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1章 鏡の中の異世界
1-12. 忘れられないケーキ
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俺たちは一旦部屋に戻った。得られた金貨が本当に日本円になるか確かめないとならない。ゲームのような世界で得た金貨、本当に換金なんてできるのだろうか?
エステルには飲み物とおやつを出し、くつろいでもらって、俺は貴金属買取屋へと走った。ポケットで踊る五枚の金貨、果たして買い取ってもらえるのだろうか?
スマホの地図を頼りに買取屋前までやってくると、調べた写真どおりのガラス張りのお店があった。『ブランド高額買取!』と、のぼりが立っている。
俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、自動ドアの前に行った。
「いらっしゃいませー」
若い女性がにこやかに声をかけてくれて、俺はおずおずと店内に進む。
「買取ですか?」
「は、はい。金貨なんですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、それではそちらにおかけください」
女性は奥の綺麗なテーブルを指さした。
俺はこわごわと店内を進み、席に座る。
女性が飲み物を出しながら向かいに座る。
「どういった金貨ですか?」
「これなんですが……」
俺は取ったばかりの五枚の金貨を、ラシャの張られたトレーに広げた。
「ちょっとよろしいですか?」
そう言って女性は白い手袋をしてトレーを引き寄せる。
「どうぞ」
女性はコインをじっくりと眺め、ルーペで拡大して観察する。
そして、秤で重さをはかり、電卓をパチパチと打った。
「見たことのない金貨ですが、金には間違いなさそうですね。今の金の価格が6,611円なので、五枚でこの金額なら買い取らせていただきます」
電卓には『285,110』とある。
「二十八万ですか?」
俺は驚いた。宝箱から拾ったばかりの金貨が、サラリーマンの初任給をはるかに超えている。
「そうですね。他店へ行かれても同じような金額になると思います」
女性は淡々と言う。
「わ、分かりました。買取をお願いします」
「それでは身分証明書をお願いできますか?」
「は、はい!」
俺は買取手続きを進め、あっさりと現金の入った封筒を手渡された。
ずっしりとした重みを感じる封筒……。これは冒険者としての初任給と言えるかもしれない。
俺は帰り道、人目につかない所でガッツポーズを繰り返した。
「行ける! 行けるぞ! もう就活なんて止め止め! 俺は冒険者になるのだ!」
俺はうれしくてうれしくて何度も飛び上がった。
◇
ケーキ屋で芸術的な装飾が施された高級なケーキを二つ買い、部屋に戻った。
「ただいまちゃーん!」
俺は上機嫌でリビングのドアをバーンと開けた。
すると……、
「いっちにー! いっちにー!」
エステルがTシャツ一枚で、下に何もはかずに腕を振り上げ、踊っていた。
真っ白く艶やかで優美な曲線を描く太もものラインが、露わになって揺れている。
「え?」
あまりに予想外の事に呆然とする俺と目が合った……。
「きゃぁ!」「うわぁ!」
俺は後ろを向いて聞いた。
「ご、ごめん……。でも……何してるの……?」
エステルは急いでスウェットをはきながら言う。
「申し訳ないですぅ……。日課の体操なんです。暑くなっちゃって……」
「あー、ごめん。エアコンの使い方教えてなかったね」
俺はエアコンのリモコンを取ると、見せながらボタンを押した。
「これを使うと涼しくなるんだよ」
「え!? すごい! 氷魔法です!」
「魔法じゃなくて科学だな」
「科学……?」
首をかしげるエステル。
やがて出てきた冷風を浴びて、
「うわぁ、涼しいですぅ」
と、目を閉じて金髪をなびかせながら幸せそうに言った。
◇
「ケーキ食べよう! ケーキ!」
そう言って俺はテーブルにケーキを並べた。
ケーキの上にはパティシエが丹精込めた芸術的なチョコのオブジェが載っている。
「えっ!? 何ですかこれ!?」
「いいから食べてごらん」
俺はフォークを渡す。
エステルは恐る恐るフォークでチョコのアートを口に運ぶ……。
「うわぁ! あまぁい!」
最高の笑顔を見せるエステル。
「金貨を使って買って来たんだ」
「うふふっ、金貨最高ですぅ!」
「そうそう、最高だよ! ちゃんと最後に清算してエステルにも渡すからね」
「いやいや、私は付き人ですから……」
「遠慮しないの、一緒に儲けよう」
「……、頑張るです!」
俺たちは笑顔で見つめ合いながらケーキを味わう。
それは忘れられない最高の味がした。
エステルには飲み物とおやつを出し、くつろいでもらって、俺は貴金属買取屋へと走った。ポケットで踊る五枚の金貨、果たして買い取ってもらえるのだろうか?
