上 下
47 / 100

可愛いがすぎるではないか

しおりを挟む

 ~グレイソン視点~

『ふふっ。閣下の勇姿を見る日を楽しみにしていますわ』

 負けられない戦いがそこにはある。コテンパンに負かしてやろうか……

『本日の閣下の装いは素敵ですね。いつもは凛々しいお姿ですが正装もお似合いですね』

 挨拶をするように令嬢を褒めるんだったな……しまった! 先に言われてしまうとは!

『……モルヴァン嬢の装いも、その、華やかでグリーンが良く似合う……とても可愛い』


(グリーンのドレスが涼やかで軽やかでまるで森の妖精のようだ)言えなかったけど。



『か、可愛いですか?』

 

『すまない。失言だったか? 悪気はないんだ……素直に言い過ぎてしまったか。レディに可愛いは禁句なのか?』


 可愛いと言ってはいけないのか? こんなに可愛いではないか! 褒め方のハウトゥー本ってあるのか? あるならそれを勧めろよ司書!


『……ふふっ。久しぶりに可愛いだなんて言われて、嬉しいですわ。可愛いという褒め言葉は妹に取られてしまっていましたし、私も妹に可愛いとよく褒めますの』


 モルヴァン嬢は長女だから、可愛いことを諦めているのだろうか? 私には存在自体が可愛いとしか思えない。

 
『良かった。可愛いという褒め言葉はダメなのかと思った……モルヴァン嬢はいつも可愛いが今日は可愛いに磨きがかかっているな……』

 私は何を言っているんだろうか? 自分の口からこんな言葉が出るとは思わなかった!


『なっ、』


『どうした? 体調でも悪いのかい』

 顔が赤い……こんな無粋な褒め言葉で赤くなるとは到底思えない。褒められる事には慣れているだろうし。


『……いいえ。少し暑くなって、』

『夜風に当たるか?』

 会場の熱気は凄まじい。嫡男に令嬢が詰め寄っている。後継は大変だな。


『その方がいいようですわ』

 迷ったが手を差し出してみた……これくらいは普通のことだよな? 知らんけど。


 オープンテラスで良かった! 二人きりだけどそうではない。すぐに会場が見える。それより……




『その、君は私が怖くないのか? 普通は怖がって近寄らないものなんだが……』

『閣下は、犯罪者とか詐欺師かそれとももっと悪い方なのですか?』

『は?』

 犯罪者? 詐欺師? どういう事だ? 


『え? 違いますの……? それでは怖いというのはどういった意味なのでしょうか?』

 本当に言っているのか? 

『……はははっ。やはりモルヴァン嬢は変わった令嬢だ。そのままの意味だ、私は自分でいうのもなんだが威圧感もあり強面で図体もデカい。だから令嬢からは恐れられているんだが、君は違うのか?』

 こんな図体の男怖いだろう? それともこの子は感覚がズレているのか? 


『見る目がない令嬢達ですわね! 閣下は優しい方ですわ。見知らぬわたくしに傘を貸してくださって、無視しても良いのにお話をしてくださったり、何よりも閣下の瞳はとても綺麗で恐ろしいなんて事はありませんもの』

 
 ……なんだこの子。人たらしなのか、天然なのか。胸が苦しくなって来た。


『やはり君は変わっているね』

『ふふっ。変わってるから婚約破棄されたのかもしれませんね』

『……見る目のない男だったんだ、君はとても可愛い』


 婚約破棄の話は耳に入っていたが、本人から聞くまで私は“知らない”つもりだった。だが本人が言ってきたから驚くことはしなかった。

 見る目がないな。こんな可愛い子が婚約者なら絶対に離さない……って何を考えているのか。突発的だったのか? 阿呆だろその男。

 
『……あ、ありがとうございます』

『礼を言うのは私の方だよ』

 こんな令嬢に未だかつて会ったことがない……


 ******

 夜会でのことを回想していた。弱った……モルヴァン嬢が可愛すぎて集中できない。

「おーいグレイ、まだ終わらないのか?」

 ヤバい! 至急の書類がまだあった。これを終わらせないとレオンも帰れないんだったな……

「すまん。すぐに終わらせるから少し時間をくれ」

 集中して書類に目を通す。


「珍しいな。私は急いでないから慌てなくて良いぞ。それより昨晩のパーティーはどうだった? 盛大だったらしいな」

「あ、あぁ、嫡男のブリュノ殿の婚約者選びも兼ねていて若い子息や令嬢達が多い印象だったな」

「えー。それは行きたかったぜ。うちも母がパーティーをすると言ってたな。令嬢をたくさん呼ぶと言っていたからグレイも来いよー婚活しなきゃ流石にマズイよな……」

「お前は本気を出せばすぐに決まるだろ、一緒にするなよ」

 コイツはモテる! 応援隊もいるくらいだからな。

「一緒だろ。お互い相手がいないんだ」

 はぁっとため息を吐くレオン。選り好みしてるからだろ。

「待たせたな、この書類を届け終わったら帰っても良いぞ」

「グレイ何かあったんだろ? 話なら聞くぞお前の奢りで」

 鋭いヤツだな。


「この前奢っただろう? ここぞとばかりに高い酒ばかり飲みやがって」


 例の本の口止め料として、奢ったのだが遠慮をするということを知らない奴だから高い酒ばかり頼んでいた。


「グレイの奢りだと思ったら余計に美味く感じた。恋の悩みなら私の方が先輩だそ?」

「あぁ、その時は頼むな」


 軽くあしらいレオンと別れた。相談をしたいが、この気持ちは何かと聞かれても答えられん。







 恋の悩み……か。



 
しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は冤罪を嗜む

mios
恋愛
公爵令嬢のクラリスは、婚約者と男爵令嬢の噂を耳にする。彼らは不貞したばかりか、こちらを悪役に仕立て上げ、罪をでっち上げ、断罪しようとしていた。 そちらがその気なら、私だって冤罪をかけてあげるわ。

心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。 急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。 間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。 元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。 愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。 また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

処理中です...