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第77話 状況説明②
しおりを挟むシューさん、金谷さん、優汰、麗、カオリン、美青年、あっくん、私の順番に入っていく。
「こちらへお座りください。」
部屋には、何人座れるのかというほどの大きな長いソファ。その前には同じ長さのソファよりも少し高めの机。反対側には1人がけの大きなソファのような椅子。
私達は当然長いソファだ。
部屋に入った順そのままに座り、ギュンターと呼ばれた人が座った全員に飲み物を配膳し終わると、皇帝の斜め後ろにいる2人の騎士のうちの1人に何やら話しかけ、その騎士が部屋の四隅にそれぞれ1人ずつ騎士を配置し、それ以外の騎士を部屋から下げた後、また皇帝の斜め後ろの位置に戻った。
「これ以上の人払いは私の立場もある故不可能だ。」
「わかった。」
あっくんがそれに答える。
部屋には私達8人と皇帝、ギュンター、騎士6人のみとなった。
これでは、逃げようがない。
異世界人達は全員目すら見えないのだ。相手がどこを向いているかもわからないのに、全員を相手に戦っても勝てるわけがない。
相手の出方を見るしかないな。
ギュンターが陶器のような物でできた鳥の置き物に触れた瞬間、薄い膜のようなものでこの部屋全体が覆われた。
あっくんと私だけが目を忙しなく動かし周りの様子を窺っている。魔力を感じれば当然の反応だが、他の6人が反応していないところを見ると、やはり魔力制御は一切できないんだろう。
「待たせたな、私はアンドリュース カエサル ベルンシュタイン。このベルンシュタイン帝国の皇帝だ。」
自身の名乗りが終わり、ギュンターに目配せをする。
「私の名前はギュンター ヘルツォーク バイエルンと申します。宰相をしております。」
私達も順番に名乗っていく。
「鈴木修です。」
「金谷です。」
「影林優汰です。」
「辻井麗です。」
「古角香織です。」
「川端です。」
「紫愛です。」
「その者は?」
皇帝は美青年が名乗らなかったので疑問に思ったのだろう。尋ねられたが「彼は話せない。言葉が通じていないようだ。」あっくんが素っ気なく応じて終了。
「なんと…1人だけ毛色が違うせいか?」
「20ほどの言語で話しかけたけれど反応しなかったわ。」
カオリンもいつもと違い声に温度がない。
呼んだお前らがわからないのに私達が言葉が通じない理由を知るわけがない。
コイツ、まさか馬鹿なのか?
「仕方あるまい。その者への説明は後に考えよう。早速だが、私達が君達をここに呼んだ理由を話そう。まず、君達が先ほどまで入っていた白い箱だが、この世界に身体を馴染ませるために必要なことであった。あそこに入らなければ身体が馴染めず、すぐに死んでしまったであろう。説明を後回しにしたのは、身体の回復を待ってからの方がより良く事が運ぶと判断してのことであった。そして呼んだ理由についてだが、ここの世界には魔物と呼ばれる存在がいる。その数は年々増えていき、今ではかなりの被害が出ていてな、我々の手に負えない程になっている。突然ここに連れて来たのは申し訳なく思うが、1言で言えば、君達には魔物退治に力を貸してほしいのだ。勿論、君達の生活に必要な物は何でもこちらで用意しよう。」
は?
理由って……
それだけ?
たったそれだけのために誘拐されたの?
もういい。
付き合ってられん。
「あんたらの事情はわかった。私達を地球に戻せ。」
「なっっっ!何を!!こちらの事情はお話したでしょう!」
皇帝ではなくギュンターがしゃしゃり出てきた。
なんだ?こいつも馬鹿なのか?
この国こんなんで大丈夫なのか?
大丈夫なわけないか。
大丈夫ならこんなことになってないわな。
「だから事情はわかったと言ったはず。私達を地球に戻せ。」
「そんな無茶なっ!」
「うるさいなぁ。いいから早く地球に戻せ。」
皇帝の後ろに控えている騎士2人から殺気と注意が飛んでくる。
「言葉を慎め!」
鬱陶しい。
「ちょっと待ってください!私は帰りたくありませんよ!」
あーそういえばシューさんは帰りたくない派だったな。
「じゃあここに残るって人は手挙げて。手挙げた人はここに残るってさ。手挙げなかった人達は地球に帰せ。」
そう言って地球人達を見やる。
なんとシューさん1人しか手を挙げていなかった。金谷さんは?まぁコイツらと対峙して気持ちが変わったんだろう。
「シューさんは残ってくれるってさ。もういいでしょ?早く帰してよ。」
「ここに残って協力してくれれば何でも与えよう。」
この皇帝は何を頓珍漢なこと言ってんの?
