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54. コペンハーゲン解釈
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「あ、あれ……?」
気がつくと英斗は真っ白な空間にいた。天も地も純白で穢れ一つない不思議な空間だった。自分の身体を見てみると素っ裸で向こうが透けて見える。どうやら幽霊みたいになってしまっている。
一体、ここはどこで自分はどうなってしまったのだろうか? 死後の世界ということなのだろうが、一体ここで何すればいいのだろうか? 英斗は首をひねり、遠近感も何もない純白の世界を見渡した。
直後、ポン! という破裂音がして空中に幼女が現れる。素っ裸で半透明なプニプニの女の子、タニアだった。
「タ、タニアーーーー!」
英斗は思いっきり抱き着いた。
魔王に飛ばされて死んでしまったタニア。何度も何度も後悔をして冥福を祈っていた幼女がここにいる。
英斗はそのプニプニのほっぺにスリスリと頬ずりをして涙をポロポロとこぼした。
キャハッ!
タニアは嬉しそうに奇声を上げると、英斗の頭にしがみつく。
英斗はほんのりとミルクの匂いがする温かなタニアをしっかりと抱きしめて、再会を喜ぶ。
死んでも終わりではないというこの世界の奇妙さに、英斗は底知れぬ不気味さを感じつつも、幼女の柔らかい温かさに安堵を感じていた。
◇
「で、ここはどこなんだい?」
英斗は純白の空間を見回しながら聞く。
「生と死のはざまだよ。あのね、ママが危ないの。助けて?」
と、タニアは小首をかしげ、つぶらな瞳をウルウルとさせた。
「お、おう。紗雪がひどい目に遭っているのは見た。どうしたらいい?」
「パパ、楽しい未来を選んで」
と言って、タニアはニッコリと笑うが、未来を選ぶも何も、自分は死んでしまっている。英斗はけげんそうな顔で首をかしげた。
「思い出して、世界はデジタルでできているんだよ」
その言葉に英斗はハッとする。そう、この世界はコンピューター上で作られた世界。であるならば死というのは単に【状態】に過ぎないに違いない。データさえ書き換えられればいくらでも復活の目はある。
とはいえ、自分は管理者でも何でもないただのキャラクターだ。システムの動作には干渉などできない。
「理屈は……、分かる。でも、どうやったらいいか分かんないよ」
英斗は泣きそうな顔をする。あまりに無力すぎる自分に息が詰まってしまうのだ。
「大丈夫、あたしが教えてあげる」
タニアは可愛い胸を張り、この世界の姿を説明し始める。
「そもそも、この世界がデジタルな世界になったのはパパが選んだからだよ」
タニアは人差し指を英斗に向け、つぶらな瞳をキラリと光らせた。
英斗はタニアが何を言っているのか分からず、首をかしげる。なぜ、この世界の構造が自分の選択の結果なのだろうか?
「異世界系のラノベとかたくさん読んで、妄想ふくらませてたんじゃない?」
タニアは指を振りながら英斗の目をのぞきこむ。
「そ、そうだね。中学に入ってからよく読んでた……かな?」
「異世界を実現できる世界構造って何だと思う?」
そう言われて英斗は考え込む。そんなこと今まで考えたこともなかったのだ。異世界は異世界。物語上の空想なのだから、どう実現するかなんて興味もなかった。しかし、実際に実現するとしたら……。少なくとも物理法則が成り立たなくても構わない世界でないと無理だろう。となると……。
英斗は首をひねった。
思いつくのは仮想現実空間。そう、MMORPGゲームのようなコンピューターによる合成した世界ならいくらでも実現できるだろう。
「そりゃあゲームみたいな空間なら実現可能だよ? でもそれと僕の妄想と何の関係があるの?」
「パパ、宇宙は無限にあるんだよ」
は?
