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第一部 チートが暴く世界 1章 楽しきチート・ライフ

1-13. 封印されし魔人

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「ぬおぉぉぉ!」
 つばを持って全力で引っ張る……が、抜けない。レベル千の怪力で抜けないとは思わなかった。どれだけ俺は剣に嫌われているのだろうか……。
 頭にきたので、引いてダメなら押してみなってことで、思いっきり押しこんでやった。

「うおぉりゃぁ!」
 すると、パキッと音がして台座の石がパックリと割れた。剣もまさか押し込まれるとは想定外だろう。うっしっし!
 
 無邪気に喜んでいたら、黒い霧がプシューっと噴き出してきた。

「うわぁ!」
 俺は思わず逃げ出す。

「グフフフ……」
 嫌な笑い声が小部屋に響いた。
 振り返ると、黒い霧の中で何かが浮かんでいる……。明らかにまともな存在ではなさそうだ。さて、どうしたものか……。

 やがて霧が晴れるとそいつは姿を現した。それはタキシードで蝶ネクタイの痩せて小柄な魔人だった。
 何だか嫌な奴が出てきてしまった……。

 魔人は大きく伸びをすると、嬉しそうに言った。
「我が名はアバドン。少年よ、ありがとさん!」

 魔人はアイシャドウに黒い口紅、いかにも悪そうな顔をしている。
「お前は悪い奴か?」
 俺が聞くと、
「魔人は悪いことするから魔人なんですよ、グフフフ……」
 と、嫌な声で笑った。
「じゃぁ、退治するしかないな」
 俺はため息をついた。こんなのを野に放つわけにはいかない。

「少年がこの私を退治? グフフフ……笑えない冗談で……」
 俺は瞬歩で一気に間を詰めると、思いっきり顔を殴ってやった。
「ぐはぁ!」
 吹き飛んで壁にぶつかり、もんどり打って転がるアバドン。
 
 不意を突かれたことに怒り、
「何すんだ! この野郎!!」
 ゆっくりと起き上がりながら烈火のごとく俺をにらむ。

 レベル千の俺のパンチは、人間だったら頭が粉々になって爆散してしまうくらいの威力がある。無事なのはどういう理屈だろうか? さすが魔人だ。

 アバドンは、指先を俺に向けると何やら呪文をつぶやく。
 まぶしい光線のようなものが出たが、そんなノロい攻撃、当たるわけがない。俺は直前に瞬歩で移動するとアバドンの腹に思いっきりパンチをぶち込む。
「ぐふぅ!」
 と、うめきながら吹き飛ばされるアバドン。
 そして浮き上がってるアバドンに瞬歩で迫った。アバドンもあわてて防御魔法陣を展開する。
 目の前に展開される美しい金色の魔法陣……。
 しかし、そんなのは気にせず、右フックで力いっぱい顔面を振り抜いた。

「フンッ!」

 魔法陣は打ち砕かれ、ゴスッと鈍い音がしてアバドンは再度壁に吹き飛び、また、もんどり打った。
 しかし、まだ魔石にはならない。しぶとい奴だ。手ごたえはあったと思ったのだが……。

「このやろう……俺を怒らせたな!」
 アバドンは、口から紫色の液体をだらだらと垂らしながらわめく。
 そして、「ぬぉぉぉぉ!」と、全身に力を込め始めた。ドス黒いオーラをブワっとまき散らしながらメキメキと盛り上がっていくアバドンの筋肉。はじけ飛ぶタキシード……。
 そして最後に「ハッ!」と叫ぶと、全身が激しく光り輝いた。

「うわぁ……」
 いきなりのまぶしさに目がチカチカする。
 光が収まるのを待って、そっと目を開けてみると、そこには背中からコウモリに似た大きな翼を生やした、筋肉ムキムキで暗い紫色の大男が浮いていた。
 大男は、
「見たか、これが俺様の本当の姿だ。もうお前に勝機はないぞ! ガッハッハ!」
 と、大きく笑う。
 しかし、俺には先ほどと変わらず、脅威には感じなかった。
 
「死ねぃ! メガグラヴィティ!」
 アバドンは叫びながら俺に両手のひらを向けた。
 すると、俺の周りに紫色のスパークがチラチラと浮かび、全身に重みがずっしりとのしかかった。
「二十倍の重力だ、潰れて死ね!」
 と、嬉しそうに叫ぶアバドン。
 
「なるほど、これが二十倍の重力か……」
 俺は腕を組み、涼しい顔でうなずく。

「あ、あれ?」
 焦るアバドン。しかし、重ねて上位魔法を撃ってくる。
「百倍ならどうだ! ギガグラヴィティ!!」
 さらなる重みがズシッと俺の身体にかかり、足元の石畳がバキッと音を立てて割れた。
 体重百倍ということは俺には今7トンの重しがかかっていることになる。しかし、レベル千の俺にしてみたら7トンなどどうでもいい数値だった。

「つまらん攻撃だな」
 俺はそう言って、再度瞬歩でアバドンに迫ると思い切り右のパンチを振り抜いた。ひしゃげるアバドンの顔。
 吹き飛ばされ、壁にぶつかり、戻ってきたところを蹴り上げて、今度は左パンチ。また、戻ってきたところを右のフックで打ち倒した。

「ぐはぁぁぁ……」
 情けない声を出しながらもんどり打って転がるアバドン。
 そして、俺をおびえた目で見つめると、
「ば、化け物だぁ……」
 そう言いながら間抜けに四つん這いで逃げ出し、壁に魔法陣を描いた。
 何をするのかと思ったら、そこに飛び込もうとする。逃げるつもりのようだ。しかし、魔人を逃がすわけにはいかない。俺は素早くアバドンの足をつかむとズボッと壁から引き抜いて、そのまま床にビターンと思いっきり打ち付けた。

「ゴフッ!」
 アバドンは口から泡を吹きながらピクピクと痙攣している。
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