水と言霊と

みぃうめ

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第113話    カオリンの魔力制御

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 すぐに部屋に戻りたかったが、多分あのクソ女の匂いが俺にもついている。
 それに血飛沫も…
 一旦部屋に戻ってシャワー浴びなきゃしーちゃんに会いにも行けない。
 部屋に戻り急いでシャワーを浴びた。
 匂いがこびりついている感じがして必要以上に擦ってしまった。 



 ※

 コンコンッ

「俺だ。今戻った。」

 ノック音と共にあっくんの声が聞こえてきた。

「あっくん遅いっっっ!!何かあったの!?無事!?怪我とかは!?」

 さっきは直ぐに戻ってきたのに今回は全然戻ってこないんだもん!

「ちょっ!ちょっとしーちゃん!?」

 あっくんの腕にお腹に胸に、後ろを向かせて背中も撫でながら怪我がないかの確認をする。あっくんなら少し怪我したくらいじゃ隠すに決まってるんだから!

「うん!怪我ないねっ!良かったぁ!」

 怪我のチェックを終え、ようやく満足してあっくんから手を離した私を見て、あっくんは両手で顔を覆い蹲ってしまった。
 え!?どこかチェックし忘れた!?
 まさか毒盛られたとか!?

「あっくん大丈夫!?気分悪いの??吐きそう?」

 すぐに背中をさする、と、目の前にあるあっくんの耳が真っ赤だった。

「熱あるじゃん!ちょっとオデコ触らせて!」

 顔を覆っている手を引っぺがそうとしたらあっくんはスクっと立ち上がった。

「オレハだイジョブだかラ、少しヘヤモドル。」

 と言って、自分の部屋に戻ってしまった。
 何か資料でも忘れたのかな?

「早く戻ってね!」

 と大声で言いドアを閉めた。

「紫愛ちゃん?川端君は?」
「何か部屋に忘れ物したみたい。少し部屋に戻るって!」
「そうなの。随分遅かったわねぇ。」
「ね!でもちょっと熱がありそうだったの。」
「あら、大丈夫かしら?辛いのならそのまま自分の部屋で休んでもらったら?」
「そうだね、伝えてくる!」

 あっくんの元へ行こうとドアを開けるとラルフがいた。

「ねぇ!さっきまであっくんとずっと一緒だった?」
「はい。片時も離れておりません。」
「2人とも、何か口にした?」
「いいえ、川端様も私も何も口にしておりません。如何しましたか?」
「あっくんがさっき体調悪そうだったでしょ?毒でも盛られたのかと思って。何も口にしてないなら可能性はないよね。体調悪いならそのまま部屋で休んでてもらおうと思って今から伝えに行くところ。」
「でしたら私がお伝えしてきます。紫愛様はなるべくお部屋からお出になりませんように。川端様が心配なさいますから。」
「うーん、わかった。ラルフお願いね!」
「畏まりました。」


 
 ※

 コンコン

「川端様、よろしいですか?」
「なんだ?」
「紫愛様から御伝言です。もし体調が悪ければそのままお部屋でお休みするようにと。」
「ラルフ、ちょっと部屋入れ。」
「はい。失礼いたします。」


「はぁーーー。さっきの見てたろ?体調なんてどこも悪くねぇよ。」
「紫愛様に身体をまさぐられたことですか?」
「おまっ!おまえなぁーまさぐるとか!言葉選べよ!」
「ですが…はい。あの、1つお伺いしても?」
「なんだ?」
「川端様と紫愛様は本当に恋人ではないのですか?」
「当たり前だっ!恋人だったらあの後すぐ抱きしめるだろ?」
「では、何故あのようにまさぐ…触れられたのでしょうか?」
「俺の怪我を心配してだろ?多分少しくらいの怪我ならみんなに心配かけまいと俺が隠すと思ってんだよ。しーちゃんの視線や触り方にイヤラしいもん少しでも感じたか?」
「いえ、それは全く。」
「だろ?そんなの見たらラルフは幻滅もんだしな。だけどなぁ、俺はさっきラルフに夫婦に例えられたし惚れてるからな。あんな風に心配してますって全力で触られたら照れるしかねぇだろ?」
「だから逃げたのですね。」
「逃げたって……まぁそうだよ。逃げたよ。」
「川端様は経験がないのですか?」
「あるわっ!!!ラルフに言うと軽蔑されるかもしれねぇがな、それなりに若い頃は遊んでたさ。でも心底惚れた女に出会ったことなんてないんだよ!女を特別可愛いと思ったことすらなかったんだ!」
「つまり、初恋だと?」
「まーたそういう言い回しを…あぁ初恋だな。」
「好いた相手には照れが発生するのですね………私にも経験できるでしょうか?」

 嫌悪してる割りには男と女の関係に憧れはあるのか?

