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第1章 夢幻神社の可愛い娘

     ここは夢幻神社

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 我輩の視界いっぱいに、薄暗くて埃っぽい板張りの部屋が広がった。正面には、外へと出入りする木の扉がある。
 
 一体、ここはどこだろう? どう見ても夢幻洞ではないようだが······
 
 我輩は鼻をひくつかせた。なんて汚れた空気だろう。夢幻洞の香気が全く感じられない。朱雀や鳳凰などの霊鳥がどこにも見当たらない。その霊鳴も聞こえなければ、気配も感じられなかった。
 
 我輩は慌てて今来た後ろを振り返った。
 
 ······!!
 
 無かった······ 通って来たはずの渾沌門が無かった。影も形も無かった。そこには、人間らしき木彫りの像と背後の板壁があるだけだった。
 
 我輩は、どうしたら良いか解らず、途方に暮れてしまった。
 
 渾沌門は仙界と裟婆を繋ぐ門であった。裟婆は、仙界には存在しない疫病から争いまで、ありとあらゆる苦悩が存在するけがれた世界だと仙人様がおっしゃっていたのを思い出した。すると、ここは裟婆か?
 
 我輩は部屋に漂う気を嗅いだ。
 
 クンクン······
 
 空気には大量の穢れが混ざっていた。どうやら、我輩は情欲を嗅ぎ分けられるらしく、痴情に狂った穢れが1番強く臭ってくる。それらは、扉の隙間を通って外から流れてくるようだった。
 
 獣じみた渇望、淫靡な恥辱、そして、卑猥な妄念などが気の中で乱れ狂っていた。様々なスケベ臭を嗅ぎ分けるところから、夢幻仙様は我輩のことをエロと呼ぶようになったのだ。その証拠に、我輩の首輪には仙語で「エロ」と書かれた仙宝のプレートが付いている。
 
 我輩は、1度にたくさんのスケベ臭を嗅いで気持ち悪くなってしまった。その場で、床の上に力なくうずくまった。劣情に当てられて、我輩の霊気が弱まってしまったらしい。
 
 しばらく、そうやって耐えていると、少しずつ淫気に慣れてきた。失った霊気は取り戻せなかったが、とりあえず再び立ち上がれるようになった。
 
 ここでこうしていても始まらないので、我輩は扉を押して部屋の外へと出た。
 
 外は雲1つない真っ青な秋晴れの午後だった。傾き始めた陽光が、我輩の体を黄色く染めていく。
 
 我輩の前には石畳の道が、1本真っ直ぐに伸びていた。その先には、鳥居が立っている。石畳は参道のようだった。道の左右には、白玉の砂利が敷き詰められている。更にその両奥では、木陰を作っているたくさんの神木が、吹き抜ける秋風に葉をさざめかせていた。
 
 どうも風がスケベな穢れを運んでくるようだった。四方八方から淫気を吹き集めてくる。ここは、夢幻洞とは比べるべくもないが、霊気が満ちている。だが、ここの周囲があまりにも穢れているので、この場所も穢れてしまっているだけだった。
 
 我輩のいた部屋は、この霊的空間の中心だった。御神体と思われる木彫りの像は、よく見ると我輩の主である夢幻仙様とそっくりだった。扉の上には、
   
      《神仙夢幻明神》

と彫られた額がかかっている。
 
 《神仙夢幻明神》て夢幻仙様のことではないか?
 
 参道に降りて、神像と額を交互に見やっていると、鳥居の方から1人の娘がやって来た······


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