拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの

文字の大きさ
上 下
83 / 100

お迎え

しおりを挟む

 あれからしばらくレイ様のお屋敷で過ごしていました。学園は行っても行かなくても良い時期です。


 ある日お母様がレイ様のお屋敷に訪問されました。

「リュシー元気にしてた?」

「はい。我儘を言って御心配をおかけしましたがすっかり元気です。お父様はどうされましたの?」

 お母様一人というのが気になって聞いてみましたの。

「……あぁ。何かショックを受けているみたい。気にしなくて良いわよ。元気は元気だから」

 前半の声が小さくて良く聞き取れませんでしてが元気なんですわよね?

「そろそろ私も家に戻らないと行けませんよね? ハリスとパティは元気にしていますか?」

 ハリスとパティから手紙を貰って早く帰ってきてほしい。と書かれていましたわ。

「寂しがっているからそろそろ帰ってきてくれたら嬉しいわね」

 レイ様のお屋敷にお邪魔してからはや一ヶ月以上経っています。卒業式まであと二ヶ月を切りましたし、準備もしなくてはいけませんものね。

「レイ様がお帰りになったら話を進めていきますわね」

「……そうね。リュシー、グレイソン様と結ばれた事は理解しているし、責任も取ってくださるだろうけれど……その身体に付いた跡が消えてから帰ってきて……お父様が更にショックを受けてしまうわ……」

 首を指差すお母様……

「え! 嫌ですわ、レイ様ったら!」

 恥ずかしいですわっ!!

「……ハリスやパティに虫刺されなんて通用しませんよ……」

 あの子達は耳年増ですものね……そう言えば毎晩一緒に眠るのが普通になってしまっていましたわ。レイ様の逞しい腕に抱かれていると安心するんですもの……


 レイ様が帰宅してからお母様が訪問された事を伝える。

「家族と一緒に過ごす時間も大事だな。寂しくなるが式まであと数ヶ月だから我慢するか。いつ頃戻る予定だ?」
 

「……レイ様! 見える所に跡を付けないで下さいと言ったのにお母様に見られてしまいましたのよ?! この跡が消えてから帰ってくるようにとの事です」

 親にレイ様と仲良くしていると思われて恥ずかしくて仕方ありませんでしたわ。婚前交渉をしたと言っているようなものですもの…… 
 

「……夫人は怒っていたか?」

「いいえ。ただお父様がショックを受けるから跡が消えてからと言われただけです。私が生まれたのはお母様の結婚した歳なんですの……だから、」

 お父様とお母様の結婚式の写真を思い出す。お母様のドレスはゆったりとしていて……

「……怒られない訳だな」

「恐らく……?」

 それから一週間後に家に帰る事になりました。新たに跡を付けられる事はありませんでした。

 家に帰っていつもの通り過ごしていると、胸がムカムカしたり眩暈がしたり、食事の量が減ったり。部屋で横になっているとお母様が言いました。


「月のものが最後に来たのはいつ?」

 ……何で? あれ、いつだったかしら?

「先月は来てませんわね……今月もまだです。先々月は……どうだったかしら?」

 
「月のものが来なくて、胸がムカムカして眩暈がして食事が取れないって……赤ちゃんが出来たのではなくて?」

「えっ! 赤ちゃんが……もしかしてレイ様の?」


「グレイソン様以外の子供が出来たのなら大問題でしょうが! ばか! 医師を手配して!」

「ハイ!」

 メイド達が慌ただしく部屋を出て行った。それからすぐに医師が駆けつけて来て、初期の段階でまだ確定ではないけれどその可能性が極めて高い。と診断をして帰って行きました。

 

「披露宴は延期にして貰いましょうか……」

 お母様がぼそっと言いました。

「え? なぜですか」


「……あのね、妊娠は病気ではないのだけど辛いものなのよ。もちろん日々お腹が大きくなっていって赤ちゃんが育っていくという過程を経て幸せを感じるんだけどね……足が浮腫んだり顔が浮腫んだり大変なのよ。気分の波もあるわ。私達はまだ恵まれているからすぐに対処をして貰えるけれど、式の間中浮腫んだ足との戦い。披露宴はアルコールや香水の匂いで吐きそうになるし……お母様もリュシーがお腹にいたから、よ~く分かります」

 手をぎゅっと繋がれまっすぐ私を見て来ました。やっぱりそうだったのですね。子供の頃は何も思わなかったけれど、今改めてお母様の写真を見るとお腹が……

「おめでたい事だから、一緒にお祝いをしてもらったのだけど、良い顔をしない方もいらしたのよ。特にご年配の方ね。今は私達の時代とは違うのだから、先に親族だけで式を挙げられるようにして貰うのも悪くないと思うの。披露宴はこの子を産んでからお披露目も兼ねてやったらどう? その方がリュシーの体への負担も少ないわ。子供が出来た事は喜ばしい事だけどリュシーがまず元気な子を産まないと安心出来ないのよ」

 式が延期というわけではないのなら、その方が良いかもしれませんわね。結婚式のドレスも気に入っていますし着られなくなるのは惜しいですもの。

「レイ様に相談してみますわね。あちらの家の意見も聞かなくてはいけませんし」

 レイ様に、手紙を書くと仕事を終えてすぐに会いに来てくれました。公爵様と夫人も連れて…… 

しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

処理中です...