拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

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グレイソンとレオン

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 この後リュシエンヌと伯爵夫妻が待つ執務室へと戻ろうとする。この時レオンが一緒に行くというから連れて行った。



「お待たせして申し訳ありませんでした」

 リュシエンヌの両親にレオンを紹介した。

「副隊長をしています。レオン・リグロと申します。今回の件で大切なご息女を巻き込んでしまいまして誠に申し訳ございませんでした」

 リュシエンヌの両親は黙ってレオンの話を聞いていた。


「先程グレイソン殿にも言ったが二度とこのような事がないようにして下さい。それにしてもヤク中とは……なんとも言えませんな」

 今は落ち着いている伯爵だが、話を聞いて逆上しリュシエンヌとの婚約を無かったことにしてくれ。とまで言ってきたのだ。リュシエンヌが一生懸命阻止してくれた……


 ヤク中の令嬢に未来はない。子爵家からブツが出てきた。そこまで言えば伯爵は理解できるだろう。
 シオンとあのオンナの沙汰は正式に決定次第伯爵に報告すると言うことに決まった。手紙や報告書には残さない。何かあった時の証拠になってしまう(貴族籍を抜くのに必要だったシオンは省く)


 ほぼ決まった内容ではあるのだが、リュシエンヌに聞かせるのは躊躇われた。


 どう説明すればいいのやら。例えば……

『シオンは貴族籍を抜かれ平民となり、遠く(国境)の魔獣退治に行くことになった。あの辺の魔獣は強いから命の保証はないし、生きて帰ってきても王都に足を踏み入れることは出来ないんだよ』

『レオンに執着し、リュシエンヌに暴言を吐いたり、攫ったりした規格外の子爵令嬢の家は不法薬物所持が判明したから即時取り潰しになったよ。父親は今頃地下牢で拷問を受けているかな? あの令嬢はとても厳しい刑務所に入れることになったんだよ。家族も今頃全員捕まって話を聞いている最中だよ。どれだけクスリに浸かっているかは分からないけど、先は長くないよ』


『あ、付け加えてレオンの父からは今回の件が漏れないように一筆書かせてあるからひと安心だ。つい口が滑った! なんて事になったら一族郎党綺麗さっぱりこの世からいなくなるんだよ。自分だけの命じゃないからうっかり口が滑ることはないぞ! 背後に何十人の命を預かっているからな』


 などと優しく? 言ったところでリュシエンヌからしたら残酷な事だろう。リュシエンヌは優しいからもっと軽い罰を。と言ってくる可能性もある。

 私達からしたら軽すぎるんだが……



「リュシエンヌちゃん今日は疲れただろう? あの令嬢を放っておいた私に原因がある。本当に申し訳なかった」

 レオンがリュシエンヌに頭を下げる。

「副隊長様、頭を上げてください。私は無事ですし、レイ様や騎士団の方が必ず助けに来てくれると信じていました。副団長様こそ大変な思いをされたと思います。ご自分を責めないで下さいね? 今回のことは外部に漏れることはないと聞きましたから……」


 リュシエンヌよ。辛い思いをしたのは自分なのになぜそんな言葉が出るんだ……そんな言葉をレオンに掛けるんじゃない! 

「リュシエンヌちゃん……君は本当に優しい心の持ち主なんだね。もっと早く君に出会いたかった……今の言葉で本当に好きになりかけたよ。婚約者がいなかったらこの場で求婚していたところ
「オイ!」

 レオンの肩を押した。


「なんだよ!」
「あっ?」

 リュシエンヌは私の婚約者だ。まさかこんなところに命知らずの者がいたとは…… 


「ふふっ。本当にレイ様と副隊長様は仲がよろしいのですね」


「そのようだな。うちの娘は親の私が言うのもなんだが本当に出来た子でね、嫁になんてやりたくないのが本心なんだよ?」

 にこにこと笑う伯爵の顔が恐ろしい。

「喧嘩するほど仲がいいと言うが、それは日を改めてしてくれ。こっちはリュシエンヌの身に何かあったらどうしようかと寿命が縮む思いだったんだよね?」

「えぇ……本当に」

 夫人が相槌を打つ。これは申し訳なかった。レオンの軽口(本気)に乗ってしまった。


「「申し訳ございませんでした」」

 こう言う時レオンと息がピッタリなのも気がしれた仲だからだろうか。謝罪を口にした。


「……グレイソン殿、娘のことをよろしくお願いしますよ」

 そう言って夫人と部屋を出て行った。ハンナと執事にリュシエンヌが泊まる旨を伝えてあるので既に用意されているだろう。

 レオンも渋々? 部屋を出て行った。

「帰るか……?」
「……はい」





 家に帰るだけなのにこんなに緊張するとは。
 
 
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