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番外編

レナートとアレ

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「おい! ここはどこだ! 扉を開けろ!」

 どんどんと扉を叩く音。はぁっと深呼吸をして扉を開けた。

「レナートか? おい、ここはどこだ」

「ここはロレンツィ侯爵家の邸内の一室です」

 クラウディオはレナートに詰め寄る。

「おい、フランチェスカに会わせてくれ」

「奥様にお会いしてどうなさるおつもりですか? それと奥様のお名前は決してお呼びしないように!」

 厳しい視線をクラウディオに送るレナート。

「生意気な! 私を誰だと思っているんだ! 主の言うことが聞けないのか!」

「お言葉ですが、私の主はロレンツィ侯爵のウィリアム様と奥様でございます。あなたは今や王族ではなく平民で私の雇い主ではありません」

 パシッ! と手を払い除ける。

「まずは見苦しいので、湯浴みをしてください。その後食事を出しますので、その後にまた来ます。決してこの部屋を出ないように……扉の外には警備がいます」


 パタンと扉を閉めた。

 まだ私の事を側近だと思っているのだろうか? あれから何年経ったと思っているんだろうか……

 それからシンプルな服を渡し食事をさせた。野菜嫌いのはずがしっかりと残さず食べていたのには驚いた。

 髪が伸び髭はそのままだが顔は元々整っているからワイルドに見えなくもない。

 無言のクラウディオを見て一旦部屋を出る事にした。すると扉の外にいる警備が言った。

「ウィリアム様がご帰宅されました。奥様に挨拶をしてからこちらにこられるようです」

「分かった」

 お茶の準備をしてウィリアムを待つと程なくしてウィリアムが来た。



「あれの様子はどうだ?」

「大人しくしています」

 頭を下げるレナート。ガチャと扉を開けウィリアムと共に部屋に入る。

「なんだ、ノックもなしに入ってくるのか? 礼儀も何もあったもんじゃないな」

 ウィリアムとレナートを睨むが怖くも何もない。


「口答えする元気はあるんじゃないか。お前に質問だ。なぜここにきた? お前は平民だろ? 貴族の家になんの用もなく来るなんておかしいじゃないか」

「たまたま通りかかっただけだ。行くところがない、しばらくここで世話になる」

「それを決めるのはお前ではない……だが、まぁいいだろう。行くところがないのなら仕事の世話をしてやろう」


「はっ! 婿養子のくせに生意気だな。本来は私がこの家の当主だったんだぞ! フランチェスカは私の婚約者だった。それをお前が、」
「お前がこの家の当主になる日はない、妻の名前を呼ぶなと何度言えば分かる? 私は妻のことになると気が短くなるんだ。いいか? 仕方がなくお前をと言っているんだ。もう一度言うぞ? 命が惜しければ妻のことを名前で呼ぶな」


 騎士団副団長でもあるクラウディオの兄ですら恐る殺気をだすウィリアム。フランチェスカの事を出されるとこうなってしまう……怯えるクラウディオ

「ウィリアム様、その辺で……」

 レナートに止められる。


「お前の甘えたその根性は直らないようだな。そりゃ愛したはずの女も逃げ出すだろうな。お前はまだ自分の立場をわかっていないのか? 王族でもなければ貴族でもない。家族に見捨てられた哀れな王子だ」

 言っている事は酷いがこれは事実だ。しっかりクラウディオに分らせなければならない事。


「ぐっ……」

「甘えたその性格で今のお前がある。自業自得だ。とにかくお前にはこの邸を出て行ってもらう。働かざるもの食うべからずだ。レナート後は任せた」

 そう言ってウィリアムは部屋から出て行った。今はレナートとクラウディオの二人だけ。


「レナート、私はお前から見て哀れか?」

「かつて一緒にいたあの頃のあなたとは違いますから仕方がない事だとは思います」

 否定はしない、立場が変わってしまい今は貴族と平民。

「私がフランチェスカと婚約破棄をしなかったら、こうはならなかったんだろか」

「どうでしょう? もう過去は変えられません。こうなった以上は未来を見据えた方が良いですね」

「お前は……フランチェスカを好いていたのだろう? 私はフランチェスカと二人きりになる事はなかった。必ずお前がいたな」

「奥様のことは今でも尊敬をしています。貴女のような子供と婚約をさせられても努力をし続ける姿を近くで見ておりました。奥様は現在ウィリアム様とのお子様が宿っております。とても大事な時期で貴女の存在を知られるわけにはいかないのです。もしあなたが奥様の前に顔を出そうものなら私は……容赦致しません」

「フランチェスカは元気か?」


「えぇ。とても穏やかに毎日を過ごされています。ウィリアム様と言う存在があってからこそです。ウィリアム様はとても愛妻家でいらっしゃいます。奥様のことになりますと少々手がつけられなくなりますので……いい加減奥様のことを名前で呼ぶのは止めろ! 聞いていて腹が立つ。奥様の名前を呼んでいいのはウィリアム様だけだ。その粗末な頭でも分かるだろう!」

「なっ……、おまえ、」


「なんですか? 私はもうあなたを甘やかすこともしません。正直ウィリアム様が邸に入れた時もそのまま放っておけばいいとすら思った。薄情だと思われても構わない。あなたは自分のことしか考えていない人だから……考え方はかわっていませんね。ウィリアム様はあなたがここに来たということや、あなたの存在が貴族中に知られれば王家の恥となることも鑑みて、あなたをロレンツィ侯爵の領地で面倒を見ると言ったんだ」


「はっ。領地で面倒だと?」


「おまえに仕事を与える」



 レナートはかつての主の名前を呼び捨てにし、命令を下した。
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