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1章 鏡の中の異世界

2-5. ダンジョン地図

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 まずは魔道具屋に向かった。日当たりの悪い裏通りをしばらく行くと、出窓に年季の入ったランプや不思議な人形の飾られた店がある。中は薄暗がりで良く見えない。一人ではなかなか入れないお店だ。
 エステルがドアを開ける。

 カラン、カラン
「こんにちはぁ」
 そう言いながらエステルは入っていき、俺も続く。
 店の中はアジア雑貨のお店のようで、良く分からない物が所狭しと陳列されていた。右手には棚があり、いろんな形をした魔法の杖がずらりと並んでいた。何の気なしに値札を見ると、高い物では金貨百枚を超えるものがあり、ちょっとビビる。

「おや、エステルちゃん、今日はどうしたんだい?」
 奥のカウンターのおばさんが、メガネをクイッとあげて声をかける。

「この杖の買取りと、あと、ダンジョンの地図とポーションをください」
「はいはい、いい杖が見つかったのね」
「少しだけですけどね」
 エステルはちょっと恥ずかしそうに言った。
「地図は何階の?」
 おばさんが聞くと、エステルは俺の方を見る。
「出来たら全部欲しいんですが」
 俺が答える。
「全部!? 百階までって事かい?」
 おばさんは驚く。
「あれ? マズい……ですか……?」
「八十階から先はなかなか更新されないから、あまり役に立たないうえに高額よ?」
「高額……というと?」
「十階ごとに一冊となっていて、八十台は銀貨五枚、九十台は金貨一枚ね」
「役に立たないというと……、ダンジョンがどんどん変わっていっちゃうからと言う事ですか?」
「そうよ? それに……、悪いけどあなた達で八十台は……。見たところ三階とかが適正じゃないかしら……」
 おばさんは渋い顔をする。
「大丈夫です! ソータ様は双頭のワイバーンを瞬殺できるんです!」
 エステルがニッコリと笑いながら言う。
「えっ!? 一人で倒したのかい?」
 驚いて俺を凝視するおばさん。
「いや、まぁ、ちょっと特殊な方法で倒せるんです」
「こりゃまた驚いた……。ワイバーンと言うと六十階ね、七十階は筋肉ムキムキのミノタウロス、八十階はワシとライオンのキメラ、グリフォンよ、勝てる?」
 おばさんは興味津々に聞いてくる。
「多分余裕かと……」
 俺はニヤッと笑う。
「ふへー……!」
 おばさんは言葉を失う……。
「えへん!」
 エステルが自分のことのように胸を張る。
「もしかして……、あなたが稀人かい?」
 おばさんが俺を見つめながら聞いてくる。
「あー、違います。そうだったら良かったんですけどね」
 俺は苦笑いしながらごまかす。
「ふぅん……」
「そ、それより、これは何ですか?」
 話題を変えるべく、ショーウィンドウの中に丁寧に並べられた本を指さした。
「これは魔導書よ。魔法を覚えられるわ」
「え? これ使えば誰でも魔法を使えるんですか?」
「知力が一定以上あればね」
 おばさんは挑戦的な視線で俺を見る。
「空飛ぶ魔法とかもあるんですか?」
「これね。知力が30以上なら覚えられるわ」
 おばさんは青い表紙の魔導書を指さす。その六ぼう星をあしらった不思議な模様が描かれた重厚な書籍に俺は魅せられた。
 そんな俺を見てエステルが言う。
「魔法は憶えても使いこなすには修練が要るですよ?」
「修練?」
「ちょっと浮き上がる事は誰にでもできますが、自由自在に飛ぶには凄い練習が要るんです」
 なるほど、そんなに簡単な話じゃないらしい。だが、いつかは飛んでみたい。それは子供の頃からのあこがれなのだ。
「分かりました。それじゃ今日は八十階までの地図と、あとポーションを一式ください」

         ◇

 その後、武具屋と防具屋にも行ったが、やはり物干しざおとユニクロの服や防刃ベストの方が優秀だった。日本の物は異様に高いパラメーターを付与されている。むしろ、ユニクロの服を仕入れて売ったら儲かるんじゃないかとすら思った。

 左腕に付ける丸い盾だけ買って装備してみる。殺虫剤をかいくぐられた時の一撃を回避するのに使えそうだった。

 さて、これで準備万端。いよいよ本格的にダンジョン攻略だ!
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