水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
77 / 345

第77話    状況説明②

しおりを挟む



 シューさん、金谷さん、優汰、麗、カオリン、美青年、あっくん、私の順番に入っていく。

「こちらへお座りください。」

 部屋には、何人座れるのかというほどの大きな長いソファ。その前には同じ長さのソファよりも少し高めの机。反対側には1人がけの大きなソファのような椅子。
 私達は当然長いソファだ。
 部屋に入った順そのままに座り、ギュンターと呼ばれた人が座った全員に飲み物を配膳し終わると、皇帝の斜め後ろにいる2人の騎士のうちの1人に何やら話しかけ、その騎士が部屋の四隅にそれぞれ1人ずつ騎士を配置し、それ以外の騎士を部屋から下げた後、また皇帝の斜め後ろの位置に戻った。

「これ以上の人払いは私の立場もある故不可能だ。」
「わかった。」

 あっくんがそれに答える。


 部屋には私達8人と皇帝、ギュンター、騎士6人のみとなった。
 これでは、逃げようがない。
 異世界人達は全員目すら見えないのだ。相手がどこを向いているかもわからないのに、全員を相手に戦っても勝てるわけがない。
 相手の出方を見るしかないな。

 ギュンターが陶器のような物でできた鳥の置き物に触れた瞬間、薄い膜のようなものでこの部屋全体が覆われた。
 あっくんと私だけが目を忙しなく動かし周りの様子を窺っている。魔力を感じれば当然の反応だが、他の6人が反応していないところを見ると、やはり魔力制御は一切できないんだろう。

「待たせたな、私はアンドリュース カエサル ベルンシュタイン。このベルンシュタイン帝国の皇帝だ。」

 自身の名乗りが終わり、ギュンターに目配せをする。

「私の名前はギュンター ヘルツォーク バイエルンと申します。宰相をしております。」

 私達も順番に名乗っていく。

「鈴木修です。」
「金谷です。」
「影林優汰です。」
「辻井麗です。」
「古角香織です。」
「川端です。」
「紫愛です。」
「その者は?」

 皇帝は美青年が名乗らなかったので疑問に思ったのだろう。尋ねられたが「彼は話せない。言葉が通じていないようだ。」あっくんが素っ気なく応じて終了。

「なんと…1人だけ毛色が違うせいか?」
「20ほどの言語で話しかけたけれど反応しなかったわ。」

 カオリンもいつもと違い声に温度がない。
 呼んだお前らがわからないのに私達が言葉が通じない理由を知るわけがない。
 コイツ、まさか馬鹿なのか?

「仕方あるまい。その者への説明は後に考えよう。早速だが、私達が君達をここに呼んだ理由を話そう。まず、君達が先ほどまで入っていた白い箱だが、この世界に身体を馴染ませるために必要なことであった。あそこに入らなければ身体が馴染めず、すぐに死んでしまったであろう。説明を後回しにしたのは、身体の回復を待ってからの方がより良く事が運ぶと判断してのことであった。そして呼んだ理由についてだが、ここの世界には魔物と呼ばれる存在がいる。その数は年々増えていき、今ではかなりの被害が出ていてな、我々の手に負えない程になっている。突然ここに連れて来たのは申し訳なく思うが、1言で言えば、君達には魔物退治に力を貸してほしいのだ。勿論、君達の生活に必要な物は何でもこちらで用意しよう。」


 は?
 理由って……

 それだけ?


 たったそれだけのために誘拐されたの?

 もういい。
 付き合ってられん。

「あんたらの事情はわかった。私達を地球に戻せ。」
「なっっっ!何を!!こちらの事情はお話したでしょう!」

 皇帝ではなくギュンターがしゃしゃり出てきた。

 なんだ?こいつも馬鹿なのか?
 この国こんなんで大丈夫なのか?
 大丈夫なわけないか。
 大丈夫ならこんなことになってないわな。

「だから事情はわかったと言ったはず。私達を地球に戻せ。」
「そんな無茶なっ!」
「うるさいなぁ。いいから早く地球に戻せ。」

 皇帝の後ろに控えている騎士2人から殺気と注意が飛んでくる。

「言葉を慎め!」

 鬱陶しい。

「ちょっと待ってください!私は帰りたくありませんよ!」

 あーそういえばシューさんは帰りたくない派だったな。

「じゃあここに残るって人は手挙げて。手挙げた人はここに残るってさ。手挙げなかった人達は地球に帰せ。」

 そう言って地球人達を見やる。
 なんとシューさん1人しか手を挙げていなかった。金谷さんは?まぁコイツらと対峙して気持ちが変わったんだろう。

「シューさんは残ってくれるってさ。もういいでしょ?早く帰してよ。」
「ここに残って協力してくれれば何でも与えよう。」

 この皇帝は何を頓珍漢なこと言ってんの?

