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グレイソン

エリック殿下との交流が深まった。

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「リュシエンヌとはどこで出会ったんですか?」

 雨の日なのか、図書館なのか返答に困るな。

「雨の日にリュシエンヌが雨宿りをしていて傘を貸しました。リュシエンヌの事は王宮図書館で見たことがあって、知っていたのです」

 なんで驚いているんだ、エリック殿下は。

「なんとまぁ……グレイソン殿とリュシエンヌの出会いのきっかけを作ったのは私です。王宮図書館の入館証を発行するように言ったのは私ですから」

 ん? そうだったのか! 

「それに雨の日とは……私がリュシエンヌに初めて会ったのは雨の日でした。弟と雨宿りをして私もその場に居合わせました。リュシエンヌは私だと気がついていないんですけどね」

 やっぱり! ハリスの言う通りだった。

「そのようですね。リュシエンヌの弟ハリスが言うには本人は気がついていないと。ハリスはエリック殿下だったと気がついていますが本人には伝えていないそうです」

「やはりか……それにしてもあの弟はいつもリュシエンヌといるよね? シスコンですよね?」

 そうなんです! と、声を大にしたい!

「ははっ、頼りになる存在なんだそうですよ。仲の良い姉弟です。生意気ですけど」

「リュシエンヌの前で猫をかぶっているんだろうけど腹黒い? その腹黒に伝言を」

「なんでしょう?」

「あの雨の時の少年が私だったとリュシエンヌにいわないでくれ。と伝えて下さい」

「なぜですか?」

「不思議な思い出のままにしてほしいから。その方がリュシエンヌの記憶に残るから」

 不思議な思い出とはなんだろうか。私が知らない二人だけの何かがあるのだろうか。しかしリュシエンヌに聞くわけにもいかない。私のそんな顔を見てエリック殿下が言った。

「あの出会った雨の日にリュシエンヌからハンカチを借りた。リュシエンヌは借りたままにしておくのが好きではないようで、返さなくても良いといった私の上着を返してきた。なんで貸したかというと話は長くなるけれど、制服が汚れていたから貸した。とだけ言っておくよ。返すついでの時が私が国を出る時で手紙を貰った。内容は言わないけど心に刺さった……だから国を立つ前に私もリュシエンヌに名無しでハンカチを返した。どこの誰かも分からないのだから、不思議なままがいいね」
 
 なるほど。だから傘を返しにわざわざ騎士団まで……って! 今の話をひっくるめると王宮図書館でリュシエンヌを見たのはエリック殿下のおかけだし、リュシエンヌに婚約者がいなかったのもエリック殿下のおかげ? で……


「エリック殿下のおかげで私とリュシエンヌは出会えたのですか。やはり運命だったのか……ありがとうございます」

「え? そこ?」

 驚くよな口ぶりのエリック殿下だけど、構わずに続けた。

「リュシエンヌが言ってくれたのですよ。私がこの歳まで結婚していなかったのは、リュシエンヌと出会う為だったとか、出会うのを待っていてくれただとか……エリック殿下の話を聞いて確信になりました」


 ふむ。歯車がカチッと音を立てて噛み合ったんだな!


「グレイソン殿って性格変わったよね? 昔は人前で惚気るタイプではなかったよね? どこに惚れたか聞いて良い?」


「いっぱいありますが、そうですね……まず惚れたのは仕草ですね」

 いっぱいあるんだが、仕草だよな。あの時見惚れたリュシエンヌの……

「仕草? 顔かと思った」

「いえ。顔は確かに私には勿体無いくらい可愛いですけれど。リュシエンヌは古書に触れる時白い手袋をするのです。古書を大事に扱うその仕草に見惚れてしまいました」

 家の本を触る時もそれは変わらない。ジィ様が残してくれた貴重な本を触る時は緊張する。と言い丁寧にページを捲る。

「本が繋げた関係とは……ストレートに伝えるべきだったんだな」

「そうかもしれませんね。リュシエンヌは婚約を破棄された事で自己評価が低いと思っているところがありましたから」

「グレイソン殿はリュシエンヌが弱っていたところを攻めたんですか? 他は?」

 んー。弱っていた感じはしないが、一歩も二歩も引いていたというか、恋愛事には疎いというか、そういうところも可愛いのだがあまり言いたくないな。でも蔑ろにも出来ない。

「リュシエンヌが傘を返しにきてくれた時に、呼び止められました。振り向くとリュシエンヌがいました。あの時にわざわざ私を探して傘を届けにきてくれたという事に驚き、そして……嬉しかったのです」

 ふとあの時のことを思い出し、笑ってしまう。私に話しかけるのに緊張していた。と言った。なんだろな、そういう仕草一つとっても可愛い。

「リュシエンヌもグレイソン殿に好意を寄せていたのか……それは完敗だね。私はリュシエンヌに好かれてはいなかったから」

「嫌ってはいなかったと思いますが、やり方がよろしくなかったようですね。あれではリュシエンヌに気持ちは届きません。私も恋愛事に器用ではないので、その辺は理解できます」

 そういうところは似ているのかもしれないな。と思うと無性にリュシエンヌに会いたくなってきた。


「私のおかげでリュシエンヌに出会えたんだから感謝してくださいよ」

 なんだよ、スッキリした顔をしているじゃないか。


「感謝していますよ。こうして話ができて良かったと思います。殿下こそ女王陛下とお幸せに」

「国に返されても居場所はないからね」



 ニヤリと笑うエリック殿下。私が女王に話した内容を聞いたのか。うまくいってるんじゃないか。パレードをした事により国民も喜んでいたし、すっごい忙しいけれど来てくれて良かった。陛下と王妃も喜んでいた。って! 会談はどうするんだ?!

 





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