水と言霊と

みぃうめ

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第44話    現状把握⑪

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「あっくん、もしかして体調悪い?大丈夫?」
「あっ、い、いや大丈夫。なんともないよ?」

 言い淀んでるじゃないか!
 手を伸ばしオデコを確認…
 できない!届かない!

「しーちゃん?何してるの?」
「もう!届かないの!ちょっとしゃがんでよ!」

 体調の悪い人に言うことではない。
 だが届かないのだから仕方がない。
 首を傾げながら屈むあっくん。
 不思議そうにしてんじゃないの!心配してるのに!
 ペトッ。やっとオデコに触れたよ。
 片手はあっくんのオデコ。片手は自分のオデコ。
 んー?熱ないよね?
 デコvsデコやらないとわかんないか?
 と思っていると

「ぅおっ!」

 と言って後退るあっくん。

「なんだ元気じゃん。熱あるかと思ったし。」

 後退ったまま動かない。何?やっぱり体調悪いの?

「不意打ちは…卑怯だよしーちゃん。」

 なんとっ!?不意打ちと!?
 しかも卑怯とは何たる言い草。

「私より弱い人に不意打ちなんてするわけないでしょ馬鹿らしい。」

 あ、しまった。
 思わず口から出たのは男のプライドってもんを大層傷付ける台詞。

「「「「は?」」」」

 みんな仲良しこよし。

「私達は相性最高だね!みんな息ぴったり!」
「「「「それじゃない!」」」」

 ほら息ぴったり!
 それよりももっと魔法の考察がしたいんだよ私は!

「魔法の種類について書いてある本ありました?」
「いやいやいやいや、紫愛ちゃん、それはないでしょうよ。」

 相変わらずの優汰。話題掘り返しの達人だ。もうやめようよそれ。

「そんなことどうだっていいよ。さっきの続きを話したいから優汰は黙ってて。」
「おい、やめろ。」

 と、優汰を制止するあっくん。

「紫愛みたいなちっこい子が川端さんに勝てるわけないよね?」

 あーもーーーめんどくさっ!
 誰が誰よりどれだけ強いとか心底どうでもいい。

「そうですね私じゃ逆立ちしたって勝てませんよね。これでいい?満足?もうやめてくれる?」

 優汰を睨みつけてしまった。
 でも、続きを話したいって言ったのに食い下がってきたのは優汰だ。あっくんも止めてくれていたのに。

「優汰、引け。」

 ほら、止めてくれてるでしょ?

「でも「いいから引け!追い詰めるようなことしたら俺はお前に何するかわかんねぇぞ。」

 何の話?あっくん殺気漲ってるけど。
 追い詰められてんの優汰じゃない?
 ヤツみたいなこと言ってるからだよ。
 あのまま話してたら私はあっくんと戦わされてたかも。
 ヤツみたいなガタイのあっくんと対峙したら手加減忘れて殺しちゃいそう。



 やっぱり適度な距離間大切だな。
 これ以上仲良くならない様に距離取ろう。
 お互い適度に利用し合えればそれでいい。
 私は地球に帰れさえすれば良いんだから。

 馴れ合う必要はない。


 
「カオリーン!さっきの話の続きなんだけど一一一一一」




 ※

「優汰、お前ちょっとこっち来い!」

 しーちゃんから離れたところで話さなければ。麗は怒りを隠しきれない表情でついてきた。

「お前なんですぐ引かなかった?」
「優汰しつこい!最低!」
「だって勝てるわけないのに紫愛が変な事言うから!」
「勝てるかどうかなんてそんなことどうでもいい!紫愛の顔色見たの?笑った顔や怒った顔はいっぱい見せてくれてたけど、あんな無表情見たことない!人の気持ち考えられないなら優汰も1人でいればいいでしょ!」

 麗が珍しく饒舌だ。腹に据えかねたんだろう。優汰は自分の気持ちのままに良くも悪くも突っ込み過ぎる。

「お前は人の顔色を見ろ!特にしーちゃんは抱えているものが人と違うんだよ。とてつもなくデカいんだ。態度を変えろとは言わねぇ。ただ、しーちゃんの顔色だけでも見る努力くらいしろ。お前は潔癖気味で何でもかんでも白黒つけなきゃ気が済まん質かもしれんがな、白黒つけてハイ終わりじゃねぇんだよ。世の中グレーな部分はいくらでもある。グレーだからこそ救われることもあるんだ。そんなんだとこれから先お前自身も辛いぞ。」

