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父動く
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これだけはしてはいけないと思っていた。しかし離縁まで妻に考えさせたのなら早々に動くしかないのだ。
私は王宮図書館に来ていた。居られるかは分からない博打のような行動だ。平日の夕方前。朝から働き夕方になると息抜きをしたくなる時間帯。再来週他国から大事な客人が二週間滞在する。というので明日から警備が強化される、その前を狙って……
私は昼過ぎに来て王宮図書館の二階で久しぶりに本に囲まれて過ごす、あっという間に時間は経過するものだ。やはり面白いな……
と呟く。
「……これはこれは。モルヴァン伯爵じゃないか! 珍しい事もあるもんじゃ!」
……本当にお忍びで図書館に来るんだな、陛下は。
「お久しぶりです。相変わらずですね」
「ん? どういう意味じゃ?」
「相変わらず本が好きで、息抜きにいらしたのでしょう? ここに来れば陛下に会えるのでは? と思いました」
……ここで陛下に会っていたのは学生時代の頃の話。あれから忙しくなりのんびり図書館に来る事は無くなった。
「ここはあまり人が近寄らんからのぅ。リラックス出来て良い。そう言えば伯爵の娘もよく来ているぞ、親に似て古代語に興味があるようだ。話をしたがとても楽しい時間を過ごせた」
「娘を褒められて悪い気はしませんね」
懐かしいな。と言っても話題は子供達の話になるのだけれど……歳を重ねたもんだ。
「こういう会話も楽しいのが、わざわざプライベートで私に会いに来たのだから本題があるのだろう? エリックと伯爵の娘の婚約の話か?」
プライベートと言い、話し方を変える陛下。若くして国王になったものだから威厳のある話し方に変えた。というのは陛下の側近から聞いた。形から入るお方だから。と言い笑っていた。因みにその側近は私の同級生で友人だ。陛下を支える側近はみな陛下のことが好きなんだそうだ。公で笑おうものなら罰せられるが、陛下も知っていてバレたか? とお茶目な様子で返してきたとか。そういうお人なのだ。
「はい」
「反対か?」
「はい」
「婚約破棄をされたといっても向こうの有責による婚約破棄だろ?」
「はい。しかし娘が傷ついていないとは言いませんよ。今は元気ですが当初は色々と私たちに気を遣い家を出ようとまで考えていましたから」
「優しい子に育っているな」
「妻に似ました」
「君にそっくりだと私は思っているぞ。エリックの件だがエリックは君の娘を好いているそうだ。私も彼女を気に入っている。何か問題があるか?」
「……問題があると言えば、私たちの方です」
周りに人が居ないか確認する陛下。二階フロアの端にあるベンチに横並びで座る。そして声を顰めて話をすることになった。
「殿下が何を考えているか分かりません。娘を好いているという事でしたが、信じられません」
「君の娘を紹介してきたり、私に話を持ち上げてくる時点で本気だとは思わないのか?」
わざわざ親に会わせるほどだからある意味本気なのかもしれない。
「婚約破棄をされた時に殿下が立会いをしていました。王宮に呼び出され娘は不安だったでしょう。娘を庇うわけでもなく相手が一方的に話をして、分かりました。というのが精一杯だったのです」
「エリックが立会いをしたのか。一貴族の婚約破棄に首を突っ込んだと」
「えぇ、そのことに関しては謝罪を受けいれましたが、その件の責任を取るから娘と婚約するなんて馬鹿げています。殿下には婚約を申し込んでいる事を公にしないでほしいとお願いしましたが、いずれどこからか噂になります。すると我が家では断れません。また娘があらぬ事を言われるのを見たくない。妻も同じ気持ちです」
「……そうか、エリックは私にその事を隠しているな。詳しく調べることにしよう。エリックの意見だけ真に受けることは出来んな。もしそれが間違いなら王子としての在り方を今一度分からせることになりそうだ」
一いえば十を理解してくれる陛下だ。恐らく今の説明だけで国を捨てる覚悟で話をしにきたという事も理解されたのだろう。重く受け止めている。
「ありがとう存じます。私は私ができる範囲で抗ってみます。娘が幸せな人生を歩む事が私と妻の幸せです」
「君も親になったもんだな……立派だ。私は甘すぎたようだ。すぐに調べはつく」
「え?」
「全てが終わった暁には酒でも呑もうじゃないか。君とはお茶しか飲んだ事がないだろう?」
……そりゃ学生時代だから酒は呑まないだろう。いや、陛下以外とは呑んだことはある。
「それは楽しみです」
「君は娘を信用しているんだな」
「はい。初めの婚約を決めたのは私でしたが娘の相手にはなりませんでした。次は失敗したくありません」
「同感だ。相談は受け付けた。嘆願書とされると数ヶ月かかるが面と向かって言われ、エリックも関わっているとなるとすぐに行動に移さねばならんな。客人も来るから……忙しいな」
……余計な仕事を増やしてしまったが、頭を下げた。
「陛下にしか相談が出来きませんでした、申し訳ありません」
「今はプライベートで話をしているから頭など下げるな。私が介入してまで婚約をさせたくないのだろう。エリックのせいではないか! ここは親としてしっかり調べておくから安心しろ」
家族の事……と言いつつ私は自分の事しか考えていないのかもしれない。相手の親、陛下に頼んだのだから。
私は離婚なんて絶対にしない! 伝手を使ってでも!
