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第2話 私の人生②
しおりを挟む中学2年生になった頃、長期の入院をするほどの体調不良にみまわれ、2ヶ月の入院から退院して帰ると、父親から
「お前は跡継ぎから外す」
と告げられた。
まともに勉強もさせてもらえず、跡を継ぐ為だけに過酷な生き方をしてきた千早にとって、いきなり自由を得られたところでどうしていいのかわかるわけがない。
放り出され、お前はいらないと言われたのと同じなのだから。
暫くは何も手につかずボーッと過ごしていた。道場に近づくことも許されず、友達もほぼいない。まともな生活を送っていなかったのだから、普通に育った学校の子供達と話が合うわけがなかった。
ある時、夕飯の準備をしていると、同じく夕飯の準備に来た弟子の1人と遭遇する。
色々話しかけてくれ、どうしたら良いのかわからないと相談すると、勉強をしてみては?と提案される。
今更勉強したところで高校に通わせてもらえるわけがないと伝えると
「働きながら定時制高校にも通えるし、勉強さえ出来れば高卒認定試験なんてのもあるよ。」
と、提案してくれたのだ。
弟子も親からはほぼネグレクトな状態で、面倒を見てもらう代わりに弟子になれとここに来たんだと、中卒ではまともな仕事につけないから、自分で色々調べたことがあるんだと教えてくれた。
なるほど、と思い、学校の担任の鈴木先生にまずは相談してどうしたら良いのかを聞いた。
先生も、生傷の絶えない私を心配してくれていたらしく
「そういうことは私が調べるから、とりあえず千早さんは勉強を開始してください。時間が勿体無いから分業でいきましょう。勉強でわからないことがあれば聞いてください。教えます。」
と言ってくれ、学校でも家でも勉強漬けの日々を開始する。
学校での授業しか聞いていなかったが、意外と勉強すると解るものだ。授業を聞いていて良かったと感じる。最低限の基礎はわかっているためか自力での勉強は苦ではなく、わからないことは先生が教えてくれた。
中学3年生になり、先生から
「これからどうしたいか考えたことはありますか?」
と聞かれたので
「家を出たい。高校に受かって、もし特待生で入れることになったとしても制服も買ってもらえないだろう」
と告げると
「では、高卒認定試験を受けましょうか?」
と言われた。
答えは一択。
「はい。」
「高卒認定試験は満16歳にならないと受けられませんし、かなり難しいと思います。それまでに、勉強をしつつ家を出る為の資金を稼ぎましょう。中卒だと働けるところは限られます。すぐに見つけられるのは体力仕事だと思いますが、デスクワークも探せばあるはずです。どんな仕事をしてみたいですか?」
「体力には自信があります!」
というか、私にはそれしかない。
「では、私の知り合いに土木業をやっている親方がいるのでそこで雇ってもらえるか聞いてみましょうか?中学を卒業したらすぐ働けるように頼んでみましょう。勿論、合わなければ辞めても良いですからね。」
「ありがとうございます。是非お願いします。」
先生が紹介してくれたその人は先生の遠い親戚らしい。親方はぶっきらぼうではあったがとても優しかった。先生からある程度の事情は聞いているみたいだ。中学を卒業と同時に働かせてもらえることになった。
仕事は厳しかったが、みんな私の働きぶりにとても驚いていた。チビで筋肉もついていないような身体付きで、モルタルの袋を2袋軽々担ぎ上げ走って運ぶ姿には唖然としていた。本当に女子か疑われたこともある。因みに1袋は25kgである。
親方の下で働きながら自力で勉強していたが、どうにもつまづくことや理解できないことが増えていく。自力だけでの勉強に限界を感じ、休みの日には家庭教師を雇って解らない所を教えてほしいが、実家に呼ぶわけにはいかなかった。悩んでいると親方が
「なんか悩んどるのか。言ってみろ。」
と声を掛けてくれたので、家庭教師を雇いたいが呼べる場所がなくて困っていることを話すと
「なんだそんなことか。俺んとこに来い。空いてる部屋ならあるし好きに使えや。」
とあっけらかんと言ってくれる。
本当に良いのか悩んでまた困っていると
「子供がんなことで悩んでんじゃねーよ。素直に甘えとけ。子供の特権だろーが。」
と言われ、呆然とした。
特権とは何か
それは当たり前のことなのか
何故こんなに優しくしてくれるのか
親方にはメリットがあるのか
これを受け入れたら何を要求されるのか
不安だった。
親方は私の不安を感じ取ったのか困り顔をしながら
「子供になんか要求するほど困ってねぇよ。仕事頑張ってくれりゃそれでいい。」
と言ってくれた。
なるほど、それなら自分にもできる。
今まで以上に頑張ろうと思った。
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