44 / 100
司書に勧められた本
しおりを挟む閣下から逃げるようにお別れして二階のソファへと腰掛ける。
「……余計なことを言ってしまったのかしら。きっと気を悪くされているわね。顔を合わせてくださらなかったもの」
はぁっと肩を落とす。閣下は本がお好きなのね。騎士様で古代語にも興味があるだなんて素晴らしい方だわ……
******
~グレイソン視点~
「閣下、この本はどうされますか? 貴重な本なので出来れば図書館の奥にある関係者以外立ち入り禁止エリアに置くという事で宜しいですよね?」
貴重な本だからな……そうした方が良いだろう。奥にある立ち入り禁止エリアにある古書は貴重な物や価値ある本が並んでいる。王族はフリーパスだし、私は親戚だから難なく入ることができるが、モルヴァン嬢が出入りを許されるとは思えないな。興味がありそうだった……
「そうだな。そうしてくれ」
ここでNOなどと言えば不審がられるだろう。
「閣下はモルヴァン嬢とお知り合いだったんですね? 楽しそうにお話しされていたものですから、つい」
「いや、構わない」
楽しそうに……か。側から見たらそう見えたのだろうか。彼女の良さを知ることが出来た。その後は逃げるように図書館に入ってしまった。私の態度でも悪かったらのだろうか……
「椅子と机も閣下のご指導の上設置しましたが気に入ってもらえましたか?」
「あ、あぁ。いい場所だった」
なぜニヤついている、司書よ!
「前々から気になってはいたのですが、予算等ありますし来年度まで持ち越しという話だったんですが鶴の一声ですね、早かったですね~」
来年度? 使っていない家具を使わせてもらったのなら問題ないだろう。どうせ余っていたのだからどんどん使わせれば良い。古いものだがとても良い家具だったし図書館の雰囲気にも合っていた。
「あぁ、まさか陛下に相談するとは思っていなかったが、早くて何よりだ」
「陛下が気に入っている場所ですから勝手に置くよりも相談した方がいいという上の判断です」
「モルヴァン嬢はあの辺りの古書を借りるのか? 今日は本を返しにきたと聞いたのだが」
「古い本なので読むだけにしているそうですよ。何かあっては責任が取れないと言っていましたね。彼女は真面目なんですよね~最近借りた本は小説でしたよ。確か騎士系の人気のロマンス小説です」
……ロマンス小説か。手に取った事はないがなぜ司書はニヤついているのか!
「女性に人気なんですよ! 閣下も令嬢憧れの職業なんですから是非お読みください。参考になりますよ!」
司書は思った。本が好きな人に悪い人はいない! 閣下が令嬢と一緒にいるところを初めて見たが、優しい顔をしていたしこれは何か……良い予感がする!
しかしこの閣下、無骨というか令嬢が喜ぶような言葉を発するような人間には思えない……モルヴァン嬢は婚約を破棄されたといえ綺麗な令嬢だし性格もよろしいし、閣下と話が合いそうだ!
教科書だと思って騎士系ロマンス小説を数冊選び渡した!
「三冊も……」
いつの間にか司書に図書館に入れられ、貸し出しの準備に入っていた。そして選りすぐりだという三冊を渡された。
「はい。私も読んだことがありますが、これは人気が出る職業だと改めて思いましたよ。たまにはこういうものを読んで乙女心を勉強してください」
そういい司書は笑っていた。なんだか恥ずかしくなり図書館を去った。
すぐに執務室へ戻り本をパラパラと捲ってみる。騎士が連れ去られた姫を助けに行き結ばれるという内容だった。
ストーリーはまだいいのだが、読んでいて砂糖を吐きそうなセリフが多い……
「成程……しかし騎士なんて鍛錬ばかりでこんな甘い言葉をどこで覚えて来るんだ? どこかで使える場面があるか? それに姫様だと? 我が国に姫などいないからなぁ……」
ボヤいているとガチャリと扉が開いた。
「レオン! ノックくらいしろ!」
読んでいた本を慌てて隠し落としてしまった。
「したよ! いないのかと思いドアノブに手をかけたら開いたんだ! そんなに夢中になって仕事をしていたのか?」
机の上に置いてある本を見るレオン。しまった! あと二冊あるではないか……
「……なんだ、珍しい本を読んでいるな。その本は私達のバイブルじゃないか!」
「……これがか? どの場面で?」
「読んでいて思わなかったのか?」
「この国に姫はいないだろう?」
「……それは例えだろ? 護衛する相手をお姫様とか言うじゃないか。我が家の姫とも例えられるだろう? お前の姉上も姫様と呼ばれていた」
……確かに。
「それならこの甘ったるい言葉はどこで使う? 闇世に咲く花のように美しい~だなんて」
闇世に咲く花は暗くて見えない。月明かりに照らされて薄らぼんやりだよな。目を凝らすのか? よく見ないと分からない美しさ……そんなわけないよな?
「例えは必要だぞ。月の女神のように美しい。なんて普段は言わないが、ドレスアップしたレディを見るとつい口から出てしまうんだよ。息を吐くように褒めろ! 挨拶と共に褒めろ! ただ美しいだけより喜ばれるぞ」
……そうなのか。
「スマートに相手に伝えるのが一番だが、レディはそういった言葉を待っている。老いも若きも女性というのはそういうものだ」
……成程、勉強になった。
「なんだ? 騎士と令嬢の危ない関係って……」
「な、なんだそれ!」
慌てて机の上の本を見る! マジか……と肩を落とした。
はっはっは……とレオンの笑い声が部屋中に響き渡る。
「……なんだよ、笑わすなよ」
腹を抱えて笑うレオン、あの司書は私に恥をかかせたかったのか!
「この事は絶対に言うなよ! 言いふらしたら左遷するぞ」
「職権乱用か? 言いふらしたいがやめておこう。今度奢ってくれ」
「分かった」
……こいつは約束は守る男だ。早々に奢ってしまおうと心に決めた。
6
お気に入りに追加
3,731
あなたにおすすめの小説
心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~
待鳥園子
恋愛
若き侯爵ジョサイアは結婚式直前、愛し合っていたはずの婚約者に駆け落ちされてしまった。
急遽の結婚相手にと縁談がきた伯爵令嬢レニエラは、以前夜会中に婚約破棄されてしまった曰く付きの令嬢として知られていた。
間に合わせで自分と結婚することになった彼に同情したレニエラは「私を愛して欲しいなどと、大それたことは望んでおりません」とキッパリと宣言。
元々結婚せずに一人生きていくため実業家になろうとしていたので、これは一年間だけの契約結婚にしようとジョサイアに持ち掛ける。
愛していないはずの契約妻なのに、異様な熱量でレニエラを大事にしてくれる夫ジョサイア。それは、彼の元婚約者が何かおかしかったのではないかと、次第にレニエラは疑い出すのだが……。
また傷付くのが怖くて先回りして強がりを言ってしまう意地っ張り妻が、元婚約者に妙な常識を植え付けられ愛し方が完全におかしい夫に溺愛される物語。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します
ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる