39 / 100
図書館で見た令嬢?
しおりを挟む王立図書館の二階、古書が置いてあるスペースにはあまり人が寄り付かない。古代文字なんて好き好んで勉強するもの好きは学者くらいだろう。と言いつつもたまに来ては古書を読んでいる自分も物好きなんだろうな。ここは変わらない、時間がゆっくりと流れ心が落ち着く。
ある日、珍しく若くて可愛い令嬢が嬉しそうに古書を眺めて鼻歌を歌っていた。そして楽しそうに古書のコーナーに居る。変わった子だな……若い子に偏見を持つつもりはないけれど古代文字なんて興味だけでは学ばないだろう。
彼女の鼻歌はとても心地が良く、気分を良くさせるのだが、ここは図書館だし咳払いをして、私が居るという事を知らせておこう。
すると小さな声で謝る声が聞こえた。私がいることに気がついてなかったのだろう。邪魔しては悪いと思いそっと立ち去った。こんな図体の男が本を読んでいる姿を見て怖がらせてはいけない。それに強面だという自覚もある。
時間があると本を読むために王宮の図書館に立ち寄る。本は好きだしこれだけの本に囲まれている時間は癒される。
国境警備の責任者として数ヶ月前に王都に戻ってきたばかりだ。しばらく王都を離れていたからたまに街の巡回も兼ねて散策したりする。新しい店がたくさん出来ていて自分の知っている街とは違って見えた。
新しく出来たカフェとやらには令嬢二人が楽しそうにおしゃべりをしながら入って行った。ここは平和だな。良かった、と安堵する。
国境付近は危険物の密輸、奴隷売買、窃盗など後が絶たない。近隣諸国との戦争は数十年起きてきないが、夜はまだ危険。王都は警備もしっかりしているから日中、女性が一人で出かける時は人が多いところなら安心だろう。油断は出来ないが……
王宮騎士団第二隊長。それが今の私のポストだ。もうじき騎士団を統括する副団長補佐となる。忙しくなる前に心を落ち着かせたくて図書館へと向かう。
すると先客がいるではないか! もしかしてあの鼻歌の?
そっと本棚に隠れてみる。(本棚が大きくて助かった……)楽しそうに古書に触れる彼女の手を見ると白い手袋が……彼女は古書を分かっている! そう思うだけで胸が熱くなった。するとあることに気がつく。
このスペースは広いくせに椅子もないのか! 令嬢が立って本を読んでいるんだぞっ! 椅子くらい用意出来んのか!(椅子はあることにはあるのだが壁際だとか離れたところに設置されている)これは責任者に言っておかなくては! 椅子を置けないのかと責任者に問う。
“貴重なご意見です。検討してみます”と前向きな返事が返ってきた。それからすぐに陛下に話をしたようで、王宮の倉庫にあって現在使われていないソファを譲ってくれることになったらしい。陛下もあのコーナーは気に入っているから自分の好みの物を置きたかったのかもしれない。
彼女はソファが置いてあることをとても喜んでいたようだ。ある日彼女がソファに座っている場面を見たのだが……膝にノートを置いている! 責任者に机を置くようにと言ってみた。すると“貴重なご意見です。検討してみます”と返答された。
王宮の倉庫にあった現在使われていない机が用意されていた。良かった。これで彼女もより寛ぐことが出来るな。離れたところで私も本を読む。そしてたまに彼女を見ると難しそうに眉に皺を寄せたり、何か閃いた顔をしてみたりと可愛らしく表情をコロコロと変える。可愛い子だ。そう思うようになった。
「ほぅ、グレイが令嬢をみつめておるのぅ」
背後から声が聞こえてビクッとする。
「なっ、へ、陛下!」
「これ、静かにせんかい! 出入り禁止にするぞ」
しまった。と思い口を閉じ頭を下げる。
「彼女はモルヴァン伯爵の令嬢でリュシエンヌ嬢じゃ。古代文字を趣味にしておる。伯爵家は鉱山を所持しておって、国内の地盤について調べていたら昔の事も知りたくなったんじゃ。それで古代語に興味を持ってだなぁ、」
「陛下はなぜ彼女、モルヴァン嬢に詳しいのですか? もしかしてストーカ、」
「お前と一緒にするな! でかい男がコソコソと若い令嬢を見つめて気持ちの悪いやつじゃ!」
側から見たらそう見えるのか!
「なっ、」
「間違ってはおらんじゃろう? ソファや、机を用意してやったのはわしじゃぞ! モルヴァン嬢のような令嬢が来るのなら確かに落ち着く場所は必要じゃな。その優しさを本人に見せないと意味ないぞ?」
「……あの年頃の令嬢なら婚約者がいてもおかしくないでしょうし、図書館で声をかけられませんよ。それにこんな図体の恐ろしい顔をした、」
「面倒臭いやつだなお前は。彼女に婚約者はおらん! それに彼女は容姿を気にするような子ではない。以前お前に教えた本を彼女にも渡したらそれはそれは喜んでいた。きっかけは自分で作れよ。ウジウジするくらいなら彼女に近寄るな。それだけは忠告するぞ」
ポンと肩を叩いて戻っていった。神出鬼没な方だ。最後の方は完全にプライベートの口調になっていたな……
それにしてもなんであんなに彼女の事に詳しいのだろうか? モルヴァン伯爵家のリュシエンヌ嬢か……
******
ご覧いただきありがとうございます! 長編という事で、ちょうど折り返し地点です。
18
お気に入りに追加
3,731
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します
ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる