44 / 345
第44話 現状把握⑪
しおりを挟む「あっくん、もしかして体調悪い?大丈夫?」
「あっ、い、いや大丈夫。なんともないよ?」
言い淀んでるじゃないか!
手を伸ばしオデコを確認…
できない!届かない!
「しーちゃん?何してるの?」
「もう!届かないの!ちょっとしゃがんでよ!」
体調の悪い人に言うことではない。
だが届かないのだから仕方がない。
首を傾げながら屈むあっくん。
不思議そうにしてんじゃないの!心配してるのに!
ペトッ。やっとオデコに触れたよ。
片手はあっくんのオデコ。片手は自分のオデコ。
んー?熱ないよね?
デコvsデコやらないとわかんないか?
と思っていると
「ぅおっ!」
と言って後退るあっくん。
「なんだ元気じゃん。熱あるかと思ったし。」
後退ったまま動かない。何?やっぱり体調悪いの?
「不意打ちは…卑怯だよしーちゃん。」
なんとっ!?不意打ちと!?
しかも卑怯とは何たる言い草。
「私より弱い人に不意打ちなんてするわけないでしょ馬鹿らしい。」
あ、しまった。
思わず口から出たのは男のプライドってもんを大層傷付ける台詞。
「「「「は?」」」」
みんな仲良しこよし。
「私達は相性最高だね!みんな息ぴったり!」
「「「「それじゃない!」」」」
ほら息ぴったり!
それよりももっと魔法の考察がしたいんだよ私は!
「魔法の種類について書いてある本ありました?」
「いやいやいやいや、紫愛ちゃん、それはないでしょうよ。」
相変わらずの優汰。話題掘り返しの達人だ。もうやめようよそれ。
「そんなことどうだっていいよ。さっきの続きを話したいから優汰は黙ってて。」
「おい、やめろ。」
と、優汰を制止するあっくん。
「紫愛みたいなちっこい子が川端さんに勝てるわけないよね?」
あーもーーーめんどくさっ!
誰が誰よりどれだけ強いとか心底どうでもいい。
「そうですね私じゃ逆立ちしたって勝てませんよね。これでいい?満足?もうやめてくれる?」
優汰を睨みつけてしまった。
でも、続きを話したいって言ったのに食い下がってきたのは優汰だ。あっくんも止めてくれていたのに。
「優汰、引け。」
ほら、止めてくれてるでしょ?
「でも「いいから引け!追い詰めるようなことしたら俺はお前に何するかわかんねぇぞ。」
何の話?あっくん殺気漲ってるけど。
追い詰められてんの優汰じゃない?
ヤツみたいなこと言ってるからだよ。
あのまま話してたら私はあっくんと戦わされてたかも。
ヤツみたいなガタイのあっくんと対峙したら手加減忘れて殺しちゃいそう。
やっぱり適度な距離間大切だな。
これ以上仲良くならない様に距離取ろう。
お互い適度に利用し合えればそれでいい。
私は地球に帰れさえすれば良いんだから。
馴れ合う必要はない。
「カオリーン!さっきの話の続きなんだけど一一一一一」
※
「優汰、お前ちょっとこっち来い!」
しーちゃんから離れたところで話さなければ。麗は怒りを隠しきれない表情でついてきた。
「お前なんですぐ引かなかった?」
「優汰しつこい!最低!」
「だって勝てるわけないのに紫愛が変な事言うから!」
「勝てるかどうかなんてそんなことどうでもいい!紫愛の顔色見たの?笑った顔や怒った顔はいっぱい見せてくれてたけど、あんな無表情見たことない!人の気持ち考えられないなら優汰も1人でいればいいでしょ!」
麗が珍しく饒舌だ。腹に据えかねたんだろう。優汰は自分の気持ちのままに良くも悪くも突っ込み過ぎる。
「お前は人の顔色を見ろ!特にしーちゃんは抱えているものが人と違うんだよ。とてつもなくデカいんだ。態度を変えろとは言わねぇ。ただ、しーちゃんの顔色だけでも見る努力くらいしろ。お前は潔癖気味で何でもかんでも白黒つけなきゃ気が済まん質かもしれんがな、白黒つけてハイ終わりじゃねぇんだよ。世の中グレーな部分はいくらでもある。グレーだからこそ救われることもあるんだ。そんなんだとこれから先お前自身も辛いぞ。」
