上 下
8 / 48

子供の頃2

しおりを挟む

あの日からアルベルと会うことがなかった。

 アルベルと仲良くする事を兄も母もよく思っていない。
 悲しい思いはしていないだろうか…

 アルベルが登城していることは知っている。学園へは貴族が十三歳になると通うことになる。
 アルベルも私もまだ十歳。その間は家庭教師が付いて自宅で学ぶことになるのだが、アルベルは公爵と共に登城している


 剣術の授業が終わり中庭を通って近道をしようとしたら、アルベルが居た。後ろ姿でもピンクの髪の色は目立つ

 声をかけようとしたら、もう一人の兄がアルベルと話をしていた

「良いんじゃない?まだ兄上は学園から帰ってきていない、お茶をしよう」
 
「ビクトル様、ごめんなさい…行かなきゃ」

「私はアルベルティーナの泣いている顔を見たくない、どうしていつも隠れて泣いている?」

「…わたくしが不出来だから、上手く出来ないから、教えてくださる教師の方に熱が入ってしまって」

「アルベルティーナは不出来なんかじゃないよ。十歳でこんなに出来る子はなかなか居ないし、つい期待してどんどん先に進めたがるんだよ」
 頭を撫で、慰める兄の姿、それは私の役なのに


「でもアルベルティーナを泣かせるなんて許せないよ、兄上は知っているの?」

 ピンクの髪の毛が左右に揺れる

「そうなの?辛いことがあったら私に言って、必ずアルベルティーナを助けてあげるからね」


 アルベルはきょとんとした顔をしているが、次男であるビクトル兄もアルベルを気に入っている。公爵家という後ろ盾も大きいのだろうが気に食わない

 兄がアルベルの手を取って歩きだしたら丁度ベルナルド兄が帰ってきた


「ビクトル、なぜアルベルティーナと一緒にいる?」

「そこでアルベルティーナと会ったからですよ、今からそちらに連れて行こうと思っていたところでした」
 しれっと答えるビクトル兄

「ティーナ、おいで。なんで時間を守れないんだ?」

 不穏な空気を出す二人の兄王子達に挟まれいる

「申し訳、ございません、っ」
 あー…アルベルが泣いた

「私がアルベルティーナを呼び止めたからですよ、彼女は悪くないですよ」

「……言いすぎた、まだティーナは十歳だから分からないと思うけど、でももっと頑張ってほしい。ごめんな」


 返事をしないアルベルは下を向いた。それでも兄はアルベルの手を引いた。
 大きな瞳が涙で溢れている…それに気がついたようで、少し慌てていた

「…部屋で話をしよう」と言って自室へと連れて行った


 ビクトル兄はくそっ!と言って地面を蹴飛ばしていた




 ベルナルド兄とアルベルティーナはまだ婚約をしているわけではない。

アルベルと話がしたい、間に合ううちに


 月に一度、年頃の令嬢を招いてのお茶会が開かれる、母の意向だ。
 私もビクトル兄も呼ばれて珍しく三人の王子が揃ったから会場は令嬢達の熱気が凄かった…

 アルベルの元へ行きたいのに中々チャンスがない、兄上達もアルベルの元へ行けないようだ。
 アルベルは歳が近い令嬢達と同じテーブルを囲んでいて楽しそうに笑っていた

 可愛い令嬢たちに囲まれるのは悪い気はしないけどアルベルが気になった。いっそのこと一緒に取り巻いてくれれば良いけど、まぁ、無理だろう…

 ふとアルベルの居たテーブルを見るとそこには姿がなかった…手洗いにでも行ったのか?二十分が過ぎただろうか…まだ戻ってこない。心配になり探しに行くと、兄上達の婚約者候補と呼ばれる令嬢数人に、囲まれていた



「小さいくせにベルナルド殿下に気にかけて貰っているからといい気になって…」
「ビクトル殿下も公爵家の令嬢だから気にかけているのよ」
「調子にのっているではなくて?」
「自分のことをお姫様だと勘違いしているんじゃありません?ユリウス様やイザーク様が優しい事を良いことに!」

「何も言わないのは肯定しているからね、身分が高くて、少し可愛いからと言って男の方を侍らすのは最低な行為なのよ、覚えておきなさい!」


 ムカついた…アルベルはそんなつもりは一切ない。私たちが勝手にアルベルと居るだけだ。そんな暴言を吐いてアルベルを傷つけるなんて!


