74 / 93
久しぶりのアリス嬢
しおりを挟む
「本日はお招きいただきありがとうございます。先日はお店の選択を間違えてしまいました。もっと気楽に食事ができるところを探しましたのでまた是非」
高級レストランに行った時のこと、知り合いとちょっと食事するには値段が張る。
「いいえ。それなら先に言ってくださればちゃんとしたドレスで行きましたのに。アーネスト様は最近お忙しいようですがわざわざお呼び立てしてしまい申し訳ありません」
これは何か嫌味が含まれていいるとか? まさかアリス嬢の友人シーラ嬢が何かよからぬことを……っていやいや彼女はそんなことを言いふらすような人物には見えなかったぞ。
「とんでもありません。お誘いいただき嬉しいですよ。これはあなたに」
箱を渡した。
「お気遣いありがとうございます。開けてみてもよろしいですか」
もちろんです。と返事をした。何を手土産にしようかと頭を悩ませ、他国で修行してきたというフラワーショップに行き着いた。花というのは花束で渡すのが普通だと思っていたがこの花は箱にびっしりと詰められた色とりどりの花が見るものを虜にする。
「素敵ですわ! こんなアレンジ初めてみました」
ほっとした。最近できたばかりで店自体は宣伝をしていないようだった。放っておいても人気のショップになるだろう。なんせ世話がしやすく花持ちがよくそのまま飾れるのだから。
「喜んでいただけて良かったです。令嬢に何をプレゼントすれば喜んでもらえるのか私にはわかりませんので」
今まで女性にプレゼントなどしたことがなかったな……情けない。
「ふふ、お気遣いいただきありがとうございます。本日はアーネスト様にお話ししたいことがありますの。聞いていただけますか?」
「もちろんです! 何か困ったことでもありましたか? 私にできることがあればなんでも言ってください」
話とは外出を控えている理由なのだろうか。
「天気がいいのでテラスでお茶をしませんか? 少し気温が高いのでさっぱりとしたものがいいかもしれませんね」
テラスに案内されるとアリス嬢は飲み物の準備をはじめた。とても手際がいい。
「お待たせしましたレモネードですわ」
カランと氷の音と共にグラスを置かれた。見た目にも爽やかだ。
「ミントに蜂蜜が入っているのですね。さっぱりとしていて喉越しがいいですね」
暑い季節にちょうどいい。
「それでお話というのは」
焦りすぎかもしれないが本題に入る。それにしてもこのドリンクはとてもうまい。アリス嬢が作ってくれたから尚更おいしいと感じてしまうのだろうか。
「……実は、先日脅迫状のようなものが届いて────」
は?
質問したいことはあるのだがアリス嬢の説明が終わるまで話を聞いた。
「なるほど。外出を控えていた理由はそういうことですか。その後調査はしたのですか?」
「はい。お父様が密かに調べているそうです。愉快犯という可能性もありますが何があるかわかりませんし」
「その手紙を見せていただくことはできますか?」
アリス嬢のメイドが手紙を持ってきた。手袋をはめて手紙を受け取る。指紋が残っているわけではないのか。
「この文章を作成した人物は、雑な人物ですね。加えて左利き」
定規を使うくらいだからきっちりしているのかと思いきや、最後の方は文字がずれたりスペルが違っていても気にしない人物。字が右下がりになっている。
「お父様もそう言っていました。見ただけで分かるなんてすごいです」
文章や字を見てどういう人物かというのが大体わかる。手紙はヒントになる事が多い。
「アリス嬢、誰かにその、恨まれる事があったりしますか? っといや、言い方が悪いですね。アリス嬢はとても素晴らしい女性ですし、人の前に立つ際などにも非常に気を使っていると思いますが念のため」
「思えばあるようなないような……一般的に王子の婚約者ってだけで羨ましいとか言われていたので一般貴族じゃできないような経験もさせてもらっていました。気に食わない方もいたかもしれませんね」
噂で聞いたのだが○○伯爵家なんかはいまだに根に持っていて、うちの娘だったらこうはならなかったはずとか言っているみたいだ。婚約者を選ぶお茶会で他の令嬢に嫌がらせをしていたのがバレて婚約者候補から外れたから単なる逆恨みだろう。
「この手紙の差出人はアリス嬢に思いを寄せている人物なのでしょうね。だから私が邪魔なのでしょう」
「え! 私はアーネスト様のことを好いている家の方からだと思っていました」
「え? それはないでしょう」
「だってアーネスト様忙しい理由の一つに婚活をされていると……」
な! なんだって!
