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64.15歳少女の決意

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 夕暮れ時となり、護摩も終わった。
 息子さんの容体もかなり安定してきて、このままなら数日で回復しそうだ。

「サラ先生! ありがとうございます! 簡単な宴席を用意しましたので今日は泊っていってください!」
 庄屋さんがサラの手を取って言った。

「お弟子さんもどうぞどうぞ!」
 そう言って俺も客間に案内された。

 客間は柱が赤で壁は黄色という派手なインテリアとなっていて中央にテーブルと椅子があり、すでに料理が並んでいる。
 野菜の煮物、魚の煮つけ、漬物、そして濁り酒のツボが置いてあった。

 庄屋さんと、その親戚らしき男衆が3名が座ると、さっきの女の子が次々と酒を茶碗に入れてくる。
 俺も座ってお酒を注がれる。

「それでは乾杯しましょう! サラ先生の神業にカンパーイ!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 俺は恐る恐る濁り酒を口にする。韓国のマッコリっぽい味だ。甘酒のようだが、少し炭酸が利いていて酸っぱい。まぁ、悪くない味だ。
 サラは庄屋さん達と最近の社会情勢について何か熱く語っている。王家がゴタゴタしてるとか、どこかの軍隊が不穏だとか言う話のようだ。俺は地名や人名を言われてもよくわからないので、うわの空で酒をちびちびと味わっていた。

「お口に合いますか?」

 あの女の子が少し恥じらいながら小声で俺に声をかけてくる。さっきとは違って正装しているのですごく奇麗だ。まだあどけなさは残るものの、整った目鼻立ちにクリッとしたアンバーの瞳が魅力的に映る。

「あぁ、悪くないね」俺はニッコリと返す。

「良かった……それ、私が作ったんです」
 へぇ、すごいね! どうやって作ったの?

「え? お米を口でこうやって噛むんです」

 そう言って口をもごもごさせる。

 ブフッ

 思わず吹いてしまった。なんと、口噛み酒だったのか……。いや、これって間接キスじゃないの? え?
 俺が動揺しているのを見ると悲しそうに、

「私じゃダメでした……か?」と、しょげる彼女

「い、いや、う、美味いよ! 美味い!」

 そう言って一気に酒を呷った。

「良かった……」

 そう言ってちょっと照れながら女の子がお酒を注ぐ。

「私の名前はディナと言います。お名前は何というのですか?」

 え? 名前? 『マコト』……じゃ、長いかな……
 サラは『サラ』って言ってるから真似して『マコ』にしておくか……

「俺はマコ、東の国から来たサラの弟子だよ」
「マコ……様……」
 そう言ってディナは頬を赤らめた。
 そして、何かを意に決して言った

「マ、マ、マコ様、後でお会いできますか?」
「ん? 会うのは別に構わないよ」
 なぜそんなこと聞くのか俺はよくわかってなかったが、会うくらいなら別にいいだろうと軽く返事をした。

 ディナは真っ赤な顔をして
「じゃ、あ、後で……」

 そう言って速足で部屋を出て行ってしまった。どうしたんだろう?
 不思議に思っていると、サラが思念波を飛ばしてくる。

『後で会う、というのは夜伽よとぎって事ですよ』

 そう言って俺にウィンクしてくる。

 よ、夜伽!!!
 俺はびっくりしてすごい勢いでサラを見る。

『この国では客人のもてなしに夜伽は普通です。ディナは自ら立候補したみたいですよ、良かったですね』

 俺は思念波の飛ばし方が分からないので、小声で

「ちょ、ちょっとまずいよ、彼女まだ十代だよね? 犯罪だよ!」

『15歳ですね。郷に入っては郷に従えですよ。彼女まだ男性経験ないですし、病気の心配もないですよ』

 いや、これはマズい事になった。俺には由香ちゃんという心に決めた人がいるのだ。こんなところで浮気している場合じゃない。それも15歳の処女だなんて絶対ヤバい!

 でも、OKしちゃったんだよなぁ……
 今からNGなんてどう伝えようか……

 しかし、郷に入っては郷に従え……だよなぁ……う、イカンイカン!!

 俺は宴席の後半はずっと上の空だった。

 宴も終わり、寝室に通される。
 照明は行燈しかないので、暗い中、身支度を整える。
 イマジナリーでLEDランプ出しちゃえば楽なんだけど、そんなもの誰かに見られたらややこしいので暗がりで我慢する。


            ◇


 床に入ってしばらくすると廊下の方から足音がギシギシと伝わってくる。いよいよ来てしまうのか……

 足音が寝室の前で止まる。

「ご、ご奉仕に上がりました」
 ディナの声がしてスーッと戸が開く。

 真っ白な着物に身を包んだディナは、静かに入ってくると行燈の火を吹き消した。

 そして、シュルシュルと帯を緩める音が部屋中に響く。

 パサッと着物が床に落ちる音がして、しばらく静けさが支配した。

 俺の心臓が、ディナに聞こえちゃってるんじゃないか、というくらいドクドクと高鳴っている。
 彼女もきっと俺と同じに違いない。

 やがて布団がまくられて、ゆっくり彼女が入ってくる。
 彼女の柔らかい足が俺の足に触れる。

「ディナ、ちょっと待って」
 俺は声を絞り出す。

「マ、マコ様……何か問題でも?」
 ディナも声が上ずっている

「こう言う事は、好きな人とやらないとダメだよ」
 何を説教してるのか、馬鹿じゃないか……俺。

「わ、私はマコ様を好いておりますよ」
「あ、そう? ありがとう。でも俺には心に決めた女性がいて……」
「……。どこにいるんですか?」
「え? 東の国……だけど」
「なら、いいじゃないですか」
「いや、そういう問題じゃなくてだね」
「その方はどんな方ですか?」
「あー、ブラウンの瞳がクリッとした、可愛い22歳の娘だよ」
「22? ふふっ 私の勝ちですね!」

 ディナはうれしそうに言う。
 なるほど、この国では22歳は行き遅れなのだろう。恐ろしいな。

「あー、でも今は彼女のことしか考えられないんだ」
「……。今夜だけ、今夜だけ私のことを見てもらえませんか?」
「え?」
「マコ様は旅のお方、ついて行く事はできません。だから、今夜だけ、お情けを頂戴できませんか?」

 何と言う事だ。『都合のいい女でいい』とまで言っているのだ。

「それに……ご奉仕できずに帰ったら、みんなに笑われてしまうんです……」

 ご奉仕できなかったという事は恥……なのか。
 返答に困っていると、

「そんなに……私って魅力ない……ですか……?」
 ちょっとしょげたような声を出す。

 凄いな、完全に論破された。

 俺は覚悟を決めてディナの後頭部辺りにそっと触れ、麻酔の効果を使った。

 「あっ」

 ディナはそう声を出すとパタリと転がり、動かなくなった。

 これ以上彼女といたら絶対間違いを犯してしまう。

 据え膳喰わぬは男の恥……ではあるが、由香ちゃんに知られて困ることはしたくない。
 あぁ、なんて不器用な男だろうか……。

 俺は深層心理に潜って、離れにあるディナのベッドを特定し、そこに彼女を転送した。

 ゴメンな……いい夢見て欲しいな……。
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