スマホの地図を頼りに買取屋前までやってくると、調べた写真どおりのガラス張りのお店があった。『ブランド高額買取!』と、のぼりが立っている。
俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、自動ドアの前に行った。
「いらっしゃいませー」
若い女性がにこやかに声をかけてくれて、俺はおずおずと店内に進む。
「買取ですか?」
「は、はい。金貨なんですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、それではそちらにおかけください」
女性は奥の綺麗なテーブルを指さした。
俺はこわごわと店内を進み、席に座る。
女性が飲み物を出しながら向かいに座る。
「どういった金貨ですか?」
「これなんですが……」
俺は取ったばかりの五枚の金貨を、ラシャの張られたトレーに広げた。
「ちょっとよろしいですか?」
そう言って女性は白い手袋をしてトレーを引き寄せる。
「どうぞ」
女性はコインをじっくりと眺め、ルーペで拡大して観察する。
そして、秤で重さをはかり、電卓をパチパチと打った。
「見たことのない金貨ですが、金には間違いなさそうですね。今の金の価格が6,611円なので、五枚でこの金額なら買い取らせていただきます」
電卓には『285,110』とある。
「二十八万ですか?」
俺は驚いた。宝箱から拾ったばかりの金貨が、サラリーマンの初任給をはるかに超えている。
「そうですね。他店へ行かれても同じような金額になると思います」
女性は淡々と言う。
「わ、分かりました。買取をお願いします」
「それでは身分証明書をお願いできますか?」
「は、はい!」
俺は買取手続きを進め、あっさりと現金の入った封筒を手渡された。
ずっしりとした重みを感じる封筒……。これは冒険者としての初任給と言えるかもしれない。
俺は帰り道、人目につかない所でガッツポーズを繰り返した。
「行ける! 行けるぞ! もう就活なんて止め止め! 俺は冒険者になるのだ!」
俺はうれしくてうれしくて何度も飛び上がった。
◇
ケーキ屋で芸術的な装飾が施された高級なケーキを二つ買い、部屋に戻った。
「ただいまちゃーん!」
俺は上機嫌でリビングのドアをバーンと開けた。
すると……、
「いっちにー! いっちにー!」
エステルがTシャツ一枚で、下に何もはかずに腕を振り上げ、踊っていた。
真っ白く艶やかで優美な曲線を描く太もものラインが、露わになって揺れている。
「え?」
あまりに予想外の事に呆然とする俺と目が合った……。
「きゃぁ!」「うわぁ!」
俺は後ろを向いて聞いた。
「ご、ごめん……。でも……何してるの……?」
エステルは急いでスウェットをはきながら言う。
「申し訳ないですぅ……。日課の体操なんです。暑くなっちゃって……」
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俺はエアコンのリモコンを取ると、見せながらボタンを押した。
「これを使うと涼しくなるんだよ」
「え!? すごい! 氷魔法です!」
「魔法じゃなくて科学だな」
「科学……?」
首をかしげるエステル。
やがて出てきた冷風を浴びて、
「うわぁ、涼しいですぅ」
と、目を閉じて金髪をなびかせながら幸せそうに言った。
◇
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そう言って俺はテーブルにケーキを並べた。
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「えっ!? 何ですかこれ!?」
「いいから食べてごらん」
俺はフォークを渡す。
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「うわぁ! あまぁい!」
最高の笑顔を見せるエステル。
「金貨を使って買って来たんだ」
「うふふっ、金貨最高ですぅ!」
「そうそう、最高だよ! ちゃんと最後に清算してエステルにも渡すからね」
「いやいや、私は付き人ですから……」
「遠慮しないの、一緒に儲けよう」
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俺たちは笑顔で見つめ合いながらケーキを味わう。
それは忘れられない最高の味がした。
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