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第3章 お供え物を求めて

   奥の殿③ ~2柱の女神~

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 我輩はお供え物を咥えたまま、裸像の周りを意味もなく彷徨うろついていた。埃が舞い上がって鼻がむずむずする。

 いったい、これらの像はいつからここにあったのだろう。胸、尻、口や陰部などの磨り減り方から、かなり古いもののように思えた。

 おやっ? 台座が埃を被っていてよくわからなかったが、台座の側面に文字が彫られていた。左の台座の側面には、❬摩利支まりし娘娘❭と彫られていた。

 摩利支娘娘? 我輩はお目にかかったことはないが、夢幻洞の摩利支殿におわす女神様である。夢幻仙様がよく会いに行っていたのを思い出す。

 我輩はもう1度、台座の上で開脚しながら座る裸の少女を見た。切ない瞳を夢幻仙様に向けている。この少女が摩利支娘娘だったのか······

 女神様は夢幻仙様に焦がれているようだった。確か、摩利支娘娘様には仲の良い女神様がいたはず。摩利支殿の近くにある瓊霄けいしょう殿の女神、瓊霄娘娘様だ。

 我輩は右の裸像が乗る台座を見た。思った通りだ。台座の側面には❬瓊霄娘娘❭と彫られたプレートが付いていた。顔は台座に埋まっていて分からないが、四つん這いになって、尻を夢幻仙様の方へ突き上げている少女が瓊霄娘娘様のようだった。

 「······エロ? ······エロ、聞こえる?」

 我輩の中に女の子の声が伝わってきた。その声には、もの悲しい響きがあった。どことなく泣いているような雰囲気だった。

 「エロ、私よ······摩利支娘娘よ。私達を助けて······」 

 我輩は吃驚びっくりして裸の少女を見上げた。そして、再び吃驚した。なんと、夢幻仙様を焦がれるように見つめていた少女が、我輩を見下ろしているではないか!

 それだけではない。右の台座の上で、尻を夢幻仙様に向けて四つん這いになった少女も我輩の方を見ていた。確か、顔を台座に埋めていた筈だが······

 「ここは······あなたのいた世界ではないわ」

  右の瓊霄娘娘がすすり泣きながら言った。

 「そう、ここは異界。夢幻神社の裏手には奥の殿などないの。丘の頂上には雑木林が広がっているだけよ」

 左の摩利支娘娘が疲れた声で漏らした。

 「あなたが見た広場は、約1500年前の姿よ。私達があなたをここへ呼んだの。お願い、お供え物は捧げないで」

 摩利支娘娘はそう言うと、中央の夢幻仙様に対してきつい目を向けた。

 「し、しかし、お供え物を祭壇に捧げないと我輩は夢幻洞に帰れない······」

 「大丈夫よ、私達が夢幻洞ヘ還してあげるから。でも、ここにお供え物を捧げられると、私たちは夢幻から自由になれないの」

 2人の女神は、陵辱され続けた無惨な肢体を眺めた。

 「この私達の像は、夢幻が私達から霊力を奪い、その夢幻を敵から守る結界なの。下の本殿で狐火の女の子が消えたでしょう。夢幻に危害が加えられないように、私達が、不本意だけど排除したの。大丈夫よ、あの娘は私達が安全な場へ送ったから」

 瓊霄娘娘様が妲己ちゃんの安否を保証した。

 「そうよ、あの娘は夢幻の魔の手に落ちてなんかいないから。私達が、夢幻から解放されれば、あの娘は元の世界に戻れるわ」

 「で、では、我輩はどうしたら······?」

 「ここにある枷を全てはずしてほしいの」

 摩利支娘娘が、歯痒そうに言った。

 「枷?」  
 
 「そうよ、これらお供え物のことよ。確かに、夢幻にとっては私達の自由を奪って、女神の力を好きに使えるのだから、お供え物と言うのは正しいわ。けれど、私達にとっては枷でしかないわ。これら枷のせいで、私達は夢幻の好色を満たすために霊力を利用され、私達自身も夢幻の性的玩具にされているの」

 瓊霄娘娘の彫刻の瞳から涙が頬を伝った。

 「それでは、これらのお供え物はいったい誰が?」

 「夢幻に唆された愚かな男達よ。お供え物を捧げれば、女達と好きなだけ快楽に耽れるとか言ってね。私達の肢体が汚されてボロボロな理由がわかるでしょう。この像は依り代で、私達が憑依すると像は生身の私達になるの。私達はこの依り代に憑依させられては、千年以上もの長い間、生身の少女になることを繰り返して、夢幻の信者と称するスケベ達から、凌辱の相手をされ続けてきたの」

 摩利支娘娘の口調に悔しさが滲む。

 「エロ、あなたは霊犬だから、枷を食いちぎれると思うの。私達を自由にして娘娘洞を取り返して」

 瓊霄娘娘の口ぶりも悔しげだった。

 「娘娘洞?」

 「そうよ、夢幻洞は元々、娘娘洞という私達の仙郷だったの。エロ、あなたのお母さんは、私達の使いとして、仙郷と天界を往き来する霊犬だったのよ」

 「母を知っているのか!」

 我輩は雷に撃たれたような衝撃を受けた······


  
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