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そして誰もいなくなる

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「ねぇ、お屋敷の中静かじゃ無い?」

 アナベルが出て行ってすぐに自室に戻る。むしゃくしゃしてソファに横になり少し目を瞑っていた。


 能天気な声が聞こえてきた。

「……そうだな」


「看護師もこの時間なのに来ないし、そろそろ食事の時間なのにね」


 昼前になると看護師が来て検温などなんだとしにくるはずだ。その後食事となる。と言うのがここ最近のルーティンなのだが……。


 誰も来ないとは……

 食事を持って来ないなんてまた嫌がらせに決まっている! 


「アナベルもいない事だし久しぶりにコックに言ってコース料理でも作らせるか。美味いものを作らせよう!」


「やったぁぁ!!」



 クララと食卓へ向かうと、おかしな事に誰とも会う事がなかった。


「おかしいな……」


「なんか変ね」


 食堂へ行くと鍵が閉まっていた。



 鍵を閉めるのが本当に好きな家だな……。


 どれだけ不審者を警戒しているのか? 最近王都は物騒だ、と新聞にも書いてあったから仕方がないのか?



 廊下を飾っていた高級そうな壺や絵画も全て無くなっていた。
 豪華なサロンのような廊下は、無機質な廊下に様変わりしている。


相変わらず全ての部屋には鍵が閉められていたし、調理場すらも閉まっていた。




 そして誰一人いない屋敷……



「おい! 誰かいないのか!」

 かぁかぁかぁかぁぁぁぁぁ……と響く声。返事はない。




「全く! なんと言う事か。嘆かわしい! 俺がいるのに食事の支度もしないなんて! 誰か見たら文句を言ってやる」

 ふと外を見ると庭師が仕事をしていた。いるじゃないか! と庭師に声をかけた。



 パチンパチンと枝を切る音が響く。



「おい! そこの庭師!」


 くるりと振り向く庭師の青年。


「何かご用ですか?」


「用も何も! なぜ人がいないんだ! 誰もいないなんておかしいだろう!」


「あぁ……お嬢が出ていくと言ったので、みんなも出て行きましたよ」


「はぁ?」


「一体どこに!」


「この屋敷から出て行っただけですよ。その辺にいるでしょう」



 使用人の住居棟を指差す庭師の青年



「お前はなぜ一人で仕事をしているんだ?」


「こんな広い庭、一日放っておいたら後が大変なんですよ。今日サボった分を補填するには三日、いや五日はかかるでしょう。それなら今日やっておかないとあとで困るのは僕ですからね。庭の管理は僕に任されているんで好きにさせてもらっています。それでは忙しいので失礼します」


 パチンパチンと作業に戻る庭師。



 仕方なしに住居棟を尋ねると若いメイドが出てきた。クララの世話をしていた子だった。


「おい、何をしている、職務怠慢か? 首にするぞ」

 少し脅すように少女へ言った。

「ふぇ。ふえぇーーん」

 泣き出してしまった。すると先輩メイドが出てきて若いメイドを中に入れた。


「こちらに何の御用でしょうか?」


 厳しいと目を向けるメイド、生意気だ! アナベルと結婚したらすぐ首にしてやろう! 紹介状もなしでここから出ていくが良い!



「屋敷に誰もいないようだが? お前たちはここで何をしている?」


「何をおっしゃっているか存じ上げません」


「なぜ誰も働いていないんだ?!」

 ここまで言えば流石に分かるだろう


「私どもの主人はクレマン侯爵家です。タウンハウスの主人であるお嬢様が居なくなった以上お屋敷に足を踏み入れることは致しません」


「なんだとっ! 主人が居ないのではなく、今は私が主人代行だぞ! そのお嬢様の旦那になるんだからな。それに主人が居ない屋敷を守るのもお前たちの仕事だ! そっちがそういうつもりならクレマン侯爵に言ってやろう! 職務怠慢な使用人なんぞいらんとな!」


 どうだ! 恐れを成したか!


「この住居棟はゲストの方がいらっしゃる場所ではありません。どうぞお引き取りください」


 九十度のお辞儀をするメイド! バカにしているのか!


「伯爵家から連れてきた私の使用人はどこだ!」


「ドロン伯爵家の元使用人の方々は現在休暇中でございます。それに現在は侯爵家に籍を置いております」



「ちっ! どいつもこいつも! 一人くらいおらんのか!」


 チラッとこのメイドの視線がクララを見た


「クララは使用人ではない! 私の、」


 私の……?


「はい、どうぞ続きを」


「私の……私の幼馴染で、病弱で、守るべき大事なゲストだっ!」


「はぁ。左様でございましたが。それでは失礼致します」


 また九十度のお辞儀をして鍵を閉めた。


 仕方がない。街に出る事にしよう。と思い馬車を出させようとしたら、馬車が一つも無いではないか!


 馬丁はいたので話を聞いた。私は馬の管理をしているだけです。


 なんなんだ! こいつらは! 全くどいつもこいつも!



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