上 下
24 / 65

24. Hello Cyan!

しおりを挟む
 いよいよ目前に迫ってきたドローン。ブォォォン! というプロペラ音が大きく響き渡る。
 玲司はピョンピョンと飛び跳ね、

「こっちだ! こい!」

 と、ドローンに向かって挑発した。

 玲司に照準を設定しているドローンは、迷うことなく時速数百キロでまっすぐに突っ込んでくる。三キロの爆弾を抱えて。

 近づくにつれその武骨で無機質な詳細が見えてくる。流線形でもなんでもなく単に黒い筒に板の翼をつけただけの雑なつくり。しかしその雑さが死神のように不気味さを醸し出していた。

 美空もコイツにやられてしまった。しかし、だからこそ、コイツで意趣返しをしてやるしかないのだ。

 玲司はじっとドローンとの距離を見定める。勝機は一瞬だ。全身の神経を研ぎ澄まし、ただその一瞬を待った。

 ぐんぐんと大きくなってくるドローン。

 そして、今まさに着弾しようとする寸前に玲司は、

「俺の勝ちだ!」

 そう言って前方に大きく飛び上がる。

 超高速で間近に迫ったドローン。

 しかし、玲司の身体はそのまま地面へと落ちていく。

 ドローンのカメラは目の前で落ちていく玲司の身体を捕捉できない。

 急に照準を見失ったドローンは、もう旋回も間に合わず、そのままSUVの上を通過してデータセンターへと突っ込んでいった。

 ズン!

 直後、衝撃が走り、データセンターは炎に包まれたのだった。

「ヤッター! ザマーミロ! バーカ! バーカ!」

 玲司は地面に転がりながら腹を抱えて笑う。飛ぶのが早すぎても遅すぎても殺される究極のチキンレースに玲司は勝ったのだ。これでシアンの本体は崩壊、百目鬼はただのハッカーに逆戻り。玲司はギリギリの勝負の末、ついにジャイアントキリングを達成したのだった。

 しかし……、玲司は突っ伏すと、動かなくなった。

「美空……、ごめんよぉ……」

 玲司は肩を揺らしながら泣く。

 こんなことのために命を失ってしまったかわいい少女、美空。それはもう取り返しのつかないトゲとなって心奥深くに突き刺さり、止むことのない悲鳴を生み続ける。

 シアンはそんな玲司のかたわらに立ち、心配そうに見守っていた。玲司の悲しみを和らげるすべをシアンは知らない。ただ、見守るしかできなかった。


        ◇


「間抜けが! 何をやってるんだ!」

 サンフランシスコのタワマンで百目鬼が吠えた。画面にはエラーメッセージが怒涛のように流れている。

 拠点としていたデータセンターを自らのドローンで爆破するなど、まさに愚の骨頂だった。

 ドローンが最後に送ってきた、中指を立てる玲司の憎たらしい映像が画面に映り、百目鬼はブルブルと震える。そして、血相を変えてガン! とこぶしで机を殴った。

「どこまでも忌々しい奴だ、小僧め!」

 百目鬼は鬼のような形相でカタカタカタとものすごい勢いでキーボードを叩いていく。

 ブォン!

 不気味な電子音が響き、百目鬼は画面に近づくとじっとその表示を見つめた。

 やがて文字列が流れてくる。

  Running setup.py install for recog ... done
  Running setup.py install for absl ... done
  Running setup.py install for grp ... done
 Successfully installed cyan-0.1.9.1
 Hello Cyan!

 百目鬼はニヤッと笑う。そう、百目鬼は別のデータセンターへのシアンの移植に成功したのだった。

 煌めく夜景を背景に百目鬼は両手のこぶしをギュッと握り、そして、ふぅと大きく息をつく。

「小僧……、今度こそ息の根を止めてやる。ハッカーこそが地球を統べるのにふさわしいのだよ」

 そう言ってまるでピアニストのように軽やかにカタカタカタタン! とキーボードをたたき、悪魔の笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...