「それに何の価値があるわけ?この世界にある全ての物に何の価値もないと思ってる私達にそんなこと言って説得できると思ってるわけ?馬鹿なの?」
「言葉を慎めと言ったはずだ!この御方は皇帝陛下であるぞ!」
ずっと私に殺気を飛ばしてきていた護衛の1人が声を荒げた。
もはや溜め息しか出ない。
「だから何なの?コイツがどんな立場のやつだろうと私にとってはただの誘拐犯。敬いたいならあんたらが勝手に敬ってればいいでしょ?私には関係ない。」
「貴様あああぁぁぁぁぁぁぁ!」
殺気と警告を飛ばしてきた騎士が叫びながら斬りかかってきた。
「しーちゃん危ないっ!」
あっくんが叫ぶが、問題ないよこんなの。
剣を持った手を掴み私の方に引っ張り、その掴んだ手を視点に私の体重を使い遠心力をかけ、後ろに捻りながら回り込んでいく。
するとあら不思議、剣は私の手の中、相手は私の前。
これ以上雑魚の相手はしたくない。
騎士の腕を後ろに捻り上げたまま、目の前のカップが並んだ机に叩きつける。奪った剣は首筋に向けておく。
「あんた、何でこんなに弱いのに斬りかかってきたの?皇帝の後ろについてるからてっきり強いのかと思ってたんだけど。それとも、本当は守る必要がない偽物皇帝?それとも、守る必要がないほど強いとか?ま、どっちにしてもこんなに弱いんじゃ人質としての取引材料にもならないか。」
「きっきさま!離せっ!」
きっと一瞬だったから何が起こったかわからなかったんだろうねぇ、やっと声出したと思ったら脇役Bにもなれないようなセリフ。
「ねぇ、あんたの剣、いまどこにあるでしょうか?正解は、くーび!首と胴体サヨナラしたくなかったら黙ってろ雑魚が!!!」
静まり返る室内。
これ魔法具いらなかったんじゃない?
「おい誘拐犯、早く地球に戻せ。」
「なんとか考え直してくれないか。」
「くどい。」
「頼む。この通りだ。」
そう言って立ち上がり頭を下げる誘拐犯。
そんな姿を見せられても私の中の憎悪は何ら変わらない。
「あんたらは私達に感謝されるとでも思ってたの?ここに連れて来られて何の説明もないまま1ヶ月近く監禁され続け、私達の住む場所、地位、財産、友人、家族!その他全てのモノを奪っておいて、縁もゆかりも情も無いこの世界の為に使い潰されろと言われ、どうでもいい世界のどうでもいいお偉いさんへの少しの言葉遣いで斬りかかられた。誘拐犯を敬いながら話せと?誘拐してくれてありがとうとでも言えばいいの?」
皇帝は頭を下げたまま微動だにしない。
更に怒りが湧き上がってくる。
「あんたらの世界がどうなろうと知ったこっちゃない!私達にはなんの関係もない!私達を巻き込むな!滅びそうなら足掻き続けながらそのまま滅びろ!早く私達を地球に帰してよ!」
長い静寂を経て、頭を下げたままの皇帝が口を開いた。
「それは、できない。」
「できないって何?あんたたちの事情に配慮も考慮もするつもりはないってさっきから言ってるでしょ?」
「……………戻す方法が、ないのだ。」
は?
ない?
「そんな馬鹿な!連れて来たんなら返す方法も当然あるでしょう?同じことすればいいだけなんじゃないの?」
頭を下げたまま無言で首を横に振る皇帝。
「ははっ。誘拐犯、私に感謝しなよ?魔物に滅ぼされる前に私に滅ぼされるんだから。」
氷漬けにして殺してやる!!!
魔力を限界まで高める
と、
あっくんに止められた。
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