5 / 61
5. 灼熱のドラゴンブレス
しおりを挟む
その時、何かが公園の方で動く。
え?
それは見慣れた銀色のジャケットを着た女の子、紗雪だった。
あ、あれ?
英斗は涙をぬぐうと居住まいを正し、紗雪をジッと見つめる。そして、この公園の下には川が流れていたことを思い出した。公園は暗渠の上に作られていたのだ。多分、紗雪はビルの裏手から暗渠をたどって公園に移動してきたのだろう。よく考えれば、集中砲火を浴びることなど分かり切っているのだから、そのままやられたりする訳がないのだ。
よ、良かった……。
英斗はへなへなと全身から力が抜けていくのを感じた。紗雪は英斗が考えるよりずっと賢く行動力もある。もう、泣き虫だった幼いころの紗雪ではないのだ。
英斗は大きく息をつき、紗雪を見つめた。
紗雪はあの赤いシャーペンで空中に何かを描き始める。空中に絵を描けること自体極めてナンセンスな話だったが、ペンの跡は緑色に蛍光して輝いていた。紗雪は大きな円を描き、中に六芒星を描き、そして円弧に沿ってルーン文字を書き加えていく。それはなんと魔法陣だった。
まさか……。
英斗は唖然とする。シャーペンで空中に魔法陣を描く女子高生、それはもはやファンタジーの世界そのものだった。
もちろん、昨日の超常的な紗雪の攻撃力も常軌を逸していたが、まだ『科学』という線も考えられなくはない。しかし、魔法陣となればもはや科学なんかではない、もはや異世界ファンタジーだった。
描き終わった魔法陣は緑色に怪しく輝き、直後、激しい閃光を放ちながら竜巻のような強烈な風の渦を爆発的に吹き出す。ゴォォォと激しい轟音を立てながら、竜巻は一気にビルの上に集まっていたパピヨールたちに襲いかかった。
無数いたパピヨールたちはあっという間に風の渦に引き込まれ、ズタズタに切り裂かれ、まるで空を舞うごみクズの山へと化していく。
逃げ出そうとしたパピヨールも激しい強風にあおられて渦を巻くように吸い寄せられ、最後には竜巻で処理されていった。
その鮮やかな殺戮劇に英斗は戦慄を覚える。かわいい幼なじみが繰り出したその恐るべき破壊力はもはや大量破壊兵器であり、とても女子高生のやる事には思えなかった。
一体紗雪はどうしちゃったんだ……。
科学では説明のつかない力を操る紗雪に英斗は戸惑い、頭を抱える。
もちろん、魔物を退治してくれたことは感謝したかったが、それ以上に紗雪が巻き込まれている恐ろし気な状況の方が気になってしまう。少なくとも小学生の頃は本当にただの可愛い女の子だったのだ。
いつから? なぜ? どうやって? これは紗雪の意志? 誰かにやらされている?
次々と疑問が頭の中をぐるぐると回り、英斗は目をギュッとつぶってうなだれた。
「あーあ、派手にやってくれおったな」
いきなり女の子のかわいい声が非常階段に響き、英斗はビクッとして固まった。
そっと穴をのぞくと、そこには金髪おかっぱの可憐な女の子が、手すりをつかんで紗雪の方を見下ろしている。女子中学生くらいだろうか、黒とグレーの近未来的なジャケットを着込み、その真紅の瞳にはゾクッとさせる何かを宿していた。
「おしおきタイムじゃ」
女の子はそう言うとポケットから水色のクリスタルのスティックを取り出し、高く掲げる。
直後、爆発音がして女の子は消え去り、上空に巨大な影が浮かんだ。
へ?
英斗は穴から見上げると、そこには巨大な翼をはばたかせる恐竜のような巨体が浮かんでいた。いかつい漆黒の鱗に覆われた身体は金色の光を纏い、恐ろしい牙を生やした大きな口はまるでティラノサウルス……。そう、それはドラゴンだった。
ギュアァァァ――――!
腹に響く超重低音の恐るべき咆哮が街に響き渡る。
英斗は目を疑った。あの可愛い女の子が凶悪な巨大ドラゴンに変身したとしか考えられないが、そんなことってあるのだろうか? 物理法則も何もない。さっきの紗雪の魔法にしても、いつから日本は異世界になってしまったのだろう。
ドラゴンはバサッバサッと巨大な翼をはばたかせながら紗雪を目指した。
紗雪はすかさずシャーペンから光の筋を乱射しドラゴンに当てていくが、ドラゴンは平然としている。黄金に輝く重厚な鱗には全く通用しないようだった。
諦めた紗雪は今度は魔法陣を描き始める。瑠璃色に輝く円に六芒星、そしてルーン文字。
するとドラゴンは車をかみ砕けそうな巨大な口をパカッと開く。その中にはオレンジ色の光が輝き始めていた。
紗雪が魔法陣を描き終わると、魔法陣は激しく青い鮮烈な光を放ちながらツララのような巨大な氷の槍を無数射出する。ツララは鋭いエッジを光らせながら目にもとまらぬ速度でまっすぐにドラゴンへと襲いかかっていったが、直後ドラゴンは激烈な閃光を放った。
その閃光がもたらす激しい熱線は全てを焼き払う。ツララは瞬時に蒸発、公園の木々は茶色く焦げ、そして炎をあげていった。
「あぁぁぁ……、さ、紗雪……」
これがファンタジーの小説によく出てくるドラゴンブレスという奴だろうか?
実際に目にするとその圧倒的なパワーに英斗は気おされ、改めてドラゴンの破格な攻撃力にゾッとする。
え?
