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1章 鏡の中の異世界
3-19. 届かぬ想い
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二人は金属の階段をカンカンと言わせながら登っていった。
「ちょっとこれ、大変じゃないですか?」
俺はハァハァと息を弾ませながら登っていく。
「海王星じゃ権能も使えないからねぇ……。足で行くしかないわ」
「もしかして……、女神様なら使えるんですか?」
「ふふふ、ご明察」
ミネルバはヒゲをピクピクっと動かして笑った。
「じゃあ、女神様に頼んだらよかったのでは?」
すると、ミネルバはあきれたような顔をして言った。
「あのね、今、我々は女神様に試されてるのよ」
「え?」
「あの方は全て分かった上で我々の解決力をテストしてるの。頼んだ時点で落第だわ」
なんと、全て先輩の手のひらの上だったのか……。となると、エステルが新人類であることも知っていたはずだ。その上で俺に結婚を勧めた。これはどういうことだろうか?
マリアンに連れ去られてしまったエステル。絶対に奪い返さないとならない。しかし……、俺は彼女にどう接したらいいのか悩んでいた。もちろん、人間でなかったとしても彼女は愛しい存在だ。でも、その愛おしさが人工的に作られた物から来ているのだとしたら……、それはプログラミングされたゲームキャラを一方的に好きになっているだけ、ではないのだろうか?
俺は彼女を愛していいのだろうか? 彼女にとって俺の愛って迷惑ではないのだろうか……?
奪還出来たらゆっくりとエステルの考えを聞き、心で感じてみるしかない。
あぁ、屈託のないあの優しい笑顔に早く癒されたい……。
俺は悶々としながらミネルバについて階段を上っていった。
◇
「見つけたわ、これね!」
そう言って、ミネルバは円柱の一部を指さした。
「これを抜くんですか?」
「そうよ、ここにロックの金具があるから外してね……。じゃあ引っ張るわよ」
「せーのっ!」
そう言って二人で引っ張ると、ガコッ! っと音がして畳サイズのブレードが抜けた。
ブレードを床に置いて二人で観察してみる。入り口に置いてあったものと同じ構造をしていて、ガラスの微細な構造がキラキラと照明を反射し、美しかった。
しかし……、特に怪しい物は見つけられない。
「もしかしたら1ミリくらいの小さなものかもしれないわ。そうだったらちょっと見ただけじゃわからないかも……」
ミネルバは眉間にしわを寄せて言う。ヒゲがしょんぼりと下がってきてしまう。
「この間にもマリアンは魔物の侵攻を進めてるんですよね?」
「そうでしょうね。ぐずぐずしていられないわ。手分けして候補を一つずつしらみつぶしで行きましょう」
「分かりました。頑張ります!」
「じゃあ、ステータス画面開いて」
「え!? 海王星でも開けるんですか?」
「この肉体に実装されているのよ。ここに直接映像が行くわ」
そう言って、ミネルバは頭を指さした。
「分かりました。『ステータス!』」
すると、確かに青白いウィンドウが空中に開いた。そこにはスマホのようなアイコンも並んでいる。
「今、メッセージ送ったから、そこのリストの上からチェックお願い」
ピコピコと点滅するアイコンをタップすると、リストがズラッと並んだ。その量にちょっと気が遠くなったが、多くの人命がかかっているのだ。頑張るしかない。
「了解です!」
俺はそう言って走り出した。
◇
カンカンカンカン!
金属の網目でできたグレーチングの上を俺は淡々と走った。どこまでも並ぶ巨大な円柱群の間を息を切らしながら走る。
マリアンの野望を止め、エステルを取り戻す。そのために、今の俺にできることを淡々とやるのだ。
『ソ、ソータ様、ち、違うの!』
エステルが新人類だと暴露された時に、エステルが必死に叫んだ言葉がまだ耳に残っている。
あの時、俺はひどい目でエステルを見てしまった。プロポーズしようとさえしていた愛しい人をなぜあんな目で見てしまったのか……。
俺の腕にしがみつき震えていたエステルを、なぜ温かく抱きしめてあげられなかったのか?
