時計仕掛

lacconicksou77

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ロックスター雄介

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 永遠のように果てしなく長い日々に感じたが、思い返してみればあっという間だった。時間というものは、その概念が、人間の感情や感覚とは一致していないのかもしれない。そんなことをよく考える。

 俺達が手塩に掛けて、何十時間も熟成し、案を出し合い、時には喧嘩をして、完成させたたった二時間のこの舞台は、時間でいえば圧倒的に苦が多かったが、その何十倍もの楽が返って来ている。
 もっと言ってしまえば、今まで生きてきた三十二年分の人生は今この瞬間の為にあったのではないかとすら思える。時間とは不思議なものだ。
 俺は、ステージのセンターでマイクを持って、集まったオーディエンスに向かってお礼の言葉を叫ぶ和真の姿を見て、そんなことを考えていた。 

 今は長年夢である、日本武道館公演、そのアンコール後のMCの真っ最中だ。

 和真のMCのボルテージが上がってゆく、和真のMCに寄り添うように、観客を煽るように、ギターを掻き鳴らした。俺のギターに合わせて、リードギターの良樹が一つ上のパートを奏でる。ベースの道弘とドラムの智也が俺達に合わせるようにアンサンブルを奏でて、会場を一つにしていく。
 観客は、もう終わってしまう時間を惜しむように、それでも最後まで楽しもうと腕を名一杯振り上げる。
 俺達は最後までその期待に応えなければならない。和真が声を張り上げる。
「聞いてください。最後の曲です」 
 間違いなく今の俺は、人生という長い道のりの高い頂きのピークに立っていると感じていた。



 武道館ライブを皮切りに俺達『BLUE SHAWER』は更に売れた。
 あらゆる音楽番組、大型フェスへの出演。映画の主題歌も決まった。
 俺が武道館で感じていた人生のピークが面白いように何度も訪れた。
なんでも思うようにやりたいことが出来た。まさに側から見れば順風満帆の日々だろう。だが俺は得も言われぬ感覚に日々悩まされていた。

 次第に上がる周囲の期待値。奈落への恐怖。周りの目が酷く気になり、外を出歩くことさえも出来なくなる。

 音楽は簡単に人の命を救う。バンドは時に、望まずともヒーローになってしまう。
 俺達も皆と同じ、ただの働く人間なのに。

 この世界を選んだ宿命ともいうべきか。
 誰かの一部になれるとうい至極光栄な想いと、経験をしたことがある者にしか到底計り知れない。岩石のように重く硬いプレッシャーがのし掛かり、悲しいだとか苦しいだとか、簡単な言葉さえも、吐き出せないようになっていた。
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