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第252話 外スラムとの対立
しおりを挟むあっくんの目の前に集まっている平民の数は2、3人ではきかない。
明らかに平民達があっくんに敵意を向けている。
あっくんの後ろにいるニルスが仲裁に入る素振りはない。
話聞くだけなのに何で怒らせちゃってるの!?
でも、これはチャンスかも…
猫かぶって話されるより、怒ってる時の方が本音が出る。
もしかしてあっくんは最初からそれを狙って怒らせたのかも!
子供達はキョトンとしていて怯える様子はない。
これならやり取り聞いてても大丈夫かな?
「俺達は自分で外で暮らすことを選んでるんだ!いきなり来て何も知らないくせに!」
怒鳴るスラムの男性。
それに対しあっくんは淡々と話す。
「自分で選べる大人はいい。だが子供達は?危険に晒してるだろ?子供達だけでも安全な中に入れた方がいいに決まってる。お前達だってその方が安全だ。」
「中で暮らせ!?はっ!!!中など!!!絶対ごめんだね!」
そう吐き捨てるように言った。
「お前達は平民だろう?魔物に対抗する手段などないはずだ。弱い者達は守られるべきだ!」
「今なんつった!?もっぺん言ってみろや!!!」
スラムの男性はあっくんの胸ぐらを掴みかからんばかりに激高する。
これにあっくんは声を張り上げ応戦する。
「何度でも言ってやる!お前達は弱い!中で守られるべきだ!外で暮らしてたら魔物の餌になるだけだ!」
「俺達がいるから辺境は無事でいられるんだ!俺達が守ってるんだ!!当主様だって俺達に感謝してる!!……ふぅーーー。じゃあ、あんたは?そんな身体してるが、俺達と同じ平民に変わりはないだろ?それなのに騎士様に守られながら辺境に来たわけだ。現状を何も知らない甘ちゃんだろ?」
自らの怒りを抑え込み、何も知らない人間だとあっくんを断じる。
「なんだと!?」
「あぁもういい。そんな奴に話すことなんて何もねぇよ。解散かいさぁぁーーーん!みんな仕事に戻れぇ!」
その言葉を合図に、相手をする価値など無いと言うように散り散りになっていく。
「おい待てよ!」
あっくんの静止の言葉など誰も聞かない。
人集りはあっという間に消え、その場に残されたのはあっくんのみになってしまった。
最悪だ…
あっくんは態と怒らせたんじゃない。
思ったことをそのまま口にしてただけ。
1人ポツンと残された今だって怒りが隠せていない。
私はあっくんと一緒にこの広場に来た。
もしかすると、私もあっくんの仲間だと看做されてこれから話を聞けないかも…
あれだけカオリンに注意され、感情的にならないように、私達の許容範囲を晒さないように、宗教観の擦り合わせまでしてきたのに、全て台無しにされた気分だった。
しかも何も悪くない子供達に自分の意見に同意させるような圧までかけて…
子供達は今のやり取りを見ても全く動じていない。
肝が据わっているか、日常茶飯事か…
このままここに残っても話が聞けるとは思えない。これからのことも、あっくんの本音も話し合わないと先には進めない。
「ねぇ、お姉ちゃん明日またここに遊びに来てもいいかな?」
「え!?あそんでくれるの!?」
「それはお姉ちゃんの台詞だよ!私と遊んでね!」
「しょーがないなぁ!あそんでやるよ!」
「うん!楽しみにしてるね!」
「こらっ!!!すみません!うちの子が!!」
「いいえー!明日子供達と遊ばせてもらっても良いですか?」
「えっ……そりゃあ……遊んでくださるなら助かりますけど…」
子供の母親はチラリとハンスの顔色を窺う。
ハンスは無言で頷く。
それを見て安堵の溜息を吐き
「じゃあよろしくお願いしますね!」
「やったー!明日まってるからな!」
「うん!明日ね!」
明日の約束を取り付け、子供達は走って行った。
あっくんはまだ怒りを顔に浮かべている。
馬車の中でのことが頭を過る。
この怒った状態で私の話を聞いてくれると思えなかった。
ふと、あっくんの後ろに立っていたニルスと目が合った。
顎をしゃくり部屋へと戻ることを伝える。
ニルスはそれだけで頷いてくれた。
申し訳ないけど、あっくんへの声掛けはニルスに任せよう。
「ハンス、戻ろう。」
「畏まりました。」
部屋へ戻りながらハンスに聞きたかったことを聞く。
「ここには竹ってある?」
「ございます。ご入用ですか?」
「子供達に遊べる玩具作ってあげたいなと思うんだけど、作って持って行っても良い?」
「構いませんが、場所を取る物となりますと保管場所がありません。」
「小さい物なら問題ないよね?避難してきた時だけ遊べる物にしたいの。それなら特別感があるから、ここに避難してきても楽しみができるよね?それに夢中になって外で遊ぶのは危ないから。」
私の頭の中には既に子供達と遊ぶビジョンが浮かんでいた。
「そんなに危険な遊びなのですか?」
「本当は全然危険じゃないよ。でも、夢中になりすぎて周りが見えなくなることが危険なの。」
「どの様な物を作るおつもりですか?」
「私が作ろうと思ってるのは竹トンボ。知ってる?」
「いいえ。」
「竹を加工して空に飛ばすの。」
子供なら絶対楽しんでくれるよね!