新人類だからといって傷つかない訳はない。俺が向けた冷たい視線が、彼女の小さな胸に大きな傷を負わせてしまったとしたら取り返しがつかない。
俺は自分勝手に生きてきた浅はかな今までの人生を心から反省し、エステルにちゃんと謝りたいと思った。
「エステル……」
自然と涙が湧いてきて、走りながらポロポロとこぼれた。
「ちょっとこれ、大変じゃないですか?」
俺はハァハァと息を弾ませながら登っていく。
「海王星じゃ権能も使えないからねぇ……。足で行くしかないわ」
「もしかして……、女神様なら使えるんですか?」
「ふふふ、ご明察」
ミネルバはヒゲをピクピクっと動かして笑った。
「じゃあ、女神様に頼んだらよかったのでは?」
すると、ミネルバはあきれたような顔をして言った。
「あのね、今、我々は女神様に試されてるのよ」
「え?」
「あの方は全て分かった上で我々の解決力をテストしてるの。頼んだ時点で落第だわ」
なんと、全て先輩の手のひらの上だったのか……。となると、エステルが新人類であることも知っていたはずだ。その上で俺に結婚を勧めた。これはどういうことだろうか?
マリアンに連れ去られてしまったエステル。絶対に奪い返さないとならない。しかし……、俺は彼女にどう接したらいいのか悩んでいた。もちろん、人間でなかったとしても彼女は愛しい存在だ。でも、その愛おしさが人工的に作られた物から来ているのだとしたら……、それはプログラミングされたゲームキャラを一方的に好きになっているだけ、ではないのだろうか?
俺は彼女を愛していいのだろうか? 彼女にとって俺の愛って迷惑ではないのだろうか……?
奪還出来たらゆっくりとエステルの考えを聞き、心で感じてみるしかない。
あぁ、屈託のないあの優しい笑顔に早く癒されたい……。
俺は悶々としながらミネルバについて階段を上っていった。
◇
「見つけたわ、これね!」
そう言って、ミネルバは円柱の一部を指さした。
「これを抜くんですか?」
「そうよ、ここにロックの金具があるから外してね……。じゃあ引っ張るわよ」
「せーのっ!」
そう言って二人で引っ張ると、ガコッ! っと音がして畳サイズのブレードが抜けた。
ブレードを床に置いて二人で観察してみる。入り口に置いてあったものと同じ構造をしていて、ガラスの微細な構造がキラキラと照明を反射し、美しかった。
しかし……、特に怪しい物は見つけられない。
「もしかしたら1ミリくらいの小さなものかもしれないわ。そうだったらちょっと見ただけじゃわからないかも……」
ミネルバは眉間にしわを寄せて言う。ヒゲがしょんぼりと下がってきてしまう。
「この間にもマリアンは魔物の侵攻を進めてるんですよね?」
「そうでしょうね。ぐずぐずしていられないわ。手分けして候補を一つずつしらみつぶしで行きましょう」
「分かりました。頑張ります!」
「じゃあ、ステータス画面開いて」
「え!? 海王星でも開けるんですか?」
「この肉体に実装されているのよ。ここに直接映像が行くわ」
そう言って、ミネルバは頭を指さした。
「分かりました。『ステータス!』」
すると、確かに青白いウィンドウが空中に開いた。そこにはスマホのようなアイコンも並んでいる。
「今、メッセージ送ったから、そこのリストの上からチェックお願い」
ピコピコと点滅するアイコンをタップすると、リストがズラッと並んだ。その量にちょっと気が遠くなったが、多くの人命がかかっているのだ。頑張るしかない。
「了解です!」
俺はそう言って走り出した。
◇
カンカンカンカン!
金属の網目でできたグレーチングの上を俺は淡々と走った。どこまでも並ぶ巨大な円柱群の間を息を切らしながら走る。
マリアンの野望を止め、エステルを取り戻す。そのために、今の俺にできることを淡々とやるのだ。
『ソ、ソータ様、ち、違うの!』
エステルが新人類だと暴露された時に、エステルが必死に叫んだ言葉がまだ耳に残っている。
あの時、俺はひどい目でエステルを見てしまった。プロポーズしようとさえしていた愛しい人をなぜあんな目で見てしまったのか……。
俺の腕にしがみつき震えていたエステルを、なぜ温かく抱きしめてあげられなかったのか?
新人類だからといって傷つかない訳はない。俺が向けた冷たい視線が、彼女の小さな胸に大きな傷を負わせてしまったとしたら取り返しがつかない。
俺は自分勝手に生きてきた浅はかな今までの人生を心から反省し、エステルにちゃんと謝りたいと思った。
「エステル……」
自然と涙が湧いてきて、走りながらポロポロとこぼれた。
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