優汰は諭すように話した俺に食って掛かる。
「何でそんな言い切れるんだよ!シューさんと同じこと言うのは癪だけどさ。確かにあの泣き方も震え方も普通じゃないとは思うけど!やっぱり病気だって言い切れることがわかんない!」
それに負けじと麗も言い返す。
「気持ちがわかるみたいな顔しておいて心の中では本当なのかって疑ってたってこと!?最低!シューさんより質が悪い!」
不貞腐れたような顔をしている優汰は何もわかっていない。わかろうとする気がそもそもないんだろうな。
「やっぱりお前にとってはどこまでも他人事で白黒ハッキリさせなきゃいけないんだな。お前さ、人に殴られたことないだろ?自分が殴られるなんて考えることすらしたことないんじゃねぇか?随分綺麗な世界で生きてこられて羨ましいよ。だがな、体験しなきゃわからないことでも想像くらいはできるもんだろ?理解しろとは誰も言ってねぇよ。配慮しろって言ってんだ。今からの俺の話でハッキリ白黒つけて納得できたんならしーちゃんのことを少しだけでも気遣え!」
「ハッキリできたんなら何でもするさ!でもそんな事できるわけないだろ!」
「できるさ。」
「だからなんでだよ!!」
「俺も同じだからだ。」
「は?」
「俺も同じなんだよ。PTSD。軍に入って戦争行ってたからな。戦争って言やぁわかるだろ?殺し合いだよ。俺はその道の権威って言われるような先生についてもらって、最低限の普通の生活を送れるまでに5年かかった。悪夢や不眠は勿論、しーちゃんみたいに突然フラッシュバックに陥って暴れたりな…辛いのは本人だけじゃない、もっとも辛いのはそこに寄り添って行かなきゃならない人達だ。しかもPTSDに完治は存在しない。心の病だからな。勿論人によって症状の差はある。けどな、周りの仲間達が次々病んでいって、目の前で自殺された事もある。殺してくれと懇願されたことなんて数え切れん。戦いじゃない場所で仲間が死んでいくんだ。目の前に居るのに何もしてやれない状況でな。俺はそんな状況に居たんだ。」
5年…とボソッと呟きながらさっきの勢いを失った優汰に俺は畳み掛ける。
「少しは想像できたか?目の前の、先生にも見てもらえていない苦しんでいる子1人助けたいと思って何が悪い?助けられるんなら助けたいと思うのは間違いか?納得できないんなら逆で言ってやろうか?お前は何でしーちゃんがPTSDじゃないと言い切れる?根拠は何だ?お前だって医者じゃねぇんだろ?」
優汰は何も答えない。
「黙ってんのが答えだろ?やっと気付いたか?お前の常識、お前の正義が絶対じゃねぇんだ。お前自身もお前の周りもそういう世界で生きてきたんだろうけどな、ここでは通じない。自分が理解できないモノは排除する。そういう自分にだけ都合が良い世界で生きたいなら俺らとは一緒に居ないほうがいい。いつか取り返しのつかないことが起きる。」
それを言ったらまた不貞腐れたような態度に戻った。
なんなんだコイツは…ただのガキか?
「個だけを押し通そうとすると反発が起きる。それを抑え込む。抑え込めているうちは良いだろうな。優先された個だけが好き勝手に過ごせるだろう。では、抑え込めなくなったら?暴動だよ。そうなったら脅しでも何でもなく、ここにいる全員が全滅するだろう。仲間と呼んでいる奴等で殺し合いだ。」
これにはわかりやすく顔を青褪めさせた。
やっぱりガキだな…
「しーちゃんがな、優汰と話してると楽しそうなんだよ。あの子は中身の無い軽快でリズム感のあるノリが好きなんだろうな。お前はここでどうやって過ごしていくんだ?自分を見つめて考えた方が良いぞ。」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる