上 下
18 / 100

さすが王宮図書館です

しおりを挟む
 それから学園で殿下に会うたびに声をかけられるようになりました。


「リュシエンヌおはよう。良い天気だね」

「おはようございます。本当にいいお天気ですわね」

 一緒にいた親友セシリーは驚いていましたわ。急に殿下に声をかけられたのですから……頭を下げて挨拶をしていました。


「リュシエンヌの友達? ここは学園だから畏まらなくて良いんだよ? 急に声をかけて悪かったね。ところで次に王宮図書室に来る予定はある?」

「週末に行きたいと思っています」

「そうか! 良かったらランチを一緒にどうかな?」

 ……どうと言われましても、いえ、お断りしましょう。

「申し訳ございませんが、前回は本のタイトルだけを見て満足してしまいましたので今回は本を読みたいと思っておりますの」

「……そうか。それなら終わった後にお茶でもどう? 迎えに行かせるから」

 ……断れないということですか? セシリーもいるので殿下のお断りを無下には出来ませんわね。


「少しでしたら」

「楽しみにしているよ、それじゃあ週末に」

 手を振り去っていく殿下の後ろ姿をセシリーと見送る。


「リュシエンヌ、いつ殿下と気安くお話しする仲になったの?」

 気安い感じはないのだけれど……緊張もしますし、よく分かりませんし。

「婚約破棄の時に殿下が立会いをしていて……殿下はコリンズ子息と友人だったの。その後謝罪を受けて……殿下が何を思っておられるのか全く分からないのだけど、悪い方ではないと思うの……」


 親友のセシリーには素直に伝えておくことにします“悪い方ではないけれどよくわからない人”です。


「今の話し方だと殿下はリュシエンヌに気があるようにも思えるけれど……」

「それはないわよ! 婚約破棄の立会をしたのよ? 婚約破棄された子に気があるもの好きがいると思う? もしそうなら……悪趣味ね」

「……そうね。ないわ、ごめん」

 ……ぷっ。ふふふっ……二人で笑いあいました。あり得ませんもの。


 ******

「どれが分かりやすいのかしら……?」

 週末になり、王宮図書館に来たのは良いのですが、古代語の勉強にはどの本が良いのか悩んでいました。司書様に聞きに行こうと思った時でした。

「おや、君は……モルヴァン嬢じゃったな」

「……陛下!」

 すっとカーテシーをする。

「これ、わしはいまプライベートなんじゃ。仰々しく挨拶する必要はないぞ」

「いえ、でも」

 ……どうしましょう! 頭を上げられませんわ。

「頭をあげてくれ、同じ本好きとして同士ではないか。それより何か言うておったが何かを探しているのではないか?」

 陛下は本が好きで、学園も王立図書館も蔵書が多く、教会での教えもあり国民の識字率が高い。


「……恐れながら、古代語を勉強しようと思いまして、初心者でもわかるような優しいものを探しておりました」

 ……声が震えているのが自分でも分かりますわ。凄く緊張していますの! 今までの人生の中で一番ですわ。

「古代語を学びたいのか?」

「はい」

「そうじゃな、それならば確か……おぉ、あった。これじゃこれじゃ」

 そう言って本を一冊渡してくれました。

「これは……?」

「わしも小さい頃から古代語を学んでおってまず最初に勧められたのがこの本でな、懐かしいのぅ。わしがこの本を勧めたのは君が三人目だ」

「……失礼します」

 本を受け取り、一ページ二ページと捲ってみる。

「わぁ。こう言う意味だったのですね! 法則が分かるとなんとなく分かってきました。とても分かりやすいですのね」

 嬉しくてつい笑顔で顔を上げると陛下も笑みを浮かべてくれていた。感情を出さないと思っていた陛下でしたがこのように朗らかに笑う方だった。


「はっはっは……モルヴァン嬢は珍しい令嬢じゃの。古代語にも興味があるんじゃな」

 令嬢が古代語に興味があるなんて確かに珍しい事で、授業で行う内容でもないですもの。

「お恥ずかしいです」

「それならわしも恥ずかしいという事になるぞ?」

「まぁ! 失礼を申してしまいました……」

 ……ど、どうしたら良いのかしらっ! 陛下になんて事を!

「ははっ、気にするでない。わしがいると落ち着かんだろうから、そろそろ戻る事にする。君はゆっくりしていきなさい。君のような勉強熱心な若者を見るのがわしは好きでたまに忍んでくるんじゃ。内緒だぞ」

「まぁ。お忍びですのね? 陛下の周りの方は今ごろひやひやとしているのではないですか?」

 ……息抜きをしたくなる気持ちもわかりますが、その、周りの方はいい迷わ、いいえ。やめておきましょう。

「君のいう通りでよく怒られるんだが、執務室にずっといても肩が凝る……たまには大好きな書物に囲まれたいと思っても良かろう? それに既にバレておる」

 陛下が指をさす方向には陛下の側近? と思われる方がこちらを見ていました。

「……お顔が怖いですね」

「目を通さなければいけない書類が残っておるからな……仕方がない。戻るとするか」

 歩き出す陛下にお礼を言う。

「陛下、お話ができて光栄でした。本日はこちらの本を読みたいと思います。ありがとうございました」

「わしも楽しかったぞ、それではな」

 陛下の姿が見えなくなるまで頭を下げていました。王宮の図書館には陛下もお見えになるのですね……

 セキュリティが万全なのがよーく理解出来ましたわ。私の侍女も護衛も中に入る事が出来ませんもの。それだけ厳重と言う事です。

 陛下とお話し出来たことに感動していたら、エリック殿下との約束の時間が迫っていました!
しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。 一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。 結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。 一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。 「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が! でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません! 「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」 ※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※クズがいますので、ご注意下さい。 ※ざまぁは過度なものではありません。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...