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55. 海王星の衝撃
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「ちょっと、君……。何者なの?」
「ふふっ、何者でしょうか? そのうちに分かるよ! キャハッ!」
楽しそうにはぐらかすタニア。
英斗は大きく息をついて、首を振る。
「で、宇宙が無数ある。まぁ、それはあるかもね。量子って複数の状態を同時に取れるんだろ? 量子コンピューターの話で聞いたことあるよ」
「そうそう。では、その無数の状態を確定するのは誰?」
「だ、誰……?」
英斗は考え込む。確かに宇宙に無数の状態があるとしたら誰がそれを決めるのか? しかし、そんなことわかりようがない。
「パパだよ」
タニアは嬉しそうに英斗を指さした。
「はっ? なんで僕?」
「正確に言うと、一人一人、魂を持つ者が独自の世界を規定していくんだ」
「え? では、一人ひとり別の世界に生きてるって……こと?」
「そうだよ? 今この世界にいる他の人も、別のことを志向したら別の宇宙へと分岐していくんだ」
英斗は混乱する。そんなことしたらネズミ算式にどんどんと宇宙は増えまくってしまう。
「そんなことしたら宇宙だらけになっちゃうじゃないか!」
「そうだよ? だから『宇宙は無限にある』って言ったじゃん。キャハッ!」
英斗は言葉を失った。無限、それは限りがないこと。限りが無ければいくらあっても大丈夫……。
しかし、それはとても信じがたく、首をひねる。
「まぁ、理屈はいいよ。異世界系ラノベに影響を受けたパパは、この世界の無数の在り方のうち、デジタルな世界を選んだんだ」
「ちょっと待って! まさか、紗雪が龍族だったのもレヴィアさんたちの世界があったのも全部僕の妄想の結果?」
「もちろん!」
タニアは嬉しそうに答えた。
英斗はへなへなと座り込んでしまう。中学時代に『紗雪が龍族だったことを知った』のではなかった。英斗が選んだ世界で『紗雪はそういう設定を背負った』のだった。
「バカな……」
英斗はこの荒唐無稽な話をどう理解したらいいのか途方に暮れ、頭を抱えた。
「納得するのは後でいいわ。ママがピンチなの。助けて」
すらりとした長い指で英斗の手を取るタニア。
英斗はその柔らかい指にドキッとしながら、
「助けるって……、どうやって? 僕死んじゃってるんだよ?」
と、泣きそうな顔でタニアを見た。
「んもー! 助けられる世界を選択する。それだけでいいのよ」
タニアは口をとがらせる。
「せ、選択って……、どうやって?」
タニアはニコッと笑うと、
「選択はふつう無意識に行われているわ。でも、意識的にやりたいなら瞑想ね」
そう言って、長いまつげが魅惑的な目を嬉しそうにキラッと光らせた。
「め、瞑想なんてやったことないよ……」
泣きそうな顔をする英斗。
タニアはふぅとため息をつくと、
「深呼吸を繰り返すだけよ。四秒息を吸って、六秒止めて、八秒かけて息を吐く。やってみて」
「わ、わかったよ」
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
「うまいうまい。徐々に深層意識へ降りていくよ」
しかし、英斗は次々と湧いてくる雑念に流される。『紗雪は痛そうだったな、直せるかな?』『レヴィアの彼氏ってどんな人なんだろう?』『ラーメン食べたいな、ラーメン』
英斗は頭を振り、必死に雑念を振り払おうとするが、振り払っても振り払ってもわいてきてしまう。
「ダメだ! 上手くいかないよ」
「大丈夫、もう少しだから。雑念湧いたら消そうとせずに『そういう考えもあるね』と、ただ、受け止めてそっと送り出してあげればいいわ。あたしも手伝ってあげる」
タニアはそう言うと、そっと英斗にハグをした。
柔らかい柑橘系の匂いに包まれ、英斗は顔を赤くしながら深呼吸を始めた。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
ドクン、ドクンとタニアの鼓動が聞こえてくる……。
次々と湧いてくる雑念をそっと送り出し続ける英斗。
やがて、グンっと何かに引き込まれる感覚があって、一気に感覚が鋭くなっていく。
自分の身体や周りのものが目をつぶっていても分かるようになってきた。
深く静かに鼓動を打つ自分の心音も聞こえてきて、タニアの鼓動とセッションしているのが分かる。
ハグしているタニアの柔らかなふくらみも細部まで感じられる。
さっきまで真っ白で何もないと思っていた空間の本当の姿……。そこは超巨大コンピューターの中のサイバースペースだった。その実体は、全長一キロメートルくらいはあろうかというデータセンターにずらりと並んだ円筒形のサーバー群。
