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グレイソンの怒り3

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「……自分勝手な男だな。私に嫉妬してリュシエンヌを欲しかった? リュシエンヌに心を奪われた。って知らんわ、そんなもん!」

「だよなぁ。騎士団は容姿で選ばれていない! たまたま顔のいいものが何故かうちの隊員に多いだけだ! 他の隊を見てみろ!」

「まぁ、そこはなんとも言えんな」

 私が言うのもおかしな話だが、むさ苦しい隊員も沢山いるからな。

「グレイは強面なだけで容姿が悪いわけではない。今更だけどリュシエンヌちゃんに見せる姿を見てモテ始めているだろ? でもグレイにはリュシエンヌちゃんがいればいいんだから勝ち組だよな」


 私と嫌々見合いをさせられたという令嬢も、嫌々紹介されたという令嬢も私の風貌を見て怖がって終わった。そんな姿を見て優しくなぞ誰がする? そこで終わりだ。

 初めてした見合いで宝石をねだられたことすらあったし、あの令嬢は私の地位と金目当てだった。その場で二度と会うことはない。と言うとケチだと罵られたが、心底どうでもいい令嬢だ。好きに言わせておけばいい。

 レオンの言う通り私にはリュシエンヌがいてくれればそれで幸せだ。だからリュシエンヌを傷つける者は許せない。



 シオンの父親が待っている応接室へ行く。何があったのか理解していない父親に経緯を話した。


「息子が申し訳ありませんでした。騎士として、人としてあり得ない行動をした息子シオンの貴族籍を抜き平民とします。魔獣被害のある土地で人助けができるのなら……騎士ではなくなりますが、あの子に剣を持たせてくださるのであれば……」

 騎士になるのが夢で子供の頃から努力してきたと言う。確かに腕は立つ方だ。


「命の保証は有りませんし、平民登用となると何かあった時の保証も貴族より劣るでしょう。ご理解いただけますか」

 レオンが説明すると頷く父親。


「はい。婚約者のいる令嬢に懸想し、攫うなど許される行為ではありません。親である私の責任でもあります。私は引退し長男に爵位を譲りできる限り相手の方に慰謝料も支払います」

 ……大きな金額が動いたり、急な当主変更は何かあったのだと噂に上がりかねない。

 それを分かっている伯爵家は慰謝料の請求をしないと言った。

 私の婚約者を攫ったとも言わない。足がついては困る。


「相手の家は慰謝料を望んでいません。その代わり今日会ったことは他言無用でお願いします。ここにサインを」

 騎士団の掟を破り平民となり辺境へ遣わす内容。決して今日の事を誰にも言ってはならない。それを破ると一族の連帯責任とする。穏やかに書いてあるが、これは一族皆殺し。と言っているようなものだ。サインに血判もさせた。

 その後、シオンの様子を見に地下牢へ行くとぐったりとしていたが謝罪はなく、リュシエンヌに会わせろと言っていたが会わせるわけないだろうが……
 

「お前の顔を見るのはこれで最後だ。お前が私に勝つ日は一生ない。自分の浅はかさを恨むんだな」

 本当はボコボコにしてやりたいが、隊長として、騎士としてそれは出来なかった。ここでも落ち着いている自分が嫌になる。




 本部へ行き、今回の件について報告をした。本部への移動は無くなるかもしれないが、その件も甘んじて受け止める覚悟だ。

 部下の管理がなっていなかったから降格もあり得る。

「……半年の減俸とする? え? たったそれだけですか?」

 ……本部への移動は変わらないようだ。呆気に取られてしまった。


「優秀な人材確保も大事なんだ。この件については他言無用なんだろ? 誰も知らないから本部への移動はそのままだ。レオンだって隊長にならなきゃその後が続かない。レオンは他の隊長と共にこのような事が二度と起きないようにルールを設けたり、これからの公開練習をどうするかなど忙しくなるぞ。今回レオンは減給無しだが、隊長になるのだからこれからの責任は重いぞ」

 騎士団長はレオンの肩を叩いた。レオンはすごく痛そうにしていた……私の異動は既に告知されているから変更はなしだそうだ。





 その後、あの女の父親が到着。その間に家宅捜査に入る事になった。違法薬物所持の疑いで子爵家は即時取り潰しに決まった。
 もっと早くにあの焼き菓子の解析が出来ていたらこんな事にはならなかったのかもしれない。とレオンが悔やんでいた。


 令嬢が作った菓子を食べていたシオンは思考回路がおかしくなっていたのだろうが、同情に値しない。

 他の隊員も口にしていた可能性が高いので、すぐに調べることになる今後(親族以外)差し入れ禁止令が出るだろう。


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