私は王宮図書館に来ていた。居られるかは分からない博打のような行動だ。平日の夕方前。朝から働き夕方になると息抜きをしたくなる時間帯。再来週他国から大事な客人が二週間滞在する。というので明日から警備が強化される、その前を狙って……
私は昼過ぎに来て王宮図書館の二階で久しぶりに本に囲まれて過ごす、あっという間に時間は経過するものだ。やはり面白いな……
と呟く。
「……これはこれは。モルヴァン伯爵じゃないか! 珍しい事もあるもんじゃ!」
……本当にお忍びで図書館に来るんだな、陛下は。
「お久しぶりです。相変わらずですね」
「ん? どういう意味じゃ?」
「相変わらず本が好きで、息抜きにいらしたのでしょう? ここに来れば陛下に会えるのでは? と思いました」
……ここで陛下に会っていたのは学生時代の頃の話。あれから忙しくなりのんびり図書館に来る事は無くなった。
「ここはあまり人が近寄らんからのぅ。リラックス出来て良い。そう言えば伯爵の娘もよく来ているぞ、親に似て古代語に興味があるようだ。話をしたがとても楽しい時間を過ごせた」
「娘を褒められて悪い気はしませんね」
懐かしいな。と言っても話題は子供達の話になるのだけれど……歳を重ねたもんだ。
「こういう会話も楽しいのが、わざわざプライベートで私に会いに来たのだから本題があるのだろう? エリックと伯爵の娘の婚約の話か?」
プライベートと言い、話し方を変える陛下。若くして国王になったものだから威厳のある話し方に変えた。というのは陛下の側近から聞いた。形から入るお方だから。と言い笑っていた。因みにその側近は私の同級生で友人だ。陛下を支える側近はみな陛下のことが好きなんだそうだ。公で笑おうものなら罰せられるが、陛下も知っていてバレたか? とお茶目な様子で返してきたとか。そういうお人なのだ。
「はい」
「反対か?」
「はい」
「婚約破棄をされたといっても向こうの有責による婚約破棄だろ?」
「はい。しかし娘が傷ついていないとは言いませんよ。今は元気ですが当初は色々と私たちに気を遣い家を出ようとまで考えていましたから」
「優しい子に育っているな」
「妻に似ました」
「君にそっくりだと私は思っているぞ。エリックの件だがエリックは君の娘を好いているそうだ。私も彼女を気に入っている。何か問題があるか?」
「……問題があると言えば、私たちの方です」
周りに人が居ないか確認する陛下。二階フロアの端にあるベンチに横並びで座る。そして声を顰めて話をすることになった。
「殿下が何を考えているか分かりません。娘を好いているという事でしたが、信じられません」
「君の娘を紹介してきたり、私に話を持ち上げてくる時点で本気だとは思わないのか?」
わざわざ親に会わせるほどだからある意味本気なのかもしれない。
「婚約破棄をされた時に殿下が立会いをしていました。王宮に呼び出され娘は不安だったでしょう。娘を庇うわけでもなく相手が一方的に話をして、分かりました。というのが精一杯だったのです」
「エリックが立会いをしたのか。一貴族の婚約破棄に首を突っ込んだと」
「えぇ、そのことに関しては謝罪を受けいれましたが、その件の責任を取るから娘と婚約するなんて馬鹿げています。殿下には婚約を申し込んでいる事を公にしないでほしいとお願いしましたが、いずれどこからか噂になります。すると我が家では断れません。また娘があらぬ事を言われるのを見たくない。妻も同じ気持ちです」
「……そうか、エリックは私にその事を隠しているな。詳しく調べることにしよう。エリックの意見だけ真に受けることは出来んな。もしそれが間違いなら王子としての在り方を今一度分からせることになりそうだ」
一いえば十を理解してくれる陛下だ。恐らく今の説明だけで国を捨てる覚悟で話をしにきたという事も理解されたのだろう。重く受け止めている。
「ありがとう存じます。私は私ができる範囲で抗ってみます。娘が幸せな人生を歩む事が私と妻の幸せです」
「君も親になったもんだな……立派だ。私は甘すぎたようだ。すぐに調べはつく」
「え?」
「全てが終わった暁には酒でも呑もうじゃないか。君とはお茶しか飲んだ事がないだろう?」
……そりゃ学生時代だから酒は呑まないだろう。いや、陛下以外とは呑んだことはある。
「それは楽しみです」
「君は娘を信用しているんだな」
「はい。初めの婚約を決めたのは私でしたが娘の相手にはなりませんでした。次は失敗したくありません」
「同感だ。相談は受け付けた。嘆願書とされると数ヶ月かかるが面と向かって言われ、エリックも関わっているとなるとすぐに行動に移さねばならんな。客人も来るから……忙しいな」
……余計な仕事を増やしてしまったが、頭を下げた。
「陛下にしか相談が出来きませんでした、申し訳ありません」
「今はプライベートで話をしているから頭など下げるな。私が介入してまで婚約をさせたくないのだろう。エリックのせいではないか! ここは親としてしっかり調べておくから安心しろ」
家族の事……と言いつつ私は自分の事しか考えていないのかもしれない。相手の親、陛下に頼んだのだから。
私は離婚なんて絶対にしない! 伝手を使ってでも!
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