 優汰は諭すように話した俺に食って掛かる。

「何でそんな言い切れるんだよ!シューさんと同じこと言うのは癪だけどさ。確かにあの泣き方も震え方も普通じゃないとは思うけど!やっぱり病気だって言い切れることがわかんない!」

 それに負けじと麗も言い返す。

「気持ちがわかるみたいな顔しておいて心の中では本当なのかって疑ってたってこと!?最低!シューさんより質が悪い!」

 不貞腐れたような顔をしている優汰は何もわかっていない。わかろうとする気がそもそもないんだろうな。

「やっぱりお前にとってはどこまでも他人事で白黒ハッキリさせなきゃいけないんだな。お前さ、人に殴られたことないだろ?自分が殴られるなんて考えることすらしたことないんじゃねぇか?随分綺麗な世界で生きてこられて羨ましいよ。だがな、体験しなきゃわからないことでも想像くらいはできるもんだろ?理解しろとは誰も言ってねぇよ。配慮しろって言ってんだ。今からの俺の話でハッキリ白黒つけて納得できたんならしーちゃんのことを少しだけでも気遣え!」
「ハッキリできたんなら何でもするさ!でもそんな事できるわけないだろ!」
「できるさ。」
「だからなんでだよ!!」
「俺も同じだからだ。」
「は?」
「俺も同じなんだよ。PTSD。軍に入って戦争行ってたからな。戦争って言やぁわかるだろ?殺し合いだよ。俺はその道の権威って言われるような先生についてもらって、最低限の普通の生活を送れるまでに5年かかった。悪夢や不眠は勿論、しーちゃんみたいに突然フラッシュバックに陥って暴れたりな…辛いのは本人だけじゃない、もっとも辛いのはそこに寄り添って行かなきゃならない人達だ。しかもPTSDに完治は存在しない。心の病だからな。勿論人によって症状の差はある。けどな、周りの仲間達が次々病んでいって、目の前で自殺された事もある。殺してくれと懇願されたことなんて数え切れん。戦いじゃない場所で仲間が死んでいくんだ。目の前に居るのに何もしてやれない状況でな。俺はそんな状況に居たんだ。」

 5年…とボソッと呟きながらさっきの勢いを失った優汰に俺は畳み掛ける。

「少しは想像できたか?目の前の、先生にも見てもらえていない苦しんでいる子1人助けたいと思って何が悪い?助けられるんなら助けたいと思うのは間違いか?納得できないんなら逆で言ってやろうか?お前は何でしーちゃんがPTSDじゃないと言い切れる?根拠は何だ?お前だって医者じゃねぇんだろ?」

 優汰は何も答えない。

「黙ってんのが答えだろ?やっと気付いたか?お前の常識、お前の正義が絶対じゃねぇんだ。お前自身もお前の周りもそういう世界で生きてきたんだろうけどな、ここでは通じない。自分が理解できないモノは排除する。そういう自分にだけ都合が良い世界で生きたいなら俺らとは一緒に居ないほうがいい。いつか取り返しのつかないことが起きる。」

 それを言ったらまた不貞腐れたような態度に戻った。
 なんなんだコイツは…ただのガキか?
 
「個だけを押し通そうとすると反発が起きる。それを抑え込む。抑え込めているうちは良いだろうな。優先された個だけが好き勝手に過ごせるだろう。では、抑え込めなくなったら?暴動だよ。そうなったら脅しでも何でもなく、ここにいる全員が全滅するだろう。仲間と呼んでいる奴等で殺し合いだ。」

 これにはわかりやすく顔を青褪めさせた。
 やっぱりガキだな…

「しーちゃんがな、優汰と話してると楽しそうなんだよ。あの子は中身の無い軽快でリズム感のあるノリが好きなんだろうな。お前はここでどうやって過ごしていくんだ?自分を見つめて考えた方が良いぞ。」












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