意識をさらに広げていくと、見えてきたのは巨大な碧き惑星、海王星だった。
「ふふっ、何者でしょうか? そのうちに分かるよ! キャハッ!」
楽しそうにはぐらかすタニア。
英斗は大きく息をついて、首を振る。
「で、宇宙が無数ある。まぁ、それはあるかもね。量子って複数の状態を同時に取れるんだろ? 量子コンピューターの話で聞いたことあるよ」
「そうそう。では、その無数の状態を確定するのは誰?」
「だ、誰……?」
英斗は考え込む。確かに宇宙に無数の状態があるとしたら誰がそれを決めるのか? しかし、そんなことわかりようがない。
「パパだよ」
タニアは嬉しそうに英斗を指さした。
「はっ? なんで僕?」
「正確に言うと、一人一人、魂を持つ者が独自の世界を規定していくんだ」
「え? では、一人ひとり別の世界に生きてるって……こと?」
「そうだよ? 今この世界にいる他の人も、別のことを志向したら別の宇宙へと分岐していくんだ」
英斗は混乱する。そんなことしたらネズミ算式にどんどんと宇宙は増えまくってしまう。
「そんなことしたら宇宙だらけになっちゃうじゃないか!」
「そうだよ? だから『宇宙は無限にある』って言ったじゃん。キャハッ!」
英斗は言葉を失った。無限、それは限りがないこと。限りが無ければいくらあっても大丈夫……。
しかし、それはとても信じがたく、首をひねる。
「まぁ、理屈はいいよ。異世界系ラノベに影響を受けたパパは、この世界の無数の在り方のうち、デジタルな世界を選んだんだ」
「ちょっと待って! まさか、紗雪が龍族だったのもレヴィアさんたちの世界があったのも全部僕の妄想の結果?」
「もちろん!」
タニアは嬉しそうに答えた。
英斗はへなへなと座り込んでしまう。中学時代に『紗雪が龍族だったことを知った』のではなかった。英斗が選んだ世界で『紗雪はそういう設定を背負った』のだった。
「バカな……」
英斗はこの荒唐無稽な話をどう理解したらいいのか途方に暮れ、頭を抱えた。
「納得するのは後でいいわ。ママがピンチなの。助けて」
すらりとした長い指で英斗の手を取るタニア。
英斗はその柔らかい指にドキッとしながら、
「助けるって……、どうやって? 僕死んじゃってるんだよ?」
と、泣きそうな顔でタニアを見た。
「んもー! 助けられる世界を選択する。それだけでいいのよ」
タニアは口をとがらせる。
「せ、選択って……、どうやって?」
タニアはニコッと笑うと、
「選択はふつう無意識に行われているわ。でも、意識的にやりたいなら瞑想ね」
そう言って、長いまつげが魅惑的な目を嬉しそうにキラッと光らせた。
「め、瞑想なんてやったことないよ……」
泣きそうな顔をする英斗。
タニアはふぅとため息をつくと、
「深呼吸を繰り返すだけよ。四秒息を吸って、六秒止めて、八秒かけて息を吐く。やってみて」
「わ、わかったよ」
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
「うまいうまい。徐々に深層意識へ降りていくよ」
しかし、英斗は次々と湧いてくる雑念に流される。『紗雪は痛そうだったな、直せるかな?』『レヴィアの彼氏ってどんな人なんだろう?』『ラーメン食べたいな、ラーメン』
英斗は頭を振り、必死に雑念を振り払おうとするが、振り払っても振り払ってもわいてきてしまう。
「ダメだ! 上手くいかないよ」
「大丈夫、もう少しだから。雑念湧いたら消そうとせずに『そういう考えもあるね』と、ただ、受け止めてそっと送り出してあげればいいわ。あたしも手伝ってあげる」
タニアはそう言うと、そっと英斗にハグをした。
柔らかい柑橘系の匂いに包まれ、英斗は顔を赤くしながら深呼吸を始めた。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
スゥーーーー、……、フゥーーーー。
ドクン、ドクンとタニアの鼓動が聞こえてくる……。
次々と湧いてくる雑念をそっと送り出し続ける英斗。
やがて、グンっと何かに引き込まれる感覚があって、一気に感覚が鋭くなっていく。
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深く静かに鼓動を打つ自分の心音も聞こえてきて、タニアの鼓動とセッションしているのが分かる。
ハグしているタニアの柔らかなふくらみも細部まで感じられる。
さっきまで真っ白で何もないと思っていた空間の本当の姿……。そこは超巨大コンピューターの中のサイバースペースだった。その実体は、全長一キロメートルくらいはあろうかというデータセンターにずらりと並んだ円筒形のサーバー群。
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