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第4章 夢幻との決戦

     夢幻仙の捕獲

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 それはあっという間の出来事だった。栓を外した瓢箪が自分に向けられているのも知らず、迂闊にも夢幻仙は、天狼星の呼びかけに答えてしまった。

 返事をした瞬間、夢幻仙の霊体が、まるで麺のように引き伸ばされた。あたかも、ブラックホールに捕まった物体が、その人知を越えた潮汐力によって、バラバラに分解されて引き伸ばされたのと同じ光景だった。

 ビューーーーーーー!!

 瓢箪は周囲の空気もろとも夢幻仙をその内部に飲み込んだ。

 「はい、これでおしまい! アハハ、あたい、こんな呆気なくあいつが終わるとは思わなかったよ」

 瓢箪に栓をすると、妲己ちゃんは中身を確かめるように振りながら可笑しそうに笑った。どうやってこの中身を苦しめてやろうかと、妲己ちゃんの破顔には残忍な光が宿っている。

 「······やつの高慢が彼我ひがの状況を計り損ねたのだ」

 「己を知り敵を知らずばを地で踏み外したんだね、馬っ鹿なやつ!」

 「今思い出しましたが、斉天大聖様の瓢箪は吸い込んだ物を跡形もなく溶かしてしまうのでは······」

 我輩は瓢箪に吸い込まれた夢幻仙様が気の毒だった。

 「······大聖の瓢箪は、吸い込んだ物質を霊気に変えてしまうのだ。元々夢幻は霊体なので、吸い込まれたところで何も変わらん」

 「そう言うこと。あんたも聞いてみな」

 妲己ちゃんは我輩の耳に瓢箪を押し当てた。

 「······お······の······れ······ひ······き······ょ······う······も······の······」

 微かにだが、瓢箪を通して中から夢幻仙様の声が伝わってくる。ただ外に出られないだけで、どうやら夢幻仙様は元気なようだった。

 「······何をホッとしたような顔してるのよ?」

 不味い物でも見るように我輩を1べつすると、妲己ちゃんは瓢箪をサッカーボールのように思い切り蹴飛ばした。勢い良く壁にぶつかった瓢箪は、甲高い音を立てて跳ね返った。その衝撃が中の夢幻仙様にどのように伝わったのかを思うと、我輩の心は掻き乱されてざわついた。

 「エロ、それはあんたに渡しとく。首にでもかけときな」

 妲己ちゃんは床に転がる瓢箪を、我輩の首にかけた。

 「あの、それで、これから夢幻仙様をどうするのですか?」

 「······夢幻は死んでいない。まずは仙界へ連れて行き、娘娘達の下で幽閉するのがよかろう。その間に、天宮で夢幻に対する然るべき措置を願い出るのだ」

 「もう2度とあのスケベに霊力なんてやらないでよ!!」

 「······夢幻の行状は、我や南斗六星によって見定められている。それに夢幻については、我が主であらせられる西王母様も含むところがおありだ。太上老君もいい加減な沙汰で厄介を払うことは出来ないだろう······南斗六星、天宮では私情に流されず、正確に夢幻の行状を報告するのだ」

 「そうだよ、エロ! 情なんかにほだされたら、焼き肉にして食べちゃうからね!」

 我輩は妲己ちゃんにきつく睨まれた。夢幻仙様に肩を持ったら、本当に焼き肉にされそうな鋭い視線が、我輩の身体中を串刺しにする。

 「······我は1足先に天宮へ向かう。お主の父母へお主のことを知らせようと思う。我は天狼星の1部に過ぎぬが、お主のことを知ればお喜びになるだろう。合わせて、今度の1件を西王母様に報告する必要もある。我としては、今度の件では太上老君だけではなく、閻魔王からもご判断願いたいのだ。何しろ2柱の娘娘にゃんにゃんが、長年にわたって神としての働きを封じられていたのだ······この罪は重い」

 「そうそう、地獄の最深部まで蹴っちゃって!」

 破魔矢と妲己ちゃんの話を聞いていると、夢幻仙様の身柄は絶望的に見えた。夢幻仙様はやり過ぎていたのだろうか? 夢幻洞での夢幻仙様は、京香のような娘を相手にしてよく楽しんでいたが、特段、我輩は疑問に感じてはいなかった。

 夢幻仙様は神社の御神体でありながらその立場を悪用して、好みの娘の信心を利用し、弄んでは己の欲望を満たしていた。確かに、神に相応しくない行いである。

 そういう人間の娘を楽しむために、魔利支魔利支まりし娘娘様と瓊霄けいしょう娘娘様のお二人を封じていたことは、仙人というより悪魔的な行為かも知れない。閻魔大王様のお耳に入ったら、ただでは済まないだろうな······

 「······それでは、南斗六星に妲己、天宮でまた会おう」

 そう言うと、破魔矢はその霊力を、我輩の体から仙宝に移した。周囲に破魔矢の唱える呪文が響きわたる。星屑の空に向かって7色の光柱が伸びた。幻想的な夜を彩る満月の光が、霞んで見えるほどの輝きだった。その輝きは徐々に弱まっていき、再び満月の夜が訪れた時には、破魔矢の光は南天を照らす1つの星になっていた······

 
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