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24. Hello Cyan!
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いよいよ目前に迫ってきたドローン。ブォォォン! というプロペラ音が大きく響き渡る。
玲司はピョンピョンと飛び跳ね、
「こっちだ! こい!」
と、ドローンに向かって挑発した。
玲司に照準を設定しているドローンは、迷うことなく時速数百キロでまっすぐに突っ込んでくる。三キロの爆弾を抱えて。
近づくにつれその武骨で無機質な詳細が見えてくる。流線形でもなんでもなく単に黒い筒に板の翼をつけただけの雑なつくり。しかしその雑さが死神のように不気味さを醸し出していた。
美空もコイツにやられてしまった。しかし、だからこそ、コイツで意趣返しをしてやるしかないのだ。
玲司はじっとドローンとの距離を見定める。勝機は一瞬だ。全身の神経を研ぎ澄まし、ただその一瞬を待った。
ぐんぐんと大きくなってくるドローン。
そして、今まさに着弾しようとする寸前に玲司は、
「俺の勝ちだ!」
そう言って前方に大きく飛び上がる。
超高速で間近に迫ったドローン。
しかし、玲司の身体はそのまま地面へと落ちていく。
ドローンのカメラは目の前で落ちていく玲司の身体を捕捉できない。
急に照準を見失ったドローンは、もう旋回も間に合わず、そのままSUVの上を通過してデータセンターへと突っ込んでいった。
ズン!
直後、衝撃が走り、データセンターは炎に包まれたのだった。
「ヤッター! ザマーミロ! バーカ! バーカ!」
玲司は地面に転がりながら腹を抱えて笑う。飛ぶのが早すぎても遅すぎても殺される究極のチキンレースに玲司は勝ったのだ。これでシアンの本体は崩壊、百目鬼はただのハッカーに逆戻り。玲司はギリギリの勝負の末、ついにジャイアントキリングを達成したのだった。
しかし……、玲司は突っ伏すと、動かなくなった。
「美空……、ごめんよぉ……」
玲司は肩を揺らしながら泣く。
こんなことのために命を失ってしまったかわいい少女、美空。それはもう取り返しのつかないトゲとなって心奥深くに突き刺さり、止むことのない悲鳴を生み続ける。
シアンはそんな玲司の傍らに立ち、心配そうに見守っていた。玲司の悲しみを和らげるすべをシアンは知らない。ただ、見守るしかできなかった。
◇
「間抜けが! 何をやってるんだ!」
サンフランシスコのタワマンで百目鬼が吠えた。画面にはエラーメッセージが怒涛のように流れている。
拠点としていたデータセンターを自らのドローンで爆破するなど、まさに愚の骨頂だった。
ドローンが最後に送ってきた、中指を立てる玲司の憎たらしい映像が画面に映り、百目鬼はブルブルと震える。そして、血相を変えてガン! とこぶしで机を殴った。
「どこまでも忌々しい奴だ、小僧め!」
百目鬼は鬼のような形相でカタカタカタとものすごい勢いでキーボードを叩いていく。
ブォン!
不気味な電子音が響き、百目鬼は画面に近づくとじっとその表示を見つめた。
やがて文字列が流れてくる。
Running setup.py install for recog ... done
Running setup.py install for absl ... done
Running setup.py install for grp ... done
Successfully installed cyan-0.1.9.1
Hello Cyan!
百目鬼はニヤッと笑う。そう、百目鬼は別のデータセンターへのシアンの移植に成功したのだった。
煌めく夜景を背景に百目鬼は両手のこぶしをギュッと握り、そして、ふぅと大きく息をつく。
「小僧……、今度こそ息の根を止めてやる。ハッカーこそが地球を統べるのにふさわしいのだよ」
そう言ってまるでピアニストのように軽やかにカタカタカタタン! とキーボードをたたき、悪魔の笑みを浮かべた。
玲司はピョンピョンと飛び跳ね、
「こっちだ! こい!」
と、ドローンに向かって挑発した。
玲司に照準を設定しているドローンは、迷うことなく時速数百キロでまっすぐに突っ込んでくる。三キロの爆弾を抱えて。
近づくにつれその武骨で無機質な詳細が見えてくる。流線形でもなんでもなく単に黒い筒に板の翼をつけただけの雑なつくり。しかしその雑さが死神のように不気味さを醸し出していた。
美空もコイツにやられてしまった。しかし、だからこそ、コイツで意趣返しをしてやるしかないのだ。
玲司はじっとドローンとの距離を見定める。勝機は一瞬だ。全身の神経を研ぎ澄まし、ただその一瞬を待った。
ぐんぐんと大きくなってくるドローン。
そして、今まさに着弾しようとする寸前に玲司は、
「俺の勝ちだ!」
そう言って前方に大きく飛び上がる。
超高速で間近に迫ったドローン。
しかし、玲司の身体はそのまま地面へと落ちていく。
ドローンのカメラは目の前で落ちていく玲司の身体を捕捉できない。
急に照準を見失ったドローンは、もう旋回も間に合わず、そのままSUVの上を通過してデータセンターへと突っ込んでいった。
ズン!
直後、衝撃が走り、データセンターは炎に包まれたのだった。
「ヤッター! ザマーミロ! バーカ! バーカ!」
玲司は地面に転がりながら腹を抱えて笑う。飛ぶのが早すぎても遅すぎても殺される究極のチキンレースに玲司は勝ったのだ。これでシアンの本体は崩壊、百目鬼はただのハッカーに逆戻り。玲司はギリギリの勝負の末、ついにジャイアントキリングを達成したのだった。
しかし……、玲司は突っ伏すと、動かなくなった。
「美空……、ごめんよぉ……」
玲司は肩を揺らしながら泣く。
こんなことのために命を失ってしまったかわいい少女、美空。それはもう取り返しのつかないトゲとなって心奥深くに突き刺さり、止むことのない悲鳴を生み続ける。
シアンはそんな玲司の傍らに立ち、心配そうに見守っていた。玲司の悲しみを和らげるすべをシアンは知らない。ただ、見守るしかできなかった。
◇
「間抜けが! 何をやってるんだ!」
サンフランシスコのタワマンで百目鬼が吠えた。画面にはエラーメッセージが怒涛のように流れている。
拠点としていたデータセンターを自らのドローンで爆破するなど、まさに愚の骨頂だった。
ドローンが最後に送ってきた、中指を立てる玲司の憎たらしい映像が画面に映り、百目鬼はブルブルと震える。そして、血相を変えてガン! とこぶしで机を殴った。
「どこまでも忌々しい奴だ、小僧め!」
百目鬼は鬼のような形相でカタカタカタとものすごい勢いでキーボードを叩いていく。
ブォン!
不気味な電子音が響き、百目鬼は画面に近づくとじっとその表示を見つめた。
やがて文字列が流れてくる。
Running setup.py install for recog ... done
Running setup.py install for absl ... done
Running setup.py install for grp ... done
Successfully installed cyan-0.1.9.1
Hello Cyan!
百目鬼はニヤッと笑う。そう、百目鬼は別のデータセンターへのシアンの移植に成功したのだった。
煌めく夜景を背景に百目鬼は両手のこぶしをギュッと握り、そして、ふぅと大きく息をつく。
「小僧……、今度こそ息の根を止めてやる。ハッカーこそが地球を統べるのにふさわしいのだよ」
そう言ってまるでピアニストのように軽やかにカタカタカタタン! とキーボードをたたき、悪魔の笑みを浮かべた。
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