「聞いていれば調子に乗っているのはそっちだろう!今の話を兄達や公爵家の人間が聞いたらどうなるか考えていないのか?」

「「「「…メイナード殿下…」」」」

 サッと頭を下げて赦しをこう姿勢だが、許す気はない。

「顔を見たくない、去れ」
 もうどこの家の令嬢か覚えた



「なんでこう、アルベルはいつも泣いてるんだろうね」

「泣いていません」

「もう我慢しなくていい、見ているだけで辛いよ」

「我慢、していません」

「じゃあ、このまま兄上と婚約して結婚していつかは王妃になるの?」

「………わかりません」

「覚悟がないんじゃ無理だよ」

「……だって」

「公爵にちゃんと思っている事を言わなきゃ…みんなアルベルの話を聞いてくれるだろう?」

 政略結婚だと子供の意向は完全無視だろうが、公爵は無理矢理嫁がせることはしない。   
 婚約の話だってうち王家からの申し出だ

こくんと頷いたアルベル

「私はアルベルが好きだ。だから泣いている顔も悲しい顔も見たくない、笑っていてほしいと思う。アルベルが兄上と一緒にいて幸せそうに笑っているなら何も言うつもりはなかったんだ。でも辛い思いをしているじゃないか…さっきも令嬢に囲まれて…」

「わたくしが不出来だから…わたくしが完璧な令嬢だったらベルナルド様やビクトル様に迷惑をかけないのに。お兄様達にも…申し訳ないです」


「言い返せば良いだろ?アルベルは不出来なんかではない。完璧な人間なんて面白くない」

「なんて言うの?侍らすって何?いい言葉じゃないのは分かるけれど…」


「…みんなアルベルが可愛いから、自分たちに頼ってほしいと思っている…だからアルベルを甘やかすんだ。頑張れと応援しているふりをして、依存させている…それではアルベルのためにならない。ちゃんと断る勇気も必要だ」









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

婚約者様にお子様ができてから、私は……

希猫 ゆうみ
恋愛
アスガルド王国の姫君のダンス教師である私には婚約者がいる。 王室騎士団に所属する伯爵令息ヴィクターだ。しかしある日、突然、ヴィクターは子持ちになった。 神官と女奴隷の間に生まれた〝罪の子〟である私が姫君の教師に抜擢されたのは奇跡であり、貴族に求婚されたのはあり得ない程の幸運だった。 だから、我儘は言えない…… 結婚し、養母となることを受け入れるべき…… 自分にそう言い聞かせた時、代わりに怒ってくれる人がいた。 姫君の語学教師である伯爵令嬢スカーレイだった。 「勝手です。この子の、女としての幸せはどうなるのです?」 〝罪の子〟の象徴である深紅の瞳。 〝罪の子〟を片時も忘れさせない〝ルビー〟という名前。 冷遇される私をスカーレイは〝スノウ〟と呼び、いつも庇護してくれた。 私は子持ちの婚約者と結婚し、ダンス教師スノウの人生を生きる。 スカーレイの傍で生きていく人生ならば〝スノウ〟は幸せだった。 併し、これが恐ろしい復讐劇の始まりだった。 そしてアスガルド王国を勝利へと導いた国軍から若き中尉ジェイドが送り込まれる。 ジェイドが〝スノウ〟と出会ったその時、全ての歯車が狂い始め───…… (※R15の残酷描写を含む回には話数の後に「※」を付けます。タグにも適用しました。苦手な方は自衛の程よろしくお願いいたします) (※『王女様、それは酷すぎませんか?』関連作ですが、時系列と国が異なる為それぞれ単品としてお読み頂けます)

逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜

みおな
恋愛
 私は10歳から15歳までを繰り返している。  1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。 2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。  5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。  それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

処理中です...