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40. 最後の一人

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 しばらく進み、大きな鋼鉄製の扉に来た一行。例によってタニアが強靭な扉をバラバラに壊すと内部の様子が露わになる。

 そこは夜中の体育館のように真っ暗な空洞だった。

 レヴィアは銃を構え、様子を見るが、動きはない。

 飛び散った扉の破片が、静まり返った内部にグワングワンと鳴り響くばかりだった。音の反響具合からすると相当に広そうである。

「誰も……、おらんのかのう……?」

 レヴィアが恐る恐る一歩踏み入った時だった。ズン! という爆発音とともにレヴィアが吹き飛ばされる。

 ぐはっ!

 もんどりうって通路に転がるレヴィア。

「レヴィアさん!」

 英斗が駆け寄ると、苦しそうにうめき、

「き、気をつけろ……。上から撃たれた」

 と、胸を押さえた。

 レヴィアのグレーのジャケットには焦げた跡があり、焦げ臭い煙がうっすらと上がっている。

「だ、大丈夫ですか!?」

 青くなりながら英斗が聞くと、

「このくらい大丈夫じゃ。じゃが、ちょっとばかり休ませてくれ……」

 そう言いながらレヴィアはゴロリと横たわり、苦しそうに荒い息吐く。

 くっ!

 英斗はスマホを取り出し、カメラモードにしてそっと扉の脇から差し出してみる。すると、上の方で何やらほのかな明かりが動いているのが画面に映った。

 これがレヴィアを狙撃した敵……、魔王かもしれない。

 紗雪は画面をのぞきこみ、眉をひそめると、シャーペンを取り出し、

「その辺を狙えばいいのね、見てらっしゃい!」

 と、魔法陣を描き始めた。奥歯をかみしめ、今までにない怒気を感じさせる。

 サラサラと描きあげられていく魔法陣は鮮やかに赤く輝き、強烈なエネルギーが蓄積されているのがひしひしと伝わってくる。

 紗雪は方向を確認しながら魔法陣の脇にルーン文字をいくつか書き足し、最後にぶつぶつと何かを唱えながら両手で魔法陣を回転させた。ゆっくりと回りだした魔法陣はビカビカと明滅しながら徐々に回転数を上げていく。

 刹那、魔法陣は鮮烈な紅い閃光を放ち、轟音を立てながら無数のファイヤーボールを射出する。撃ち出されたファイヤーボールは弧を描きながら斜め上の方へと眩しい光跡を残しつつ上昇していき、ズンズンズン! と激しい爆発音を響かせていった。

 動いていた明かりが何だかは分からないが、これだけの攻撃を浴びせたのだ、何か反応があるだろう。

 爆発音が広間で大きく反響し、こだましている。一行は静かになるのをじっと待った。

 直後、広間に照明が灯り、いやらしい笑い声が響き渡る。

「ハッハッハッハ! またお前らか。特異点君、出てきたまえ」

 魔王だ。英斗は紗雪と顔を見合わせる。

「何か言いたいことがあるんだろ? 日本が滅んだことに文句でもいいに来たのか? クフフフ」

 英斗はギリッと奥歯を鳴らすと、紗雪の制止も振り切って一歩広間に進み、上を見上げた。そこにはスタジアムの貴賓室のように、ガラス張りの部屋が設置されており、中で中年男がふんぞり返って高そうな椅子に腰かけている。

 英斗はギロリと魔王をにらむと、

「お前、女神の居所を知ってるな?」

 と、核心から切り出した。

「はっはっは! なるほど、女神か。確かに女神なら日本を元に戻せるからな。まぁ……それしかないか……。クフフフ……。女神なら金星だぞ」

 魔王はいやらしく笑いながら何とも理解しにくいことを言う。

 英斗はいきなり別の惑星の話になって困惑を隠せない。女神のような超常的存在が宇宙の彼方にいるというのはありえない話ではないが、どうやって会いに行ったらいいか見当もつかない。

「ど、どうすれば会える?」

「簡単な話さ。今ちょうど俺がやってることがまさに女神を呼ぶことだからな」

 英斗は魔王の言葉の意味をはかりかね、首をひねった。

「要は人類を全滅させるんだよ」

 魔王は肩をすくめながらとんでもない事を言い放ち、英斗は怒りで真っ赤になる。

「お前、ふざけてんのか!」

 英斗の怒りが広い広間にこだまする。

 魔王は肩をすくめ、やれやれといった表情であざける。

「人類は女神が創り、育ててきたもの。それが滅んだとなれば地球をやり直さないとならん。で、その準備のために地球に降り立つんだ。そして、その時に最後の一人に声をかけるのさ」

「最後の……、一人……?」

「そう、あいつは結構滅びの美学が好きでね。最後の一人の話が特に好物なのさ」

 英斗はその捉えどころのない話に困惑する。人類が滅亡する最後の一人と話すのが好きというのはどういった性癖なのだろうか? あまりにも趣味が悪すぎるのではないか?

 英斗は首をひねり、大きく息をつく。

 こんな荒唐無稽な話を信じて良いのだろうか? そもそも女神とは何者なのだろうか? 魔王との関係は?

 英斗は混乱し、仏頂面で魔王を見上げた。
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