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AIの発露

22.ザギンでシースー

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 手術の緊張から解放された気だるさの中で珈琲を入れていると、修一郎の親父さんから電話がかかってきた。
「あー、神崎君? こないだはありがとう。おかげで天安は手を引いてくれたようだ」

 俺は珈琲をドリップしながら答える。

「それは何よりです」
「お礼をしないとなと思うんだが、今晩あたり会食でもどうかね?」
「いいですね、みんなも連れてっていいですか?」
「もちろん構わんよ!」
 
 
 という事で銀座のすし屋にやってきた。

「ザギンでシースーですよシースー!」

 俺は浮かれて美奈ちゃんに絡む。
「何がシースーよ! オッサン臭いわよ!」

 美奈ちゃんは呆れている。
 
 スマホの地図通りに行くとどうやらこの店らしい。
 
 木製の格子戸を恐る恐る開けると白木の立派なカウンターに寿司職人がいて
「いらっしゃいませ!」
 と、いい声で迎えてくれた。
 
「田中で予約してると思います」
 そう伝えると、奥へと案内された。

 カウンターでは見るからに同伴のペアが何組も寿司を楽しんでいる。さすが銀座だ。
 
 静かな個室に通される。
 奥にかけた掛け軸にダウンライトの明かりが当たり、落ち着くインテリアだ。
 
 先にビールを貰って飲んでると修一郎と親父さんが現れた。

「悪いね、少し遅れちゃった!」
「いえいえ、先にやらせてもらってます」
 
 親父さんは店員に声をかける
「ビール二つ、それと最初に刺身適当に見繕って!」
「かしこまりました」
 
 親父さんはおしぼりで顔を拭きながら、
「おたくの人工知能凄いな、取引中止企業ってなってた鈴屋商事、不渡り出したよ」
「うちのAIは凄いんです」
「この情報だけでも売れるんじゃないか?」
「将来的にはAIのサービスの一環としてそういう情報も売っていきますよ」

 まぁ、クリスが出す情報は売れないんだがここはそう言っておかないと。

「そうそう、例の加賀美君、昇進させたらすごい喜んでね、今は凄い成果出してるよ」
「そうですか、良かった。ちゃんと昇進させる親父さんもすごいですよ」
「え? そうか?」
「アドバイスをちゃんと聞ける人は世の中多くないですよ」
「なるほど、自分の考えにこだわる奴多いからな」

 扉を開けて店員がやってくる。

「ビールお持ちしました~」
 
「では、天安との戦いの勝利にカンパーイ!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」
 
 仕事の後のビールは本当に美味い。
 
 刺身の盛り合わせも来たのでワサビを乗せてカンパチから頂く。
 しゃっきりとしていて口の中に広がる脂がまたうまい。
 銀座はいいね。
 
 刺身を堪能していると親父さんが身を乗り出してきて言った。
「でな、神崎君」
「はい、何でしょう?」
「儲け話があるんだけど、どう思うかね?」
「ブロックチェーンで月に5%って奴ですか?」

 親父さんは目を丸くして、
「え?何で知ってるの?」

 思わずビールを吹き出しそうになった。いい加減に適当に言ったら当たってたらしい。
「いや、そういう詐欺最近多いので」
「詐欺?これは詐欺じゃないよ。ほら、これ見て!」

 カバンから立派なパンフレットを取り出してきて見せる。

「う~ん、良くできた詐欺ですね」
「詐欺じゃないって! ブロックチェーンを使った最先端技術で安定して利益が出る事業への投資なんだって」

 親父さんはパンフレットをパンパン叩きながら熱弁をふるう。

「別に目新しい技術でもないですよ」
「そ、そうなの? でもメンバーが凄いんだよ、ほら、この人なんてICOで何度も当ててる業界の有名人なんだって」
「勝手に名前借りてるだけじゃないですかね? 会って話しました?」
「い、いや…。でも毎月ちゃんと5%振り込まれてくるんだよ」
「え?もうお金払っちゃったんですか!?」
「友達に勧められたんで1億円位……。でも毎月500万円ちゃんと振り込まれてくるんだ」
「いつ払ったんですか?」
「3か月ほど前かな?」
「今すぐ解約してください」
「解約すると違約金が……」
「このままだと半年くらいで支払いが止まりますね」
「そんな……。まだ、詐欺と決まったわけじゃないだろ?」
「このスキームは出資法違反なのでまともな会社は絶対にこういう事やらないんです」

 親父さんは目を丸くして固まる。
「え? 違法なの……?」

「事前にご相談してくれれば……」
「け、警察行こう!」
「警察は民事不介入ですよ。契約通り進んでいるのなら相手してくれませんね」
「でも、違法なんだろ?」
「この手のは警察もあまり動かないんですよ。それに、もし逮捕したとしてもお金は戻ってこないですね。お金の問題は民事なので」
「じゃ、どうしたら……」

 親父さんはしばらくうつむいていたが、
「神崎君、何とかならんかね? 友達にも紹介してしまったんだ」
 必死に訴えてくる。
 
 俺はクリスの方を見た。
「…。残念ですが、詐欺は騙される側にも問題があります」

「いや、確かに儲け話に目がくらんだのは確かだ。全額でなくてもいいから取り戻せんか?」

 クリスは目を瞑って上を向いて何か考え込んだ。
 首をゆっくりと左右に振っていたが考えがまとまったらしい。

「…。分かりました。困ってる人は放っては置けません」
「おぉ、何とかしてくれるかね!」
「…。まずはこの遠藤さんを呼び出してください。ちょうど銀座に居ます」
 クリスはパンフの中のヒゲ眼鏡を指して言った。
 どうしてみんな銀座に居るんだろう? 日本は銀座で動いているのか?


           ◇

 
 遠藤と連絡がついて例のバーで話をする事になった。
 お金を取り返す前に、まずは腹ごしらえ。
 
 親父さんは店員を呼び出して、
「人数分適当に握ってくれんかな? ワシはシャリ小で」

 俺も結構食べたので
「あ、私のもシャリ小で!」

「シャリ小って何?」
 美奈ちゃんがひそひそ声で聞いてくる。

「ご飯少な目って意味だよ」
「あ、じゃぁ私もシャリ小で!」
 美奈ちゃんが笑顔で頼む。
 
 ビールを飲みながら話をしていたら日本酒とお寿司がやってきた。
 
 綺麗なガラス皿に丁寧に並べられて出て来たお寿司は、見てるだけでもうっとりとする芸術作品だ。
 目で味が分かるレベルである。
 
 口に入れるとシャリがふんわりほどけてそこにネタの香りが加わる。
 そして富山の日本酒を一口……。
 あー、幸せである。寿司は銀座に限る。
 
 美奈ちゃんは器用にネタにしょうゆをつけるとパクりと一口でいった。
 目を瞑ってしばらくもぐもぐとして、

「う~ん、幸せ!」
 と、最高の笑顔である。

 俺はこういう素朴な笑顔に弱いよなぁ。
 ついジーっと見てしまう。

「何よ! あげないわよ!」
 俺の視線に気づいた美奈ちゃんがキッとこっちを睨んで言う。

「あ、いやいや、美味しそうに食べるなぁと思って見てたんだ」
「美味しい物は美味しく食べないと罰が当たるのよ!」
 そう言って笑った。


 寿司をたっぷり堪能したらいよいよ戦場へ移動である。
 
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