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犯人確保?

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「そろそろ食事にしましょうか」

 照れくさいけれど手は繋いだままだった。

「そうですね」

 思い返してみると異性と手を繋いで歩いた思い出が……

「あったわ。ジェレミーよ」

「ジェレミー殿がどうかしました?」

 声に出ていた!

 ちょっと視線を外しながら正直に答える。一応婚約者もいたし、いい年をしているのに弟(小さい時)以外と手も繋いだ事もないなんて……情けない。


「えっと、誰かと手を繋いだ事があったかな。と。ジェレミーとは繋いだ事があると思い出しまして」

「あぁ、なるほど。私は……ん、ジェシーとクララ……ですね。ジェシーは一応男だからクララか」

 苦笑いするアーネスト様とくすくすと笑い合った。私だけではなかったと安堵し、普通のことなのかもしれないと思うことにした。そしてシートを敷いてバスケットから用意してきた物を並べる。自分でいうのもなんだけど豪華だしお皿もカトラリーもお気に入りを持ってきた。

「言い訳をするとですね、私の青春時代は全て騎士団に取られてしまいましたから」
「私は……勉強ばかりでしたね」

 青春ってなんだろう。二人で遠い目をする。

「いや、でもアリス嬢はまだ若いではないですか。学生なんですから青春を取り戻せますよ」

 力説されても親しい異性などいないのですよ。婚約者がいましたし、誰も近寄って来ないし。

「まぁ、そうですよね」

 青春を取り戻せるとは思えない。

「何かしたい事とか夢はなかったのですか?」

「子供の頃から両親の姿を見て外国に触れてきましたから、そういう仕事をしたいと思っていました」

「なるほど、それは……」
「アーネスト様、どうかされましたか?」

 厳しい目つきになって声も低い。

「ははっ。罠にかかったようです。こちらに向かってきます。アリス嬢失礼」

 え! アーネスト様が私の肩に触れてきた。
「我慢してください」

 こそっと耳元で言われるものだから心臓がうるさく鐘を打つ。そして私を抱き上げた。

「このやろうっっっ! アリスフィア様を離せっ!」

 突進してきたのはクレマン子息だった。そしてどこから出したのか剣を振ってくる。

 ブンブンっと風を切る音が聞こえる。

「素人丸出しだな」

 アーネスト様がボソリと言ってクレマン子息のお腹を思いっきり蹴飛ばした。ドンっとすごい大きな音と共に身体にもずしんと振動を感じた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

「きゃぁ」

 クレマン子息は宙に舞いそしてあっという間に地面に叩かれ騎士達に取り囲まれる。騎士達の連帯感が凄い。持っていた剣はクレマン子息の足に命中して、流血が見られる。クレマン子息の仲間三人も腕を拘束されていた。

「アリス嬢、急に抱き上げてしまいまして申し訳ありませんでした」

 そういってアーネスト様の手により地面に降ろされたのだけど……それよりも。

「……犯人はクレマン子息でしたの?」

「はい。今頃ブラック伯爵とクレマン子爵が話し合いをしていると頃かと……」

「お父様もご存知でしたのね……クレマン子息はどうなりますの?」

「脅迫だけだと禁固刑か良くて拘留でしょう。しかし私達に怪我はなかったけれど、丸腰の相手に剣を振り下ろした事で殺人未遂も追加されれば子爵家を継ぐのは難しいと思います。なるべく穏便に済ませたいとは思いますが……」

 街中で捕物帳をしなかったのはそういう意味を込めて……

「あぁ! なんという事でしょう! せっかくアリス嬢が用意してくださったのに!」

 用意してきた食べ物が散乱している。食事中のことだったのですから仕方がないですわよね。

「まだ全部食べ終わってないのに……」

 肩を落とすアーネスト様。そんなにお好きなものがあったのでしょうか。

「こんなものでよければいつでも用意します」

「本当ですかっ! 約束ですよ」

「えぇ、それより、クレマン子息の件ですよ」

 あまりにもあっさりと捕まるものだから驚いて動けないしクレマン子息がこんなことをする人だったなんて……

「こんなことを言うと変に思われてしまいますが、仲間も子息も素人だったんですね。街中で暴れられると市民に迷惑がかかると思い屋外の人のいないところを選んだのですが、大掛かりすぎましたね」

 
 びっくりしたりショックだったりで足に力が入らずその場にしゃがみ込む。

「アリス嬢! どうしました」

「足に力が……」

 脅迫状を知り合いが送ってきて、血眼で剣を振り回す。ちょっと時間が経って思い出したら怖くなってきた。

「無理もありませんね。申し訳ありませんでした。あなたを守ると約束をしたのに怖い目に遭わせてしまいました」

 ふるふると頭を振る。

「帰りましょうか」 

「はい」

「アリス嬢、歩けますか?」

 アーネスト様の手を取り立ち上がった。

「一度座って落ち着いてから馬車に向かいましょう」

「……はい」


 その後アーネスト様の手を借りてなんとか馬車に乗り込み家に帰ったのでした。

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