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司書に勧められた本

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 閣下から逃げるようにお別れして二階のソファへと腰掛ける。

「……余計なことを言ってしまったのかしら。きっと気を悪くされているわね。顔を合わせてくださらなかったもの」

 はぁっと肩を落とす。閣下は本がお好きなのね。騎士様で古代語にも興味があるだなんて素晴らしい方だわ……

 ******

 ~グレイソン視点~

「閣下、この本はどうされますか? 貴重な本なので出来れば図書館の奥にある関係者以外立ち入り禁止エリアに置くという事で宜しいですよね?」

 貴重な本だからな……そうした方が良いだろう。奥にある立ち入り禁止エリアにある古書は貴重な物や価値ある本が並んでいる。王族はフリーパスだし、私は親戚だから難なく入ることができるが、モルヴァン嬢が出入りを許されるとは思えないな。興味がありそうだった……

「そうだな。そうしてくれ」

 ここでNOなどと言えば不審がられるだろう。

「閣下はモルヴァン嬢とお知り合いだったんですね? 楽しそうにお話しされていたものですから、つい」

「いや、構わない」



 楽しそうに……か。側から見たらそう見えたのだろうか。彼女の良さを知ることが出来た。その後は逃げるように図書館に入ってしまった。私の態度でも悪かったらのだろうか……


「椅子と机も閣下のご指導の上設置しましたが気に入ってもらえましたか?」

「あ、あぁ。いい場所だった」

 なぜニヤついている、司書よ!


「前々から気になってはいたのですが、予算等ありますし来年度まで持ち越しという話だったんですが鶴の一声ですね、早かったですね~」

 来年度? 使っていない家具を使わせてもらったのなら問題ないだろう。どうせ余っていたのだからどんどん使わせれば良い。古いものだがとても良い家具だったし図書館の雰囲気にも合っていた。


「あぁ、まさか陛下に相談するとは思っていなかったが、早くて何よりだ」

「陛下が気に入っている場所ですから勝手に置くよりも相談した方がいいという上の判断です」

「モルヴァン嬢はあの辺りの古書を借りるのか? 今日は本を返しにきたと聞いたのだが」

「古い本なので読むだけにしているそうですよ。何かあっては責任が取れないと言っていましたね。彼女は真面目なんですよね~最近借りた本は小説でしたよ。確か騎士系の人気のロマンス小説です」


 ……ロマンス小説か。手に取った事はないがなぜ司書はニヤついているのか!


「女性に人気なんですよ! 閣下も令嬢憧れの職業騎士なんですから是非お読みください。参考になりますよ!」



 司書は思った。本が好きな人に悪い人はいない! 閣下が令嬢と一緒にいるところを初めて見たが、優しい顔をしていたしこれは何か……良い予感がする! 
 しかしこの閣下、無骨というか令嬢が喜ぶような言葉を発するような人間には思えない……モルヴァン嬢は婚約を破棄されたといえ綺麗な令嬢だし性格もよろしいし、閣下と話が合いそうだ! 
 教科書だと思って騎士系ロマンス小説を数冊選び渡した!


「三冊も……」

 いつの間にか司書に図書館に入れられ、貸し出しの準備に入っていた。そして選りすぐりだという三冊を渡された。


「はい。私も読んだことがありますが、これは人気が出る職業だと改めて思いましたよ。たまにはこういうものを読んで乙女心を勉強してください」

 そういい司書は笑っていた。なんだか恥ずかしくなり図書館を去った。

 すぐに執務室へ戻り本をパラパラと捲ってみる。騎士が連れ去られた姫を助けに行き結ばれるという内容だった。
 ストーリーはまだいいのだが、読んでいて砂糖を吐きそうなセリフが多い……


「成程……しかし騎士なんて鍛錬ばかりでこんな甘い言葉をどこで覚えて来るんだ? どこかで使える場面があるか? それに姫様だと? 我が国に姫などいないからなぁ……」

 ボヤいているとガチャリと扉が開いた。


「レオン! ノックくらいしろ!」


 読んでいた本を慌てて隠し落としてしまった。

「したよ! いないのかと思いドアノブに手をかけたら開いたんだ! そんなに夢中になって仕事をしていたのか?」

 机の上に置いてある本を見るレオン。しまった! あと二冊あるではないか……


「……なんだ、珍しい本を読んでいるな。その本は私達のバイブルじゃないか!」


「……これがか? どの場面で?」

「読んでいて思わなかったのか?」

「この国に姫はいないだろう?」

「……それは例えだろ? 護衛する相手をお姫様とか言うじゃないか。我が家の姫とも例えられるだろう? お前の姉上も姫様と呼ばれていた」

 ……確かに。

「それならこの甘ったるい言葉はどこで使う? 闇世に咲く花のように美しい~だなんて」

 闇世に咲く花は暗くて見えない。月明かりに照らされて薄らぼんやりだよな。目を凝らすのか? よく見ないと分からない美しさ……そんなわけないよな?


「例えは必要だぞ。月の女神のように美しい。なんて普段は言わないが、ドレスアップしたレディを見るとつい口から出てしまうんだよ。息を吐くように褒めろ! 挨拶と共に褒めろ! ただ美しいだけより喜ばれるぞ」

 ……そうなのか。

「スマートに相手に伝えるのが一番だが、レディはそういった言葉を待っている。老いも若きも女性というのはそういうものだ」

 ……成程、勉強になった。


「なんだ? 騎士と令嬢の危ない関係って……」

「な、なんだそれ!」

 慌てて机の上の本を見る! マジか……と肩を落とした。


 はっはっは……とレオンの笑い声が部屋中に響き渡る。


「……なんだよ、笑わすなよ」

 腹を抱えて笑うレオン、あの司書は私に恥をかかせたかったのか!

「この事は絶対に言うなよ! 言いふらしたら左遷するぞ」

「職権乱用か? 言いふらしたいがやめておこう。今度奢ってくれ」

「分かった」

 ……こいつは約束は守る男だ。早々に奢ってしまおうと心に決めた。




 
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