それは見慣れた銀色のジャケットを着た女の子、紗雪だった。
あ、あれ?
英斗は涙をぬぐうと居住まいを正し、紗雪をジッと見つめる。そして、この公園の下には川が流れていたことを思い出した。公園は暗渠の上に作られていたのだ。多分、紗雪はビルの裏手から暗渠をたどって公園に移動してきたのだろう。よく考えれば、集中砲火を浴びることなど分かり切っているのだから、そのままやられたりする訳がないのだ。
よ、良かった……。
英斗はへなへなと全身から力が抜けていくのを感じた。紗雪は英斗が考えるよりずっと賢く行動力もある。もう、泣き虫だった幼いころの紗雪ではないのだ。
英斗は大きく息をつき、紗雪を見つめた。
紗雪はあの赤いシャーペンで空中に何かを描き始める。空中に絵を描けること自体極めてナンセンスな話だったが、ペンの跡は緑色に蛍光して輝いていた。紗雪は大きな円を描き、中に六芒星を描き、そして円弧に沿ってルーン文字を書き加えていく。それはなんと魔法陣だった。
まさか……。
英斗は唖然とする。シャーペンで空中に魔法陣を描く女子高生、それはもはやファンタジーの世界そのものだった。
もちろん、昨日の超常的な紗雪の攻撃力も常軌を逸していたが、まだ『科学』という線も考えられなくはない。しかし、魔法陣となればもはや科学なんかではない、もはや異世界ファンタジーだった。
描き終わった魔法陣は緑色に怪しく輝き、直後、激しい閃光を放ちながら竜巻のような強烈な風の渦を爆発的に吹き出す。ゴォォォと激しい轟音を立てながら、竜巻は一気にビルの上に集まっていたパピヨールたちに襲いかかった。
無数いたパピヨールたちはあっという間に風の渦に引き込まれ、ズタズタに切り裂かれ、まるで空を舞うごみクズの山へと化していく。
逃げ出そうとしたパピヨールも激しい強風にあおられて渦を巻くように吸い寄せられ、最後には竜巻で処理されていった。
その鮮やかな殺戮劇に英斗は戦慄を覚える。かわいい幼なじみが繰り出したその恐るべき破壊力はもはや大量破壊兵器であり、とても女子高生のやる事には思えなかった。
一体紗雪はどうしちゃったんだ……。
科学では説明のつかない力を操る紗雪に英斗は戸惑い、頭を抱える。
もちろん、魔物を退治してくれたことは感謝したかったが、それ以上に紗雪が巻き込まれている恐ろし気な状況の方が気になってしまう。少なくとも小学生の頃は本当にただの可愛い女の子だったのだ。
いつから? なぜ? どうやって? これは紗雪の意志? 誰かにやらされている?
次々と疑問が頭の中をぐるぐると回り、英斗は目をギュッとつぶってうなだれた。
「あーあ、派手にやってくれおったな」
いきなり女の子のかわいい声が非常階段に響き、英斗はビクッとして固まった。
そっと穴をのぞくと、そこには金髪おかっぱの可憐な女の子が、手すりをつかんで紗雪の方を見下ろしている。女子中学生くらいだろうか、黒とグレーの近未来的なジャケットを着込み、その真紅の瞳にはゾクッとさせる何かを宿していた。
「おしおきタイムじゃ」
女の子はそう言うとポケットから水色のクリスタルのスティックを取り出し、高く掲げる。
直後、爆発音がして女の子は消え去り、上空に巨大な影が浮かんだ。
へ?
英斗は穴から見上げると、そこには巨大な翼をはばたかせる恐竜のような巨体が浮かんでいた。いかつい漆黒の鱗に覆われた身体は金色の光を纏い、恐ろしい牙を生やした大きな口はまるでティラノサウルス……。そう、それはドラゴンだった。
ギュアァァァ――――!
腹に響く超重低音の恐るべき咆哮が街に響き渡る。
英斗は目を疑った。あの可愛い女の子が凶悪な巨大ドラゴンに変身したとしか考えられないが、そんなことってあるのだろうか? 物理法則も何もない。さっきの紗雪の魔法にしても、いつから日本は異世界になってしまったのだろう。
ドラゴンはバサッバサッと巨大な翼をはばたかせながら紗雪を目指した。
紗雪はすかさずシャーペンから光の筋を乱射しドラゴンに当てていくが、ドラゴンは平然としている。黄金に輝く重厚な鱗には全く通用しないようだった。
諦めた紗雪は今度は魔法陣を描き始める。瑠璃色に輝く円に六芒星、そしてルーン文字。
するとドラゴンは車をかみ砕けそうな巨大な口をパカッと開く。その中にはオレンジ色の光が輝き始めていた。
紗雪が魔法陣を描き終わると、魔法陣は激しく青い鮮烈な光を放ちながらツララのような巨大な氷の槍を無数射出する。ツララは鋭いエッジを光らせながら目にもとまらぬ速度でまっすぐにドラゴンへと襲いかかっていったが、直後ドラゴンは激烈な閃光を放った。
その閃光がもたらす激しい熱線は全てを焼き払う。ツララは瞬時に蒸発、公園の木々は茶色く焦げ、そして炎をあげていった。
「あぁぁぁ……、さ、紗雪……」
これがファンタジーの小説によく出てくるドラゴンブレスという奴だろうか?
実際に目にするとその圧倒的なパワーに英斗は気おされ、改めてドラゴンの破格な攻撃力にゾッとする。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる