46 / 52
46. 天を衝く東京タワー
しおりを挟む
「え……?」
「どうせ、パパを生き返らせて欲しいとか言うんでしょ? そういうお願い聞いていたら際限ないの。管理者だけだって一万人以上いるのよ? 特別扱いはできないわ」
女神はウンザリした様子で肩をすくめ首を振る。
「えっ……いや……しかし……」
瑛士は機先を制され、言葉が出てこない。いつも力強く優しかったパパ。自分のために命をなげうったパパ。何とかしてもう一度一緒に暮らしたいと必死に頑張ってきたのに何の成果も得られない現実に、胸がキューッと締め付けられる。
「一万人の管理者が納得できる成果でも出せたら……、褒美としてしてあげられるくらいかなぁ?」
女神は眉をひそめ、申し訳なさそうに言う。
瑛士はギュッと唇を噛み、うつむいた。もちろん、そう簡単に生き返らせてもらえるとは思っていなかったが、一万人もの管理者に認められる成果を出すというハードルは思った以上に厳しく、その道のりの険しさに思わずため息をついた。
「そんなに落ち込まないで。チャンスはすぐにやってくるかもしれないし」
女神は優しい声をかけてくれるが、瑛士はただ無言でうなずくことしかできなかった。こんな時、きっと交渉上手な人なら手練手管でもっといい条件を引き出せるのだろうが、社会経験の乏しいまだ少年の瑛士にはどういう交渉をしたらいいかすら分からない。
女神はうつむく瑛士を元気づけるように声をかけた。
「今晩、研修終わったら歓迎会やりましょ! レヴィア! いつものところ予約しておいて」
「み、御心のままに……」
レヴィアは胸に手を当てて頭を下げると、慌ててポケットからiPhoneを取り出し、どこかへ電話をかける。
瑛士は焦ることは無いと思いなおし、静かにうなずいた。
「ウッヒョー! 飲むぞーー!」
シアンはパンパンと瑛士の肩を叩くと、チリチリになった青い髪を揺らしながら、楽しそうにピョンと跳び上がった。
◇
瑛士はレヴィアに連れられて神殿の奥の扉の向こうへと進んでいく。そこには意外にもマホガニーやウォールナットで作られたオシャレな会議テーブルやキャビネットが並んだ明るい空間だった。心地よく観葉植物が配され、間接照明が美しい陰影を浮かべており、まるで高級ホテルの趣があった。
デスクではスタッフの人たちがそれぞれスクリーンを空中に浮かべながら何か真剣に作業を進めている。どうやら地球群を管理するオフィスらしかった。バースタンドにはいぶし銀のエスプレッソマシンが置かれ、コーヒーのかぐわしい香りが漂ってくる。
「うわぁ……。オシャレなオフィスですね……」
「気持ちのいい作業環境を突き詰めるとこうなるみたいじゃな。この先の会議テーブルを使わせてもらおう」
レヴィアについてバースタンドの角を曲がった時だった。巨大な窓から辺りの景色が目に飛び込んでくる。それは活気あふれる大都会、無数のビルの群れだった。海王星の森に居たはずなのに扉を通ったらなぜか大都会の高層ビルの中にいる。その予想外の展開に瑛士は足が止まった。
街を見回すと、奥の方には巨大な赤いタワーが見える。
「へっ!? あ、あれは……、まさか……」
「ん? 東京タワーじゃよ? あぁ、お主の地球ではもう無かったんじゃったか」
「えっ!? えっ!? どういうことですかそれ!」
瑛士は混乱した。核攻撃で吹き飛んだはずの東京の景色が目の前に生き生きとして広がっているのだ。道には人や車があふれ、首都高速では多くの車が行きかい、空にはジェット旅客機が着陸態勢に入っている。それは記録映像でしか見たことの無い、生きている東京の姿そのものだった。
「お主の地球は元はこの地球と同じだったんじゃが、数十年前に複製され、分岐したんじゃ」
「えっ!? じゃあ、僕の地球だけがAIに破壊されたって……こと?」
みじめにも瓦礫の山と化した東京は、自分たちの世界でしか起こっていなかったとするならばとてもやりきれない。なぜ彼らは楽しそうに東京を満喫できているのだろうか? 瑛士は唇をキュッと噛んだ。
「こっちの地球はシステムトラブルなどが続いて時間の流れが遅くなっていたんじゃな。だからAIの開発はまだまだこれからってタイミングなんじゃ」
「それじゃ、このままだとうちの地球みたいにここも核攻撃されるって……こと?」
「いや、そうとも限らん。世界は確率で動いておる。確率の結果は地球ごとに異なるから、スタート地点が同じでも歴史の流れはどんどん変わっていく。数十年前は全く一緒だった地球も今じゃ全然違う道を歩んでおるよ。例えばお主の両親もこの地球に暮らしてはおるが、出会うことなく、すでに別の人と結婚しておる」
「えっ……、パパとママが出会ってない……? じゃあ、僕も生まれて……ない……」
「そう。今じゃ別の星になっとるってことじゃ」
瑛士は窓に駆け寄ると、目の前に広がるエネルギッシュな大都会に思わずため息をついた。
「どうせ、パパを生き返らせて欲しいとか言うんでしょ? そういうお願い聞いていたら際限ないの。管理者だけだって一万人以上いるのよ? 特別扱いはできないわ」
女神はウンザリした様子で肩をすくめ首を振る。
「えっ……いや……しかし……」
瑛士は機先を制され、言葉が出てこない。いつも力強く優しかったパパ。自分のために命をなげうったパパ。何とかしてもう一度一緒に暮らしたいと必死に頑張ってきたのに何の成果も得られない現実に、胸がキューッと締め付けられる。
「一万人の管理者が納得できる成果でも出せたら……、褒美としてしてあげられるくらいかなぁ?」
女神は眉をひそめ、申し訳なさそうに言う。
瑛士はギュッと唇を噛み、うつむいた。もちろん、そう簡単に生き返らせてもらえるとは思っていなかったが、一万人もの管理者に認められる成果を出すというハードルは思った以上に厳しく、その道のりの険しさに思わずため息をついた。
「そんなに落ち込まないで。チャンスはすぐにやってくるかもしれないし」
女神は優しい声をかけてくれるが、瑛士はただ無言でうなずくことしかできなかった。こんな時、きっと交渉上手な人なら手練手管でもっといい条件を引き出せるのだろうが、社会経験の乏しいまだ少年の瑛士にはどういう交渉をしたらいいかすら分からない。
女神はうつむく瑛士を元気づけるように声をかけた。
「今晩、研修終わったら歓迎会やりましょ! レヴィア! いつものところ予約しておいて」
「み、御心のままに……」
レヴィアは胸に手を当てて頭を下げると、慌ててポケットからiPhoneを取り出し、どこかへ電話をかける。
瑛士は焦ることは無いと思いなおし、静かにうなずいた。
「ウッヒョー! 飲むぞーー!」
シアンはパンパンと瑛士の肩を叩くと、チリチリになった青い髪を揺らしながら、楽しそうにピョンと跳び上がった。
◇
瑛士はレヴィアに連れられて神殿の奥の扉の向こうへと進んでいく。そこには意外にもマホガニーやウォールナットで作られたオシャレな会議テーブルやキャビネットが並んだ明るい空間だった。心地よく観葉植物が配され、間接照明が美しい陰影を浮かべており、まるで高級ホテルの趣があった。
デスクではスタッフの人たちがそれぞれスクリーンを空中に浮かべながら何か真剣に作業を進めている。どうやら地球群を管理するオフィスらしかった。バースタンドにはいぶし銀のエスプレッソマシンが置かれ、コーヒーのかぐわしい香りが漂ってくる。
「うわぁ……。オシャレなオフィスですね……」
「気持ちのいい作業環境を突き詰めるとこうなるみたいじゃな。この先の会議テーブルを使わせてもらおう」
レヴィアについてバースタンドの角を曲がった時だった。巨大な窓から辺りの景色が目に飛び込んでくる。それは活気あふれる大都会、無数のビルの群れだった。海王星の森に居たはずなのに扉を通ったらなぜか大都会の高層ビルの中にいる。その予想外の展開に瑛士は足が止まった。
街を見回すと、奥の方には巨大な赤いタワーが見える。
「へっ!? あ、あれは……、まさか……」
「ん? 東京タワーじゃよ? あぁ、お主の地球ではもう無かったんじゃったか」
「えっ!? えっ!? どういうことですかそれ!」
瑛士は混乱した。核攻撃で吹き飛んだはずの東京の景色が目の前に生き生きとして広がっているのだ。道には人や車があふれ、首都高速では多くの車が行きかい、空にはジェット旅客機が着陸態勢に入っている。それは記録映像でしか見たことの無い、生きている東京の姿そのものだった。
