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グレイソン

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 ……困った。勢いでハンカチを洗って返すと言ったが、どうやって返そうか。こういう場面に慣れていないのに何故あんな行動を取ってしまったのだろうか。と自問するも答えは決まっていた。また会いたいと思ったから。こんなむさ苦しい男に好き好んで会いたくないよな……



「おい、グレイ、おーい!」

 はぁっ。とため息を吐き顔を上げる。

「なんだレオンか。どうした?」

 書類を渡される。王都の警備の見直し案だった。散策がてら行ったのだが気になるところを纏めて提出したら、意見が通り詳しく聞きたいと言われていた。

「王太子殿下が確認に行くらしいから、護衛を頼むと伝言だ」

「了解」

「どうしたんだ? 悩みなら聞いてやるぞ。飲みに行くか? お前の奢りで」

「……なんで奢らなきゃいけないんだよ」

「女の子たちには格好つけたいから喜んで出すけど、グレイと飲みに行くのに金を出したくない」

 ……こんなやつがほんとうにモテるのか? それなら私はモテなくても良い。友人としてどうかと思う発言だ。

「分かった、誘わない」

「冗談も通じないんだな……残念な男だ」

「そろそろ休憩に行くから出て行け」


 レオンを追い出してから鍵をかけた。今日は青空が眩しいほどのいい天気だ。こんな日は外で食事をしたいと思い、食堂でテイクアウトすると告げるとすぐに用意された。サラダとサンドイッチと果実水。すぐに食べられるようにと準備される。

「事前に言っていただければもっと豪華に出来るんですよ!」

 シェフに言われる。突然でも対処してくれるシェフは本当に手際がいい。礼を言って外へと出た。

 読みかけの本を読みたいから、騎士団からは離れて静かな所へ移動する。王立図書館の裏手にある静かな庭だ。華やかな庭ではなく落ち着いた小さな庭。ベンチは用意されているがあまり人が来ない為、気に入っている場所だった。

 行儀は悪いが誰も見ていないから本を読みながら、サンドイッチ片手に読む。早々に食べ終わり果実水を飲んでいたら、散策に来たであろう令嬢の姿が見えた。

 ……見ないフリをしよう。私みたいな圧が強い男がいたら散策の邪魔になるだろう。若しくはくるりと振り返り戻っていくだろう……と思っていた。

 さくさくさく……と歩調はこちらに向いて、やがて近寄ってくる。そして間を開け立ち止まる。

「……閣下ではありませんか?」

 ……え? 頭を上げるとそこには日傘を差したリュシエンヌ・モルヴァン嬢がいた!
 
「君は……どうしてここに?」


「ご機嫌よう。本日は図書館に本を返しに参りましたの。天気が良かったので散策をしておりましたら閣下の姿を拝見致しましたので、ご挨拶をと思い声をかけさせていただきました」

 にこっと笑いお辞儀をするモルヴァン嬢。青空と相まって爽やかな笑顔だ。

「丁寧な挨拶痛み入ります。まさかこんなところで会うとは思わず借りたハンカチが手元にない……」

 令嬢が立っているのに自分だけ座っているわけにはいかず立ち上がった。

「ハンカチは結構ですのに……」

 汗で汚れたハンカチは返却不要と言うことか……それなら新しいものを買って渡そう。


「閣下はとても背が高いのですね。見上げないとお顔がよく見えませんわ」

 確かに私は人より大きい。見上げる形になるので首が痛くなるだろう。離れた方が良いのか? そうすればそこまで見上げることもあるまい。少し離れるとモルヴァン嬢が言った。

「わたくしお邪魔でしたわね……お食事中でしたのにご迷惑を考えずに声をかけてしまい申し訳ありませんでした」

 食べ終わったはずだがサラダが残っていた。私は生の野菜があまり好きではない……

「いや、食べ終えて読書をしていたところだから気にしないで欲しい」

「お野菜も食べないといけませんよ? 大きくなら……なりましたわねぇ」

 野菜もしっかり食べて健康的に成長してもらわなくては困る。と小さい頃に言われていたけれど、全く問題はなかった。

「ははっ。十分に成長してしまったよ」

 しまった。という感じで眉を顰める顔もまた可愛らしい。

「そのようですわねぇ。うちの弟もあまり野菜を食べないものですから言って聞かせているんですのよ。でも閣下を見ていますと、好きなものを食べさせてもいいのかも……などと思ってしまいました」

 面倒見の良いお姉さんなんだな。頬に手を当てふぅ。と息を吐いた。

「弟がいるんだね、他にも?」

「弟の他に妹がいます。双子でとても可愛らしいのですのよ」

 モルヴァン嬢はそのままで十分可愛いぞ! なんだ、その笑みは! 双子が羨ましいくらいだ。

「あ。わたくしったら……閣下は休憩中でしたのに申し訳ございませんでした。またお時間をとらせてしまいました……ご挨拶だけ。と思っていましたのに」

 ……もっと話を、いや、ダメだ。

「いや、迷惑などではない。今から図書館へ行くのか?」

「はい」

「それでは図書館まで送ろう」

「え、いえ、それは」

「そろそろ戻らないと煩いやつが探しにくるかもしれないんだ」

 モルヴァン嬢に控えているメイドと護衛は以前と同じだ。一歩引いてこちらを伺っていた。

「宜しいのですか? ご迷惑でなければ……閣下のお声はとても聞き心地が良いのでお話をしていて楽しいです」




 ……令嬢にそんなことを言われたのは初めてだった! 動悸が止まらない。





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