「していません! 誓って! 確かに令嬢とは会いましたよ。というか紹介されましたが私にはその気がないのですから。シーラ嬢から何か聞いていませんか? 忙しかったのは父の代わりに会議に出たりだとか騎士団の練習に参加したりだとかで……シーラ嬢の父上と雑談をしていたときに語学が堪能な人がいたら紹介してください。などと言ったらなぜかシーラ嬢を紹介されたのです」
「そうでしたの。それは私の勘違いですね」
「単なる噂ですから。もう令嬢を紹介するのはやめてほしいと言ってあります。十三歳の少女まで紹介されて困っているのですから」
十五歳で嫁ぐことも珍しくないのだが、子供にしか見えない。それなのに十三歳……そんな趣味はない。やはり耳に入っていたか。恥ずかしい!
「失礼しました。それならこの脅迫状は……」
「犯人が二人で会っているのを見たら逆上するかもしれませんね。ふむ、それも悪くありませんね」
「どういうことですか?」
「なぜ犯人の思惑通りにしなくてはならないのですか。とっととこの件、片付けてしまいませんか?」
犯人はあいつだろうからとっ捕まえてやろう。こんな脅しに屈するわけにはいかない。陛下が令嬢を紹介すると言っていたが保留にしてもらおう。紹介された後だと相手が可哀想すぎる。
「どうやって片付けるのですか?」
「私に考えがあるのですがアリス嬢にも協力してもらわなければなりません」
協力なくして作戦はうまくいかないから。
高級レストランに行った時のこと、知り合いとちょっと食事するには値段が張る。
「いいえ。それなら先に言ってくださればちゃんとしたドレスで行きましたのに。アーネスト様は最近お忙しいようですがわざわざお呼び立てしてしまい申し訳ありません」
これは何か嫌味が含まれていいるとか? まさかアリス嬢の友人シーラ嬢が何かよからぬことを……っていやいや彼女はそんなことを言いふらすような人物には見えなかったぞ。
「とんでもありません。お誘いいただき嬉しいですよ。これはあなたに」
箱を渡した。
「お気遣いありがとうございます。開けてみてもよろしいですか」
もちろんです。と返事をした。何を手土産にしようかと頭を悩ませ、他国で修行してきたというフラワーショップに行き着いた。花というのは花束で渡すのが普通だと思っていたがこの花は箱にびっしりと詰められた色とりどりの花が見るものを虜にする。
「素敵ですわ! こんなアレンジ初めてみました」
ほっとした。最近できたばかりで店自体は宣伝をしていないようだった。放っておいても人気のショップになるだろう。なんせ世話がしやすく花持ちがよくそのまま飾れるのだから。
「喜んでいただけて良かったです。令嬢に何をプレゼントすれば喜んでもらえるのか私にはわかりませんので」
今まで女性にプレゼントなどしたことがなかったな……情けない。
「ふふ、お気遣いいただきありがとうございます。本日はアーネスト様にお話ししたいことがありますの。聞いていただけますか?」
「もちろんです! 何か困ったことでもありましたか? 私にできることがあればなんでも言ってください」
話とは外出を控えている理由なのだろうか。
「天気がいいのでテラスでお茶をしませんか? 少し気温が高いのでさっぱりとしたものがいいかもしれませんね」
テラスに案内されるとアリス嬢は飲み物の準備をはじめた。とても手際がいい。
「お待たせしましたレモネードですわ」
カランと氷の音と共にグラスを置かれた。見た目にも爽やかだ。
「ミントに蜂蜜が入っているのですね。さっぱりとしていて喉越しがいいですね」
暑い季節にちょうどいい。
「それでお話というのは」
焦りすぎかもしれないが本題に入る。それにしてもこのドリンクはとてもうまい。アリス嬢が作ってくれたから尚更おいしいと感じてしまうのだろうか。
「……実は、先日脅迫状のようなものが届いて────」
は?
