあ貴族や騎士団員達はここでしかお酒は飲めないってこと?」
「そうなります。」

 お酒は、1度楽しさや美味しさを知れば何度も飲みたくなる物だ。

「……お忍びで来る貴族っていないの?」
「そりゃあいますよ。」
「それは問題にならないの?」
「一応報告はすぐに上がってきます。ですが問題にはなりません。税収になることですし、貴族達もお忍びで来ている自覚はありますから下手なことはしません。それに飲酒のみの目的で来る貴族はあまりおりませんので、深酒をする者は更に少数です。」
「他の目的があるの?」
「娼館ですね。」

 土木の同僚達を思い出し、納得した。

「あぁ~~……なるほど。もしかして、娼館も辺境にしかないの?」
「店を構えると言う意味では辺境にしかありませんね。他の地でもひっそりとやっている者もいるとは思いますが、辺境の娼館はしっかりと管理され、清潔面、教育面、指導面など、どれをとっても不足はありませんので、客として通うとしても安心材料が揃っています。」
「だからお忍びで通うってことだね?」
「そうなります。」

 どこの世界でもお酒や性欲はお金になるってことかぁ。こっそり通わないといけない貴族ってなんか情けなく感じてしまう。

「あ!ごめん、竹の話からだいぶ脱線しちゃったね。竹かぁー……私が知ってるのは竹で籠を編んだり食器作ったりだけど……籠を編むのは技術が必要だし、その方法は知らないからなぁ。でも、竹林って放っておくと凄いことになっちゃうよね?」
「そうなのです。ですから定期的に伐採してはいますが、活用法がなく困っております。」
「……じゃあ、炭にするのはどう?」
「炭と言いますと、燃やすのですか?」
「そう。脱臭効果があるの。トイレ…ここでは厠って言うんだっけ?そこに置くのはどう?」
「素晴らしいですね!早速やってみます!」
「待って!作り方があるから!ただ燃やすだけで良いわけじゃないから!」
「そうなのですか?」
「しーちゃん!!!待って!!!」

 後ろから追いかけてくるあっくんを見て、話に夢中になってあっくんのことをすっかり忘れて話し込んでしまったことに気がついた。

 現実に引き戻されて気分が落ちる。
 でも話し合わなければいけない。

「また後で教えるね。」
「畏まりました。」

 そう言ってあっくんと2人で部屋に戻った。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...