上 下
2 / 17

領地へ向かいます。

しおりを挟む

「暑いわねぇ……」

 いくらサマードレスとはいえ、夏は暑い。

 今はサマーバケーションで学園はお休みです。貴族学園の夏季休暇は長いので、その間に与えられた執務をこなし社交を行い……と学生ながらに家を継ぐと言うことは大変な事なんです。


 うちは侯爵家と言う家柄で、子供は私と歳の離れた妹がいます。

 現在私は十七歳で妹は十歳。両親とともに領地で暮らしています。


 我が家の領地は王都からそこまで離れていないので馬車で半日ほど揺られれば着くのです。

 王都からも近く過ごしやすいと言う観点から人口も増えていますし、ここで一泊して朝出発すると昼頃には王都に着くので、利便性もよく宿泊客がとても多いのです。

 宿も飲食店も多いので、いつも賑やかな雰囲気です。


 変な商売をしている者には罰則が厳しい我が領土! 王家から疑われるような事は一切致しません。というのも……他国からの行商人も多いので、密売人などもたまに紛れ込んでしまうからなのです。


 自警団も雇っていますし、彼らの仕事は王家の近衛騎士にも負けていないのではないかと思うほどに優秀なのです。


 お父様とお母様は、領民にも慕われていますし、おじいさまは前陛下の右腕として存分に国へ貢献していましたので、我が家は王家の信頼もあります。


 お父様は婿養子で、お母様が当主ですが二人は幼馴染で仲が良く、娘の私から見てもとても仲睦まじく優しい両親です。



 ……仕事には一切妥協をしない両親なので、叱られることも多々ありましたけど、私は教えを乞う立場……そこも含めて尊敬する両親です。




「はぁ。疲れた」



「お嬢様、おかえりなさいませ」


 領地の屋敷について執事やメイド一同が迎えてくれました。


「ただいま帰りました。やっぱり領地の屋敷は落ち着くわね……」



 王都はザワザワとしていて物騒な面もあります。門の外には門番もいますし、屋敷の周りを警備する者もいます。不審者が入ってきたら大変ですもの。


 両親が領地に行っている事は知られているので娘である私を誘拐しようとしたり、強盗に入ろうとしている者は秘密裏に消されることもあるようです。

 処理が終わってから聞いても恐ろしい事に変わりはありませんけどね。



「ベル、おかえり」
「ベル、よく来たわね」
「お姉様ー! おかえりなさい!」



「ただいま帰りました。変わりはございませんか?」


 両親と妹にハグをしました。


 お父様はグレーヘアーがトレードマークの紳士と言った感じで、瞳がエメラルドに例えられるほどに美しい瞳なんです。


 お母様はアッシュブロンドでヘーゼルの瞳を持つ美しい自慢のお母様です。
 何代か前の王女様が降下して、我が家に嫁いだこともあり王族の血統も受け継がれているのです。

 このアッシュブロンドはクレマン侯爵家の家系でよく見られる髪色です。クレマン侯爵家=アッシュブロンドと言われるほどです!


 私はお母様譲りのアッシュブロンドに、お父様譲りのエメラルドの瞳を持って生まれてきました。


 妹のヴィヴィアーヌは髪の毛はお父様譲りの、シルバーグレーといった感じかしら? とても愛らしい容姿です。


 
「さぁさぁ、休憩にしましょう、ベルは冷たい物の方が良いわね。暑い中お疲れ様」


 お母様に言われて風がよく通る涼しいパティオへと通された。

 ここは私もお気に入りの場所で領地に帰るとこのパティオで長い時間過ごすことが多いのだ。


 緑も多く植えられていて風が吹くとサワサワと葉がすれあう音も心地が良い。


「どう? ジェラール様と過ごしてみて、彼は執務についていけそう?」


 お母様の言葉に詰まるように答えました


「そう、ですね、どう? と言われましても、」


 うーん。うーん……なんて言おう?


「ベル、どういう事だい? この書類を見る限り執務はこなしているようだが」


 ベルとは私の愛称です。両親が私を呼ぶときにはベルと呼びます……。


「ジェラール様はね、まず屋敷に慣れたい? と仰ってまだ執務に手は付けていませんの」


「なんだって? 伯爵が早く侯爵家に馴染めるように執務を教えてやって欲しい。とうちに越してきたというのに! 一体何をしているんだ!」


「何を……と言われましても……私も執務を手伝ってもらいたくて何度もお誘いしましたのよ。今日もこちらに来るようにとお誘いましましたし……」


 両親とヴィヴィははっとした顔をしました


「そういえば、ジェラール様はどうしたの?」




 お母様? 今気が付きましたのね。ジェラール様は影が薄い事……。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

幼馴染みに恋愛感情がないのは本当みたいですが、だからと言って何をしても許されるとは思わないでくださいね。

ふまさ
恋愛
「女性の中で一番愛しているのはきみだけど、すべての人間の中で一番好きなのは、アデラかな」  婚約者のネイトは何の悪びれもなく、そう言って笑った。  ネイトの元恋人から、どうしてネイトと別れたのかを聞かされたエリンの心が揺らぐ。けれどネイトは、僅かに残る想いを見事にぶった斬ってくれた。 「ねえ、ネイト。わたし、公爵令嬢なんですよ。知っていましたか?」

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

手切れ金代わりに渡されたトカゲの卵、実はドラゴンだった件 追放された雑用係は竜騎士となる

草乃葉オウル
ファンタジー
上級ギルド『黒の雷霆』の雑用係ユート・ドライグ。 彼はある日、貴族から依頼された希少な魔獣の卵を探すパーティの荷物持ちをしていた。 そんな中、パーティは目当ての卵を見つけるのだが、ユートにはそれが依頼された卵ではなく、どこにでもいる最弱魔獣イワトカゲの卵に思えてならなかった。 卵をよく調べることを提案するユートだったが、彼を見下していたギルドマスターは提案を却下し、詳しく調査することなく卵を提出してしまう。 その結果、貴族は激怒。焦ったギルドマスターによってすべての責任を押し付けられたユートは、突き返された卵と共にギルドから追放されてしまう。 しかし、改めて卵を観察してみると、その特徴がイワトカゲの卵ともわずかに違うことがわかった。 新種かもしれないと思い卵を温めるユート。そして、生まれてきたのは……最強の魔獣ドラゴンだった! ロックと名付けられたドラゴンはすくすくと成長し、ユートにとって最強で最高の相棒になっていく。 その後、新たなギルド、新たな仲間にも恵まれ、やがて彼は『竜騎士』としてその名を世界に轟かせることになる。 一方、ユートを追放した『黒の雷霆』はすべての面倒事を請け負っていた貴重な人材を失い、転げ落ちるようにその名声を失っていく……。 =====================  アルファポリス様から書籍化しています!  ★★★★第1〜3巻好評発売中!★★★★ =====================

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

『完結』番に捧げる愛の詩

灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。 ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。 そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。 番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。 以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。 ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。 これまでの作風とは違います。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...