上 下
9 / 10

1-9. ハッキングは死刑

しおりを挟む
 達也が真っ青な顔で言葉を失っていると、『きゃははは!』と、上の方から笑い声が聞こえる。
 驚いて上を向くと、そこには青い髪をした女の子が宙に浮いて笑っていた。
 デニムのオーバーオールに白いシャツ、グレーの帽子をかぶったその可愛い女の子を見上げ、達也は心臓がバクバクと激しく高鳴るのを感じた。
 この女の子は神の力を使い、タワマンをぶち壊して楽しんでいる。
 その娘の背筋の寒くなるような存在感に、達也はどうしたらいいのか分からず、固まってしまう。
 すると女の子は、
「やっぱり出てきたねっ! みーつけた!」
 そう言いながらうれしそうに達也の前まで下りてきた。
「こ、これは君がやったのか?」
「そうだよ? ハッカーがこの辺に潜伏してそうだったので斬ってみたんだ」
 女の子はニコニコしながら言う。
「多くの犠牲者が出てますよ? いいんですか?」
 達也はにらみながら言った。
「他人のことより、自分のこと心配したら? ハッキングは重罪だよ?」
 女の子は急に険しい調子になると、腰に手を当てて達也をにらむ。
「えっ!? 誰にも迷惑かけてないじゃないですか!」
「だーめ! ハッキングは死刑って決まってるのよ」
 女の子は人差し指をゆらす。
 この世界を管理する存在にバレてしまった。それは最悪の事態だった。

 くっ!
 達也はスマホをパンパンと叩きパリの地下洞窟にワープする。以前観光で訪れたその洞窟は長大で暗く、身を隠すにはうってつけだと思ったのだ。岩陰に身を隠し、見つからないことを必死に祈る。
 この洞窟はカタコンブ、要は墓場である。壁には人間の頭蓋骨がたくさん並んでいて気味が悪いのだが、今はそんな事はどうでも良く感じられる。

 きゃははは!
 楽し気な笑い声が洞窟の中に響く。やはり神ともいうべきこの世界の管理者アドミニストレーターからは逃れられないらしい。
「逃げたって無駄だよ~」
 女の子の声が洞窟に反響しながら近づいてくる。
 しかし死刑を受け入れる訳にもいかない。

 達也は意を決すると南太平洋のコテージにワープする。
 そして室内に多量のTNT火薬を山のように配置した。逃げられないなら倒す以外ない。神相手にこんな攻撃が効くのかどうかわからないが、やれることはやってみる以外なかい。
 直後、
「逃げても無駄だってば!」
 そう言いながら女の子がワープしてくる。
 それと同時に達也は上空に跳び、火薬に点火した。

 ズン!
 コテージは轟音をあげながら大爆発を起こし、巨大な炎の玉がサンゴ礁の小島の上に広がっていく。
「やったか……?」
 激しい熱線を浴びながら達也は様子をじっと見守った。
 可愛い女の子に爆弾を浴びせるなんてこと、やりたくないのだが殺されるわけにもいかない。

 きゃははは!
 巨大な炎の玉がキノコ雲となって舞い上がっていく中から笑い声が響く。
 女の子はまるで鬼ごっこを遊んでいるかのように、青い髪をゆらしながら楽しそうに達也の方にツーっと飛んでくる。

 達也は観念する。やはり神には通常の攻撃など効かないのだ。
 女の子は達也の前まで来ると嬉しそうに言う。
「いいじゃん、君、センスあるよ。うちで働くかい?」
 達也は驚いた。死刑宣告かと思ったらリクルーティングである。それも神の組織で働く、それはとても魅力的な話だった。
「えっ!? い、いいんですか?」
 急転直下の展開に思わず達也の声が裏返る。
「ただし、一つテストをさせてもらうよ」
 女の子はニッコリと笑って言った。
「わ、分かりました。何をすれば?」
「あなた、陽菜に全部しゃべったでしょ? あれ、マズいんだよね。殺してくれる?」
 ニヤッと笑う女の子。
「え……? 殺すって……陽菜を殺せって事……ですか?」
「そう、今すぐ殺して。そうしたらテスト合格、内定出しちゃうわ」
 女の子はニコニコしながら殺人を指示する。
「ちょっと待ってください。彼女とは結婚の約束があります。婚約者を殺すなんてことできません」
 達也は毅然とした態度で断った。
「じゃあ、不合格。君は死刑、陽菜も処分だね」
 女の子は肩をすくめる。
「しょ、処分? 僕が断ったらあなたが陽菜を殺すんですか?」
「そうだよ? この世界の秘密を知っちゃった者は処分って決まってるのよ」
「だ、だめです! そんな事させません!」
「ふーん、じゃ、どうするの? 僕を殺す? どうやって? きゃははは!」
 女の子はうれしそうに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

ノアズアーク 〜転生してもスーパーハードモードな俺の人生〜

こんくり
ファンタジー
27歳にして、今ゆっくりと死に向かう男がいる。 彼の人生は実にスーパーハードモードだった。 両親は早くに他界し、孤児院でイジメられ、やっと出れたと思えば余命宣告をされた。 彼は死に際に願う。 「来世は最強の魔法使いとか世界を救う勇者とかになりたいものだ。あ、あとハーレムも追加で。」と。 力尽きた彼が目を覚ますと、子供の体に転生していた。 転生は成功した。 しかし、願いは1つも叶わない。 魔術?厄災?ノア? 訳の分からないことばかりだ。 彼の2度目のスーパーハードモードな人生が始まる。

追われる身にもなってくれ!

文月つらら
ファンタジー
身に覚えがないのに指名手配犯として追われるようになった主人公。捕まれば処刑台送りの運命から逃れるべく、いつの間にか勝手に増えた仲間とともに行き当たりばったりの逃避行へ。どこかおかしい仲間と主人公のドタバタ冒険ファンタジー小説。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

HEAD.HUNTER

佐々木鴻
ファンタジー
 科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。  其処で生きる〝ハンター〟の物語。  残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。 ※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。  大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

令和欲張りギャグコメディ「しまづの県」

郭隗の馬の骨
ファンタジー
現代っぽい日の本でお菓子製造を営む株式会社しまづの面々と全国の戦国時代にどこかで聞いたような人々があれこれするお話。 随所にアニメや漫画などのパロディーを散りばめて、戦国島津を全く知らない人にも楽しんでもらいつつ、島津の魅力を味わってもらおう、ついでにアニメ化やゲーム化やいろんなタイアップを欲張りに求めていくスタイル! 登場人物は戦国島津、戦国武将、島津ゆかりの風味(ここ大事!)で舞台は現代っぽい感じ。(これも大事!!) このお話はギャグパロディ小説であり実在の人物や組織、団体などとは一切関係ありません。(ということにしておいてください、お願いします)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...