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4-3. 僕らのクーデター

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「ク、クーデター!?」
 思わずアルシェは青ざめ、王様や第一王子を見る。それは彼らを倒せと言うとんでもない提案だった。
「いろいろ考えたんだけど、現状の体制ではこの星の未来は変えられない。だからアルシェに体制を一新してもらって国々を征服、統一し、共和制へ移行してもらうわ」
「いや、ちょっと待って! そんなことできっこないよ!」
「あら、私は神なのよ? 神にできない事など無いわ。このまま王様たち縛ったっていいのよ?」
 ユリアはニコニコして言う。
「いや、ちょっと、えっ?」
 混乱するアルシェ。
「断ってもいいわよ。別の人に頼むだけだから」
 ユリアはちょっと意地悪な笑顔を見せる。
「べ、別の人!?」
「アルシェが一番適任だと思うけど、アルシェじゃなきゃいけないって訳じゃないし……」
 あごに指を当て、首をかしげるユリア。
「クーデターは決定……なの?」
「戦争がなくなり、貧富の格差が生まれない状態を作れる方法が、他にあるならいいわよ」
「王家は消滅?」
「あ、無くさないわよ。権力が無くなるだけで、今後も王様として国民の尊敬を集めてもらうわ」
「そんなこと……できないよ」
 アルシェは眉をひそめ、否定する。
「大丈夫、私、そういう国、見てきたんだ」
「えっ!?」
「日本という国はね、天皇陛下という王様がいるんだけど、権力は持ってないのよ。政治は国民から選ばれた人がやってるの。この国でもできると思う。……、あ、お茶ちょうだい。のど乾いちゃった」
 ユリアはそう言うと、隣の空いた椅子に座ってテーブルのティーポットに手を伸ばす。
「ぐ、具体的には……どうするの?」
 アルシェは気を利かせて空きのカップをユリアの前に置く。
「あら、ありがと……。『蒼天の儀』に集まった王侯貴族を拘束し、新体制を認めさせるの」
 紅茶を注ぎながらそう言うと、美味しそうにすすった。
「いやいや、警備の騎士団たちが大勢いるんだよ?」
「あ、紹介し忘れてたわ、彼、ドラゴンなの」
 ユリアは後ろに立ってるジェイドを紹介した。
「ド、ドラゴン!?」
「初めまして」
 ジェイドは瞳の奥に真紅の炎を揺らし、ニコッと笑った。
 明らかに人ではないその威圧感にアルシェは凍り付く。
「ドラゴンを倒せる人なんてこの世界にいないわ。それにいざとなったらこうやって時間を止めちゃえばいいの」
 アルシェは圧倒された。
 神になった大聖女とドラゴンが自分にクーデターを持ち掛けている。やるも地獄、やらぬも地獄……。
 ただ、話を聞けば誰かを殺したり傷つけることを計画している訳ではない。邪心や野望があるわけではないのだ。純粋に大聖女としてこの星の未来を考えている想いは伝わってくる。
「ぐ、具体的には、僕に何をさせたいの?」
「何もしなくていいわ。『大聖女とドラゴンを使って自分が世界を統一する』とだけ言ってて」
 ユリアは気軽に言う。
 アルシェは腕を組んで考える。ここで断れば他の人の所へ行くだろう。国王の耳に入れ、阻止しようと動いてもらってもドラゴンや神の力に勝てるとは思えない。むしろそこで無駄に死傷者を生むだけだ。王家は存続というのなら、自分が臨時で王になり、全てが終わったら父に家督かとくを返上すればいい。逆に言えば、別の人がやれば王家の存続も危ういかもしれない。
「わかった……やるよ」
 アルシェはうなだれながら言う。
「ありがと。でも、そもそもこのクーデターはこの星のみんなを救うためにやるのよ? 胸を張って」
「そ、そうかもしれないけど、話を聞いたばかりじゃ良く分かんないよ」
「まぁ、そうかもね」
 ユリアは上機嫌で紅茶をすする。
「それにしても、ユリアさんって、ずいぶん雰囲気変わりましたね」
 ユリアは少し考え、言った。
「うーん、私ね、分かっちゃったの」
「えっ?」
「大聖女としてしきたりとか儀式とかマナーとかたくさんあるじゃない? あれ、全部意味ないのよ」
「そ、そんなこと……、ないの……では?」
「私ね、一生懸命言われるがままに全部ちゃんとやったの。それこそ毎日必死で。でも、結果は散々だったわ。言われた通りのことをやってちゃダメだったのよ」
 ユリアは反省を込めて渋い顔をする。
「いや、しかし、儀式とかマナーとかが品格を生むんだよ?」
「平和で余裕があるならいいわよ。暇つぶしにはちょうどいいわ。でも、今は緊急時、神様が怒っているのにマナーとかやってられないわ」
 ユリアは肩をすくめた。
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