「ラルフ、あのな、正直に言うが、貴族の女相手じゃ無理かもしれん。それに、これは心の問題だ。無理に治そうとすれば更に悪化するかもしれねぇ。今は気にしたら駄目だ。気にすれば気にするほど改善とは程遠くなる。何かあればすぐ俺に言ってくればいい。話すだけでも気持ちの整理がついて落ち着くこともある。」
「ありがとうございます。」
「おう!じゃそろそろ戻るか。」



 ※

「みんな待たせた。」

 あっくんが戻ってきた。

「大丈夫?」
「あぁ、もう大丈夫だ。遅くなって悪かった。ちょっと問題が発生して長引いた。」
「解決、したの?」
「あぁ、バッチリだよ!」
「そっかーあっくんがそう言うなら安心だね!あのね、カオリンが魔力制御もう少しでモノにできそうなの!」
「香織さん、本当ですか!?」
「ええ、紫愛ちゃんがね、心臓と結び付けるって言うんだけど、それがよくわからなくて途中で躓いてしまったの。鈍臭くてごめんなさいね。」
「そんなことないよ!カオリン頑張ってるの知ってるよ!むしろとっても早いと思う!」
「香織さん、しーちゃんの言い方は少し感覚に寄った物言いなので、もしかしたらそれがわからないとかですか?」
「えぇーと、そうねぇ……もしかしたらそうなのかも。」

 えっ!?
 私の説明が下手だったからできなかったの!?

「ごめんなさい。」

 これは凄い落ち込む。
 カオリンの足を引っ張ってたなんて!

「紫愛ちゃん、私はね、勉強はできても運動方面はサッパリだったの。近くからボールがゆっくり飛んできても距離感がわからなくて受け取れないくらいなのよ?紫愛ちゃんのせいではなく、私の鈍臭さの問題だわ。だから謝らないでちょうだい。ここまでできるようになっただけで私には奇跡にも近いのよ。感謝しているの。だから謝らないで。ね?」
「…うん。」

 私が落ち込んでいると、あっくんが名乗りを上げた。

「香織さん、良ければ今から俺とやってみませんか?俺ならしーちゃんが言いたいことも香織さんが言いたいこともわかりますから。」
「何であっくんはわかるの?」
「しーちゃんてさ、身体を動かすことに関して感覚で教えられてきたんじゃない?最初のキッカケが感覚で、そこからは自己発想でやってきた。違う?」
「そう、だと思う。」
「太極拳はどうやって覚えたの?」
「本を見て、意義と動き方だけ覚えた。実際には見たこともないからあとは自己流。」
「でしょ?それって全て自分の感覚のみでやってるよね。そうなると、人に教えるのって難しいんだよ。教えてもらったことないから。対して俺は?人に教えてもらってそれをトレースするだけ。しーちゃんみたいに自己流なんて思いつきもしない。俺はもうしーちゃんに教えてもらってできるようになってる。だから俺なら教えられるかと思って。」
「そっか。じゃあカオリンのことお願い。」
「任せて。」

 そして、あっくんが教えたらあっという間にカオリンは心臓に紐付けて魔力制御完了。
 やっぱり私の教え方が悪かったんだ!
 ちょっと悔しいけど、でも1人でもできるようになったんだからおめでたいよね!
 あとは操作もできるようになれば…
 一応同時習得を目指して教えてたつもりだけど…

「カオリン!おめでとう!操作はできそう?」
「自分の魔力を自在に動かすのよね?」
「うん。私はできるんじゃないかと思うの。一応同時習得を目指して教えたつもり。制御を身につける時から自分で動かしてたでしょ?こっちの人は時間をかけて自然に任せて制御を終えるから、動かそうと思うのは制御が終わってから。だから更に時間がかかってると思うの。」

 あっくんは驚きの表情を浮かべる。

「しーちゃん、まさかそれ気付いてたの?」
「多分…って感じだけど。こっちの人が操作を身につけるのに人によってかなり差が出るのは、制御の段階で無意識に自分で魔力を動かしてるか動かしてないかの違いじゃないかな?って思って。」
「香織さんが魔力を自在に動かせればその仮説は証明できるな…香織さん、やってみてください。」
「ええ。」

 みんなが固唾を呑んで見守る中、カオリンは操作もこなした。
 自在とまではいかなかったけれど、かなり自由に動かせている。

「カオリン凄い!あと少しで完璧って感じ!」
「紫愛ちゃんも川端君もありがとう!2人のおかげよ!」
「カオリンが頑張ったからだよ!ね?」
「俺もそう思います。思ってた以上に早い。それにしーちゃんも凄いよ!仮説じゃなくなった!」
「魔力制御ができるようになったらみんなすぐ魔法使えるようになりそうだね!みんなの因子は何だろう?楽しみだね!」














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