「それに何の価値があるわけ?この世界にある全ての物に何の価値もないと思ってる私達にそんなこと言って説得できると思ってるわけ?馬鹿なの?」
「言葉を慎めと言ったはずだ!この御方は皇帝陛下であるぞ!」

 ずっと私に殺気を飛ばしてきていた護衛の1人が声を荒げた。
 もはや溜め息しか出ない。

「だから何なの?コイツがどんな立場のやつだろうと私にとってはただの誘拐犯。敬いたいならあんたらが勝手に敬ってればいいでしょ?私には関係ない。」
「貴様あああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 殺気と警告を飛ばしてきた騎士が叫びながら斬りかかってきた。

「しーちゃん危ないっ!」

 あっくんが叫ぶが、問題ないよこんなの。

 剣を持った手を掴み私の方に引っ張り、その掴んだ手を視点に私の体重を使い遠心力をかけ、後ろに捻りながら回り込んでいく。
 するとあら不思議、剣は私の手の中、相手は私の前。
 これ以上雑魚の相手はしたくない。
 騎士の腕を後ろに捻り上げたまま、目の前のカップが並んだ机に叩きつける。奪った剣は首筋に向けておく。

「あんた、何でこんなに弱いのに斬りかかってきたの?皇帝の後ろについてるからてっきり強いのかと思ってたんだけど。それとも、本当は守る必要がない偽物皇帝?それとも、守る必要がないほど強いとか?ま、どっちにしてもこんなに弱いんじゃ人質としての取引材料にもならないか。」
「きっきさま!離せっ!」

 きっと一瞬だったから何が起こったかわからなかったんだろうねぇ、やっと声出したと思ったら脇役Bにもなれないようなセリフ。

「ねぇ、あんたの剣、いまどこにあるでしょうか?正解は、くーび!首と胴体サヨナラしたくなかったら黙ってろ雑魚が!!!」

 静まり返る室内。
 これ魔法具いらなかったんじゃない?

「おい誘拐犯、早く地球に戻せ。」
「なんとか考え直してくれないか。」
「くどい。」
「頼む。この通りだ。」

 そう言って立ち上がり頭を下げる誘拐犯。
 そんな姿を見せられても私の中の憎悪は何ら変わらない。

「あんたらは私達に感謝されるとでも思ってたの?ここに連れて来られて何の説明もないまま1ヶ月近く監禁され続け、私達の住む場所、地位、財産、友人、家族!その他全てのモノを奪っておいて、縁もゆかりも情も無いこの世界の為に使い潰されろと言われ、どうでもいい世界のどうでもいいお偉いさんへの少しの言葉遣いで斬りかかられた。誘拐犯を敬いながら話せと?誘拐してくれてありがとうとでも言えばいいの?」

 皇帝は頭を下げたまま微動だにしない。
 更に怒りが湧き上がってくる。

「あんたらの世界がどうなろうと知ったこっちゃない!私達にはなんの関係もない!私達を巻き込むな!滅びそうなら足掻き続けながらそのまま滅びろ!早く私達を地球に帰してよ!」

 長い静寂を経て、頭を下げたままの皇帝が口を開いた。

「それは、できない。」
「できないって何?あんたたちの事情に配慮も考慮もするつもりはないってさっきから言ってるでしょ?」
「……………戻す方法が、ないのだ。」



 は?

 ない?


「そんな馬鹿な!連れて来たんなら返す方法も当然あるでしょう?同じことすればいいだけなんじゃないの?」

 頭を下げたまま無言で首を横に振る皇帝。

「ははっ。誘拐犯、私に感謝しなよ?魔物に滅ぼされる前に私に滅ぼされるんだから。」

 氷漬けにして殺してやる!!!
 魔力を限界まで高める

 と、

 あっくんに止められた。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...