「……空に?」
「うん。簡単に作れるんだけど、この中でしか遊んじゃ駄目って約束は守ってくれるかなぁ?それが心配なんだよね。いつ魔物が来るかわからないのに空ばっかり見て竹トンボ追いかけたら、魔物が来てることに気づくのが遅くなっちゃう。」
「それは大人にも子にも周知させれば問題無いかと思います。まずは命ですから。その竹トンボは子達だけでも作れてしまうのですか?」
「竹とナイフさえあれば作れちゃうと思う。」
「でしたらまず大丈夫です。料理に使うナイフくらいしかありませんから。」
それなら勝手に作って遊ぶ心配も無さそうだ。
「数が必要だから、あとでラルフも一緒に作ってくれる?」
「勿論です。竹はどの程度必要でしょうか?」
「1本も要らないよ。」
「ご用意いたします。竹の他の活用法はご存知ありませんか?」
「ここではどんな風に使われてるの?」
「それが……使い道がないのです。軽いので、建物と建物の隙間に置いて目隠しをするくらいで。」
「目隠し?」
「古角様がワインを飲んでおられましたね?そういった酒類は全て辺境で作られていますが、その保存や製法は各辺境伯領の秘匿となっております。窃盗などの被害に遭わないよう、また、保存場所も一定の温度でなければいけないため、隠されております。」
「お酒の他にも隠したい場所が沢山ありそうだね。」
「はい。財源はいくらあっても困りません。」
もしかして、武器になるような物も秘密で作っているのかもしれない。
「ワインの他にもお酒ってあるの?」
「ございます。麦酒や米酒は基本的にはどこの辺境でも作られておりますが、ワインはギトー辺境伯領のみの生産です。」
「それは材料の関係で?」
「はい。」
「お酒って高級品じゃないの?」
「ワインは高級品です。貴族でもなかなか口にする機会はございません。ですが麦酒や米酒は辺境では平民でも気軽に口にできる物になっております。」
「そんなに安いの?」
気軽に飲めるなら安いということだろう。
「多少高価ですよ。ですが、麦酒や米酒は運搬に適さないのでワインと違い税として納めることが不可能です。必然的に生産地での消費のみとなります。そのおかげでかなりの税収があります。」
だから安いってことなのか。
「じゃあ貴族や騎士団員達はここでしかお酒は飲めないってこと?」
「そうなります。」
お酒は、1度楽しさや美味しさを知れば何度も飲みたくなる物だ。
「……お忍びで来る貴族っていないの?」
「そりゃあいますよ。」
「それは問題にならないの?」
「一応報告はすぐに上がってきます。ですが問題にはなりません。税収になることですし、貴族達もお忍びで来ている自覚はありますから下手なことはしません。それに飲酒のみの目的で来る貴族はあまりおりませんので、深酒をする者は更に少数です。」
「他の目的があるの?」
「娼館ですね。」
土木の同僚達を思い出し、納得した。
「あぁ~~……なるほど。もしかして、娼館も辺境にしかないの?」
「店を構えると言う意味では辺境にしかありませんね。他の地でもひっそりとやっている者もいるとは思いますが、辺境の娼館はしっかりと管理され、清潔面、教育面、指導面など、どれをとっても不足はありませんので、客として通うとしても安心材料が揃っています。」
「だからお忍びで通うってことだね?」
「そうなります。」
どこの世界でもお酒や性欲はお金になるってことかぁ。こっそり通わないといけない貴族ってなんか情けなく感じてしまう。
「あ!ごめん、竹の話からだいぶ脱線しちゃったね。竹かぁー……私が知ってるのは竹で籠を編んだり食器作ったりだけど……籠を編むのは技術が必要だし、その方法は知らないからなぁ。でも、竹林って放っておくと凄いことになっちゃうよね?」
「そうなのです。ですから定期的に伐採してはいますが、活用法がなく困っております。」
「……じゃあ、炭にするのはどう?」
「炭と言いますと、燃やすのですか?」
「そう。脱臭効果があるの。トイレ…ここでは厠って言うんだっけ?そこに置くのはどう?」
「素晴らしいですね!早速やってみます!」
「待って!作り方があるから!ただ燃やすだけで良いわけじゃないから!」
「そうなのですか?」
「しーちゃん!!!待って!!!」
後ろから追いかけてくるあっくんを見て、話に夢中になってあっくんのことをすっかり忘れて話し込んでしまったことに気がついた。
現実に引き戻されて気分が落ちる。
でも話し合わなければいけない。
「また後で教えるね。」
「畏まりました。」
そう言ってあっくんと2人で部屋に戻った。
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