英斗はいきなり宇宙の話をされて混乱する。
「宇宙は決まった一つが時の流れに合わせて動いているんじゃないの。同時に無数の宇宙があり、さらにその宇宙一つ一つがどんどん無数の宇宙に分岐しているのよ」
タニアはニコッと笑って言う。
「いやいやいや、宇宙は一つだろ。一つの宇宙があって、みんなその世界に住んでいる。常識だよ」
「それは【コペンハーゲン解釈】だね。量子力学を知ると、そんなナイーブなことありえないことが分かるよ。キャハッ!」
タニアは宙に浮き上がると、クルクルッと回って楽しそうに笑った。
「ちょっと待って! なんでタニアはそんなこと知ってるの? 幼女の知識じゃないじゃないか!」
英斗は眉をひそめ、いぶかしげに聞いた。
「ふふーん。じゃぁこれならいい?」
ボン! と爆発音がして、黒のボディスーツに身を包んだ美少女が現れる。それはどことなく紗雪にも似た、黒髪を長く伸ばした女の子だった。その透き通るような肌にパッチリとした目鼻立ちはドキッとさせる魅力がある。
「あたしは幼女であり、少女であり、老婆なのよ。どう……? キャハッ!」
少女は右腕を高く掲げモデルのセクシーポーズを取りながら、挑発的な視線で英斗を射抜いた。
英斗は頭がパンクした。ずっとプニプニの幼女だと思っていたタニアが、魅惑的な美少女となって自分を挑発している。それは想像もしなかった事態だった。
気がつくと英斗は真っ白な空間にいた。天も地も純白で穢れ一つない不思議な空間だった。自分の身体を見てみると素っ裸で向こうが透けて見える。どうやら幽霊みたいになってしまっている。
一体、ここはどこで自分はどうなってしまったのだろうか? 死後の世界ということなのだろうが、一体ここで何すればいいのだろうか? 英斗は首をひねり、遠近感も何もない純白の世界を見渡した。
直後、ポン! という破裂音がして空中に幼女が現れる。素っ裸で半透明なプニプニの女の子、タニアだった。
「タ、タニアーーーー!」
英斗は思いっきり抱き着いた。
魔王に飛ばされて死んでしまったタニア。何度も何度も後悔をして冥福を祈っていた幼女がここにいる。
英斗はそのプニプニのほっぺにスリスリと頬ずりをして涙をポロポロとこぼした。
キャハッ!
タニアは嬉しそうに奇声を上げると、英斗の頭にしがみつく。
英斗はほんのりとミルクの匂いがする温かなタニアをしっかりと抱きしめて、再会を喜ぶ。
死んでも終わりではないというこの世界の奇妙さに、英斗は底知れぬ不気味さを感じつつも、幼女の柔らかい温かさに安堵を感じていた。
◇
「で、ここはどこなんだい?」
英斗は純白の空間を見回しながら聞く。
「生と死のはざまだよ。あのね、ママが危ないの。助けて?」
と、タニアは小首をかしげ、つぶらな瞳をウルウルとさせた。
「お、おう。紗雪がひどい目に遭っているのは見た。どうしたらいい?」
「パパ、楽しい未来を選んで」
と言って、タニアはニッコリと笑うが、未来を選ぶも何も、自分は死んでしまっている。英斗はけげんそうな顔で首をかしげた。
「思い出して、世界はデジタルでできているんだよ」
その言葉に英斗はハッとする。そう、この世界はコンピューター上で作られた世界。であるならば死というのは単に【状態】に過ぎないに違いない。データさえ書き換えられればいくらでも復活の目はある。
とはいえ、自分は管理者でも何でもないただのキャラクターだ。システムの動作には干渉などできない。
「理屈は……、分かる。でも、どうやったらいいか分かんないよ」
英斗は泣きそうな顔をする。あまりに無力すぎる自分に息が詰まってしまうのだ。
「大丈夫、あたしが教えてあげる」
タニアは可愛い胸を張り、この世界の姿を説明し始める。
「そもそも、この世界がデジタルな世界になったのはパパが選んだからだよ」
タニアは人差し指を英斗に向け、つぶらな瞳をキラリと光らせた。
英斗はタニアが何を言っているのか分からず、首をかしげる。なぜ、この世界の構造が自分の選択の結果なのだろうか?
「異世界系のラノベとかたくさん読んで、妄想ふくらませてたんじゃない?」
タニアは指を振りながら英斗の目をのぞきこむ。
「そ、そうだね。中学に入ってからよく読んでた……かな?」
「異世界を実現できる世界構造って何だと思う?」
そう言われて英斗は考え込む。そんなこと今まで考えたこともなかったのだ。異世界は異世界。物語上の空想なのだから、どう実現するかなんて興味もなかった。しかし、実際に実現するとしたら……。少なくとも物理法則が成り立たなくても構わない世界でないと無理だろう。となると……。
英斗は首をひねった。
思いつくのは仮想現実空間。そう、MMORPGゲームのようなコンピューターによる合成した世界ならいくらでも実現できるだろう。
「そりゃあゲームみたいな空間なら実現可能だよ? でもそれと僕の妄想と何の関係があるの?」
「パパ、宇宙は無限にあるんだよ」
は?
英斗はいきなり宇宙の話をされて混乱する。
「宇宙は決まった一つが時の流れに合わせて動いているんじゃないの。同時に無数の宇宙があり、さらにその宇宙一つ一つがどんどん無数の宇宙に分岐しているのよ」
タニアはニコッと笑って言う。
「いやいやいや、宇宙は一つだろ。一つの宇宙があって、みんなその世界に住んでいる。常識だよ」
「それは【コペンハーゲン解釈】だね。量子力学を知ると、そんなナイーブなことありえないことが分かるよ。キャハッ!」
タニアは宙に浮き上がると、クルクルッと回って楽しそうに笑った。
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