「お主の地球は元はこの地球と同じだったんじゃが、数十年前に複製され、分岐したんじゃ」
「えっ!? じゃあ、僕の地球だけがAIに破壊されたって……こと?」
みじめにも瓦礫の山と化した東京は、自分たちの世界でしか起こっていなかったとするならばとてもやりきれない。なぜ彼らは楽しそうに東京を満喫できているのだろうか? 瑛士は唇をキュッと噛んだ。
「こっちの地球はシステムトラブルなどが続いて時間の流れが遅くなっていたんじゃな。だからAIの開発はまだまだこれからってタイミングなんじゃ」
「それじゃ、このままだとうちの地球みたいにここも核攻撃されるって……こと?」
「いや、そうとも限らん。世界は確率で動いておる。確率の結果は地球ごとに異なるから、スタート地点が同じでも歴史の流れはどんどん変わっていく。数十年前は全く一緒だった地球も今じゃ全然違う道を歩んでおるよ。例えばお主の両親もこの地球に暮らしてはおるが、出会うことなく、すでに別の人と結婚しておる」
「えっ……、パパとママが出会ってない……? じゃあ、僕も生まれて……ない……」
「そう。今じゃ別の星になっとるってことじゃ」
瑛士は窓に駆け寄ると、目の前に広がるエネルギッシュな大都会に思わずため息をついた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ウイークエンダー・ラビット ~パーフェクト朱墨の山~
リューガ
SF
佐竹 うさぎは中学2年生の女の子。
そして、巨大ロボット、ウイークエンダー・ラビットのパイロット。
地球に現れる怪獣の、その中でも強い捕食者、ハンターを狩るハンター・キラー。
今回は、えらい政治家に宇宙からの輸入兵器をプレゼンしたり、後輩のハンター・キラーを助けたり、パーフェクト朱墨の謎を探ったり。
優しさをつなぐ物語。
イメージ元はGma-GDWさんの、このイラストから。
https://www.pixiv.net/artworks/85213585
神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!
芋多可 石行
SF
主人公 須舞 宇留は、琥珀の巨神アンバーニオンと琥珀の中の小人、ヒメナと共にアルオスゴロノ帝国の野望を食い止めるべく、日々奮闘していた。
最凶の敵、ガルンシュタエンとの死闘の最中、皇帝エグジガンの軍団に敗れたアンバーニオンは、ガルンシュタエンと共に太陽へと向かい消息を絶った。
一方、帝国の戦士として覚醒した椎山と宇留達の行方を探す藍罠は、訪ねた恩師の居る村で奇妙な兄弟、そして琥珀の闘神ゼレクトロンの化身、ヴァエトに出会う。
度重なる戦いの中で交錯する縁。そして心という琥珀の中に閉じ込めた真実が明らかになる時、宇留の旅は、一つの終着駅に辿り着く。
神樹のアンバーニオン 3
絢爛!思いの丈
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
小悪魔な妹は最強剣士……かも
あすか
SF
人が作る神って……。失敗すると怖いんです!
作者の私的には、まじめな設定にちょっと小悪魔的な要素を持った妹 あかねちゃんが主人公のお兄ちゃん 颯太くんを弄ぶ(?)風な要素を入れて、面白く仕上げたつもりです。
舞台は人の形をした知性も理性も持たない生き物が闊歩する崩壊した旧首都。崩壊現象の中心部である「爆心地」より勢力を伸ばしていく、全知全能の「神」を崇める謎の新興勢力「教会」に対し、首都奪還を目指す軍。
二つの勢力の争いに巻き込まれながら、父親と幼馴染の凛ちゃんを探す兄妹は、教会上層部に父親と凛ちゃんの影を感じ始めます。
この現象は何なのか、引き起こしたのは誰なのか。その答えにたどり着いた時、父親や凛ちゃんは……。
別作品の改稿版です。序盤、中盤、終盤に手を加えて、新規登録しました。
序盤は崩壊した首都に向かう経緯を追記し、
中盤からは新キャラ "ツンツン未果ちゃん"を登場させました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる