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観劇の後は
しおりを挟む「素晴らしかったです。歌手の方の迫力に圧倒されました」
お義兄様にもらったチケットで観劇へとやってきた。迎えにきてくれたウィリアムは私服で、大人の人だと意識してしまった。
男の人と二人きりでどこかへ行った事なんてないもの。
そして観劇の後はカフェでお茶をすることになった。
初めて見る劇中の歌で感動をした。ホールで思っ切り大きな声で歌を歌って高音を響かせて人の心を揺さぶることができるなんて素晴らしいことだわ!
切ない時はか細く声を出し、感情の込め方がプロだわ!
あんなに歌がお上手なんですもの、歌っていて気持ちがよさそうだわ。
「そうですね。素晴らしかったです。観劇なんていつぶりだろうか……久しぶりに王都に戻ってきて、こんなにのんびりと過ごせるのはどれだけぶりか……アンリ殿には感謝しなくてはいけませんね」
「王都にお戻りになるのは久しぶりなのですか? 公子様はどちらに住んでいらっしゃるかお聞きしてもよろしいですか?」
「休暇を楽しみたいので私の事は気軽にウィリアムとお呼びください」
気軽になんて呼べないわよ。立場ある方ですものね。それでも無理です。とは言えない。
「それではウィリアム様とお呼びしてもよろしいでしょうか? わたくしのこともどうかフランチェスカと気楽にお呼びください」
「もちろんですありがとうございます。それでは私も……フランチェスカ嬢とお呼びすることをお許しください」
きっと真面目な方なんだわ。もちろん快諾した。
「先ほどの質問ですが、私は第三騎師団に所属しています。第三騎士団とは主に魔物討伐を専門としています。魔物は王都から離れた国境付近に出たり、自然の多いところに出没するので一年のうちにこうやって王都にいることは少ないんですよ」
ウィリアムの名前は知っていたけれど、顔を合わせたことがなかったのは王都にいなかったからなのね。公爵家だものパーティーなどに出席していてもおかしくはない。
うちは伯爵家だけど一応クラウディオの婚約者だったから高位貴族との交流もあった。
「大変なお仕事ですのね」
「えぇ。しかし部署異動があって第三騎士団所属でも文官寄りの仕事をすることになりそうなのでこれから王都で家探しをする予定なんですよ」
「まぁ。そうでしたの」
「魔物討伐は若い騎士の登竜門のようなところです。あそこで叩き込まれたら他の部署は優しく感じるようですよ」
「それはなぜですの?」
ウィリアムが言うには魔物討伐の間は寝る暇も休日なども存在しない。いつ出てくるか分からない魔物相手だからだという。
それに長い間テント泊になり体が休まる暇もないんだそう。食事は川で釣りをしたり干し肉を食べたりなどとサバイバル知識も披露してくれた。なかなか過酷な生活だ。
王都に住んでいたらそんなことも想像つかなかった。公爵家の次男に生まれて裕福な家庭だっただろうに、若いながらに第三騎士団長になったのだから真面目で努力家なんだろう。
「フランチェスカ嬢は聞き上手でつい沢山話をしてしまいました。こんな話令嬢に聞かせても面白い話ではないでしょうに……申し訳ありませんでした」
恥ずかしそうに言われたけれど実に身のあるお話でもっと聞きたいと思ってしまった。
「ウィリアム様は話し上手ですのね。聞き入ってしましましたわ。それにとても興味のあるお話でしたわ。もっと聞きたいなんて思ってしまいました」
ウィリアム様の顔が驚いたような表情に変わった。私何か失礼なことを?
「……この後お送りするのですが、まだお時間はよろしいでしょうか?」
もうすぐ夕方になる。夕食までには帰宅するという約束で両親からオッケーが出たしウィリアム様もご存じだから、もちろん答えは
「はい、大丈夫ですわ」
それから馬車の中でウィリアム様のご家族の話を聞いた。嫡男の方は既にご結婚されていて公爵家に住んでいるのだそう。
お姉さまもいらして辺境伯の当主に嫁がれたそう。お姉さまもウィリアム様のように剣術に長けていて、辺境伯様とはお互い意気投合してご結婚したんですって!
それでウィリアム様は去年第三騎士団で魔物討伐の際に手柄を立てて子爵の位を陛下から賜ったそう。しかし領地があるわけではなく働かなくては生活できないですよ。と言った。
すごい……十九歳で手柄を立て爵位まで賜るなんて!
「ここです」
ウィリアム様が連れてきて下さった場所は小高い丘にたつ教会の裏。
「わぁ! とっても美しいです」
小高い丘の上からは湖が一望。それに植物が生き生きしていて空気もいいわ!
「今日のように天気がいい日は湖面がキラキラしていて、ほら夕日を浴びると真っ赤に染まるんですよ」
穏やかな湖面の揺らぎに癒されるようだ。初めてみる光景だった。こんな美しい風景が王都にあっただなんて……知らなかった。
「大きくなってからは行動範囲が限られていて、王都でも家と学園と王宮くらいしか行ったことがなくて……今日この景色を見せて下さってありがとうございます。何だかちっぽけな自分が嫌になりました」
「フランチェスカ嬢は頑張りすぎなのかな……なんて勝手に思ってしまいました。君が努力をしていたことは想像にすぎないが王族と遠続になるということは並の努力でないということは理解しています。第二王子とはよく話をする間柄で王族というだけではダメなんだと。上に立つものこそ努力をしなくてはいけない。そう言っていました。
そのことには激しく同意しますし、私の兄も公爵家を継ぐというプレッシャーと闘いながら努力を続けています。努力なしに成功はない……私もそう思います。だからフランチェスカ嬢がちっぽけだなんて私はそうは思えません。ただ…… 少しだけ肩の力を抜いてもいいのではないかと思いました」
努力なしに成功は無し。私もそう思う。がむしゃらに頑張ってきたことは無駄じゃなかった。心からそう思った。
「……ありがとうございます」
婚約破棄をしてから初めて涙が流れた。
それから家に送ってもらい、落ち着いたところで恥ずかしくなり激しく後悔をした。
涙を流してハンカチを貸してもらうという経験も初めてで……ってこのハンカチ返さなきゃ!!
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