質問したいことはあるのだがアリス嬢の説明が終わるまで話を聞いた。
「なるほど。外出を控えていた理由はそういうことですか。その後調査はしたのですか?」
「はい。お父様が密かに調べているそうです。愉快犯という可能性もありますが何があるかわかりませんし」
「その手紙を見せていただくことはできますか?」
アリス嬢のメイドが手紙を持ってきた。手袋をはめて手紙を受け取る。指紋が残っているわけではないのか。
「この文章を作成した人物は、雑な人物ですね。加えて左利き」
定規を使うくらいだからきっちりしているのかと思いきや、最後の方は文字がずれたりスペルが違っていても気にしない人物。字が右下がりになっている。
「お父様もそう言っていました。見ただけで分かるなんてすごいです」
文章や字を見てどういう人物かというのが大体わかる。手紙はヒントになる事が多い。
「アリス嬢、誰かにその、恨まれる事があったりしますか? っといや、言い方が悪いですね。アリス嬢はとても素晴らしい女性ですし、人の前に立つ際などにも非常に気を使っていると思いますが念のため」
「思えばあるようなないような……一般的に王子の婚約者ってだけで羨ましいとか言われていたので一般貴族じゃできないような経験もさせてもらっていました。気に食わない方もいたかもしれませんね」
噂で聞いたのだが○○伯爵家なんかはいまだに根に持っていて、うちの娘だったらこうはならなかったはずとか言っているみたいだ。婚約者を選ぶお茶会で他の令嬢に嫌がらせをしていたのがバレて婚約者候補から外れたから単なる逆恨みだろう。
「この手紙の差出人はアリス嬢に思いを寄せている人物なのでしょうね。だから私が邪魔なのでしょう」
「え! 私はアーネスト様のことを好いている家の方からだと思っていました」
「え? それはないでしょう」
「だってアーネスト様忙しい理由の一つに婚活をされていると……」
な! なんだって!
「していません! 誓って! 確かに令嬢とは会いましたよ。というか紹介されましたが私にはその気がないのですから。シーラ嬢から何か聞いていませんか? 忙しかったのは父の代わりに会議に出たりだとか騎士団の練習に参加したりだとかで……シーラ嬢の父上と雑談をしていたときに語学が堪能な人がいたら紹介してください。などと言ったらなぜかシーラ嬢を紹介されたのです」
「そうでしたの。それは私の勘違いですね」
「単なる噂ですから。もう令嬢を紹介するのはやめてほしいと言ってあります。十三歳の少女まで紹介されて困っているのですから」
十五歳で嫁ぐことも珍しくないのだが、子供にしか見えない。それなのに十三歳……そんな趣味はない。やはり耳に入っていたか。恥ずかしい!
「失礼しました。それならこの脅迫状は……」
「犯人が二人で会っているのを見たら逆上するかもしれませんね。ふむ、それも悪くありませんね」
「どういうことですか?」
「なぜ犯人の思惑通りにしなくてはならないのですか。とっととこの件、片付けてしまいませんか?」
犯人はあいつだろうからとっ捕まえてやろう。こんな脅しに屈するわけにはいかない。陛下が令嬢を紹介すると言っていたが保留にしてもらおう。紹介された後だと相手が可哀想すぎる。
「どうやって片付けるのですか?」
「私に考えがあるのですがアリス嬢にも協力してもらわなければなりません」
協力なくして作戦はうまくいかないから。
66
お気に入りに追加
3,612
あなたにおすすめの小説
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

呪われた指輪を王太子殿下から贈られましたけど、妹が盗んでくれたので私は無事でした。
田太 優
恋愛
王太子殿下との望まない婚約はお互いに不幸の始まりだった。
後に関係改善を望んだ王太子から指輪が贈られたけど嫌な気持ちしか抱けなかった。
でもそれは私の勘違いで、嫌な気持ちの正体はまったくの別物だった。
――指輪は呪われていた。
妹が指輪を盗んでくれたので私は無事だったけど。

異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる