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第3章 お供え物を求めて

       奥の殿①

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 本殿の裏手に細い参道が続いている。周囲は神木が生い茂っていて薄暗かった。木漏れ日が微かに射し込むだけなので、さすが秋もたけなわ、奥の殿へ向かう道は肌寒かった。

 夢幻神社の裏は小高い丘になっている。雑木林の中を、クネクネと伸びるハイキング道を登っていくと、しめ縄がかかった木製の鳥居が現れた。長年の風雨に晒されて、ところどころに変色がみられる。

 鳥居の両脇には苔むした石灯籠とうろうが立っていて、"奥の殿"と彫られていた。鳥居の先には石の階段が続いている。我輩は鳥居を潜って階段を駆け登った。結構古いのか、それとも手入れが行き届いていないのか、階段は石が欠けたり崩れたりしている箇所が幾つもあった。そこからは木の根が姿を現している。

 本殿とは違って、奥の殿はあまり参拝客が訪れないようだった。古色蒼然にひっそりと朽ちていっているようだ。

 階段を登りきると、丘の頂上に来た。頂上は広場になっていて、切り開かれた木々の間から陽光が差し込んでいる。

 広場のほぼ中央に、これまた古汚い社が建っている。色彩らしいものは何もなく、雑木林の色彩にしっかりと溶け込んでいた。良く言えば、素朴で自然な趣を醸し出している。悪く言えば、打ち捨てられた廃社だ。

 どうやら、これが奥の殿らしかった。それは、我輩が想像していたのとはずいぶん違っていた。我輩は薄く下草が伸びる広場を、奥の殿へと歩いていった。

 どこか禍々しい雰囲気が満ちていた。本殿の清浄さとは正反対だった。あのボロい社には悪霊が潜んでいて、我輩が入ったら襲いかかって来るのではないか。そんな雰囲気だった。

 社の横に薄汚れた案内板が立っている。

 AD483年創建。当時、この地を支配していた女豪族がいた。この女は、好みの男を召しては愛欲に耽り、飽きては殺すと言うことを繰り返していた。召し抱えられた男の中に夢幻と言う者がいた。夢幻は豪族を性的虜にして逆に支配してしまった。しかし、今度は夢幻による女あさりが始まった。男は豪族に女は夢幻に各々食い尽くされ、この地から人がいなくなった。
 当神社は、性的欲望を貪り尽くした夢幻達の住居である。この地から人がいなくなると同時に、夢幻らの姿も何処へと消え失せ、現在に至っている。
 江戸期になって、新しく本殿が建立されたが、夢幻は仙人となり、恋愛から学問に至るまで幅広くご利益を授ける大神となった。どこで話が食い違ったかは知らぬが、夢幻は神と言っても邪神である。

         明治19年9月18日

        神社本庁第2調査部
  街村 壮吉 南西大学民俗学教授
 
 我輩はちょっとビクビクしながら、社の扉の前にに立った。カビ臭さが漂ってくる。扉の下方に一部欠けているところがあった。潜るにはややきついが、出来ないことはなさそうだった。我輩はそこから内部を覗いた。

 チューーー、チッーーー!

 我輩が覗き込むと、突然、そこから灰色の物体が、甲高い音をあげて飛び出してきた。我輩は驚いて飛び下がった。心臓がバクバクいっている。

 チチチッーーー!

 良く見ると、それは肥えたどぶねずみだった。しかも2匹。我輩に驚いて飛び出したネズミ達は、一目散に茂みの中へ姿を消した。

 我輩は恐怖と驚きが和らぐと、改めて社の中を覗いた。中は薄暗くてよくわからない。かび臭さと湿っぽさに加えて、埃っぽさが漂ってきた。こうしていても埒があかないので、我輩は意を決して、扉の穴から中へ入った。

 入ったばかりの時は、暗くて周囲が分からなかったが、少しずつ目が慣れてくると、周りの様子が見えてきた······

 
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